第一章『謎の精神病』(2)
どこかに向かう男の後ろを着いていく。
「なあ、どこに向かってるんだ?」
「ここだよ」
「え、ここ?」
男が指を指した先は、昨日メナと来た喫茶店であった。
「そうだ。名前聞いてなかったね」
「俺はザブル・ヴァーノンだ」
「ザブル君ね。僕の名前は、エイテル・ルーメンだよ」
そして入店する。まだ朝早いので、俺らの他に客は二人しかいなかった。エイテルに「あっちに座ろうか」と言われ、窓際の席に座った。
「エイテル、こんな所に連れてきて何の用だ?」
「少し、君と話したいことがあってね」
エイテルの顔が少し暗くなった。話したい事というのはやはり例の件だろう。
「街の人のほとんどが鬱になってる件の話だろう?」
「話が早くて助かるよ。その通りさ」
このタイミングで、カウンターの奥からマスターが現れた。「いらっしゃいませ」と穏やかな声で言いながら、俺とエイテルの前にお冷を置いた。「ごゆっくりどうぞ」と言い残し、すぐにその場を離れていった。
「さっき、この町も手遅れだったって言ってたよな。って事は他の町でもこんな事が起こってるのか?」
「そうだよ。僕の住んでる町でも、大勢の人が鬱状態さ」
「エイテル、一体何が起こってるんだ?」
俺がそう聞くと、エイテルはコホンと咳をし、俺の目をじっと見つめる。
「これはね。モンスターのボスの仕業だよ」
「……モンスターのボス?」
「そう。言い換えると、今この世界にいるモンスターを生み出した根源だ」
「つまり、モンスターのボスが、何かしらの能力で人間を精神病にしているって事か?」
「そういう事。だからそのボスをどうにかしない限り、町の人の精神状態が元に戻る事はないんだ」
そう言い終えると、エイテルは手にしていたコップを傾け、中の水を一息に飲み干した。
数秒の沈黙が流れる。そして俺もコップの水をグイっと飲み干し、彼の目を見ながら言った。
「わざわざ俺にその話をしたってことは、俺にボスの討伐を協力して欲しいって事か」
俺がそう言うと、彼はニコッと笑みを浮かべる。
「やっぱり話が早くて助かるよ」
彼は机の脇に置かれていたメニュー表を手に取り、コーヒーを選び始めた。視線を落としたまま、彼は俺に言う。
「無理にとは言わない。少しでも気が進まないなら断ってくれていい」
俺は断る気などさらさらない。なぜなら、町の人やメナをあんな状態にした奴を俺は到底許せないからだ。
「いや。もちろん協力する。エイテル、よろしく頼む」
「本当かい?良い返事が聞けて嬉しいよ。こちらこそよろしく頼むよ、ザブル君」
三十分後、俺とエイテルは喫茶店を出た。道行く人がみんな暗い表情をしているのを見て、エイテルは言った。
「ザブル君。三日後の午前八時、正門前。いいね?」
「ああ。分かってるさ」
そして、俺とエイテルは解散した。エイテルは宿のチェックイン時間まで町をブラブラするらしい。
(俺は……とりあえず武器を揃えたいな。これから何度もモンスターと戦う事になるだろうし)
一度家に帰り、二十万ミルを持って武器屋に向かった。この町には武器屋はいくつかあるのだが、俺が向かうのはもちろん前に短剣を買った所だ。
次は何の武器を買おうかと考えながら歩いていると、向こうから、大きな袋を抱えた白髪のショートカットの少女が走ってきた。きょろきょろと周囲を見回しており、何かを必死に探している様子だった。
「なあアンタ、どうしたんだ?何か探してるみたいだけど」
あまりにも困った顔をしていたので、俺は思わず声をかけていた。
「えっ?あの、お兄様、いえ、白髪で若い男の人を知りませんか?今日この町に行くと言っていたのですが……」
(……ん?それってエイテルの事か?)
「その人って、エイテルって名前だったりする?」
俺がそう聞くと、少女は目を大きく見開いて、激しく頷いた。お兄様って言ったし、どうやらこの子はエイテルの妹らしい。
「あの、お兄様のお知り合いですか?」
「まあ、今朝会ったばかりなんだけどね」
「そうなんですか。あの、今お兄様はどこに?」
「それが、二十分くらい前まで一緒にいたんだけど、今はどこにいるのか……でも、この町にはいると思う」
「まだこの町にいるんですね!ありがとうございます!」
そして少女は、再びエイテルを探しに行こうと走り始めたが、一度止まってまたこちらを向いた。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、ノワ・ルーメンと申します。あ、ちなみにエイテルは私の兄です」
「俺はザブル・ヴァーノンだ。エイテルに会ったらよろしく言っておいてくれ」
「はい!」
どんよりと沈んだ周囲とは対照的に、彼女は弾むような足取りで走り去っていった。エイテルがこの町にいることが分かってそんなに嬉しかったのだろうか。
(……さて、武器屋に向かうとするか)
そして五分後、武器屋の前に着いた。俺は少しワクワクしながら扉を開ける。
「いらっしゃい」
カウンターの奥には、全身が岩のように盛り上がった筋肉と、長く伸びた無精髭が印象的な店主が立っていた。この店主は暗い表情をしていないので、例の精神病にはかかっていないようだ。
短剣コーナーに行き、二十万ミル以内で買える短剣を探す。そこには、前に買った五千ミルの短剣もあった。
この五千ミルの短剣は長く使っていて慣れているし、また買いたい気持ちはあるのだが、ベルノスの時みたいに刃が刺さったまま取れないみたいなアクシデントはもうこりごりである。
「あんちゃん。いくらの短剣探してるんだ?」
店主がカウンターから出てきて俺に声をかけてきた。




