プロローグ
いつものように、短剣とその他諸々をポケットに入れて家を出る。向かう先はもちろん役場だ。
この俺——ザブル・ヴァーノンは、役場の掲示板に貼り出された討伐依頼をこなし、それで得た報酬で生計を立てている。
役場前に到着し、入口付近でとある人物を待つ。
「待ち合わせの時刻まで、えーっとあと七分か……」
右ポケットから短剣を取り出し、布巾で刃の部分を拭く。
これは俺が半年前、初めての討伐依頼の前に、町のとある武器屋で買った代物である。その武器屋で一番安い短剣なのだが、今では俺の愛用である。
「いい加減買い換えたら?その短剣」
短剣を眺めていたら、前から綺麗な黒髪の少女がやってきた。この少女こそが、待ち合わせていた人物である。
彼女の名前はメナ・リュミエール。この間十六歳になったばかりの少女だ。綺麗な黒髪と、整った顔立ちが特徴である。
「いや、俺はこれが良いんだ。いくら値段が安くても、俺からしたらこいつの価値はアンタのその高そうな剣より上さ」
「ふーん。まあ何でも良いけど、壊れても私の剣は貸せないからね」
「結構だ。それじゃあ行こう」
二人は役場の中に入り、掲示板の方へ向かう。すると、沢山の討伐依頼が貼られていた。討伐依頼は誰もやりたがらないので、俺たち以外やる人間が少ないのだろう。
「どれにする?いつもは大体三万ミルのやつだし、今日はこの五万五千ミルのやつなんかどうだい?」
「どれどれ・・・ってベルノスじゃない!こんな大きくて恐いやつに勝てる自信ないわ」
ベルノスとは、真っ黒なライオンのような動物で、頭に二本の角が生えているのが特徴だ。
「大丈夫だ。もし勝てなさそうなら俺の後ろに隠れていな。メナの命は俺が身を挺して守ってやるから」
「うーん……分かったわよ。今日はその依頼でいいわ」
俺はその依頼の紙を掲示板から剥がし、受付嬢の元へ持っていく。
「お姉さん。これ」
「ザブルさんにメナさん!おはようございます。討伐依頼ですね。えーつと、今日はベルノスですか!頑張ってきてくださいね!」
そして二人は、受付嬢に案内され、役場の奥のドアに通された。
ドアを開けると、辺り一面に綺麗な草原が広がっている。数日前に近所に住むおばあさんが言っていたのだが、この草原には名前があるらしく、『ルミナ草原』というらしい。
「なあメナ。この草原って実は名前があ……」
「ルミナ草原でしょ?知ってるわよ」
俺が問題にして出そうと思っていたのに即答された。なんだか負けた気がして悔しい。
「さ、流石だなメナ。それじゃあ行こう」
目的地に向かって歩き始めた。
途中に弱いモンスターがちょこちょこいるのだが、依頼を引き受けていない時は極力倒さないようにしている。なぜなら、途中で無駄な体力を使ってしまうと、本命の敵にやられる確率が上がるからだ。だからメナと組む時も、最初に「引き受けた依頼以外のモンスターは極力倒すな」と伝えてある。
歩き始めてから約三十分くらいした時、向こうから少年の悲鳴が聞こえた。
「ザブル!あれ!」
メナが指を指した先に、跪いて泣いている十歳くらいの少年と、その少年の前に、確か討伐依頼料が二万ミルくらいのモンスター『モス・ソルジャー』がいた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!もう攻撃しないからやめて!」
モス・ソルジャーが剣先を少年の喉元に向けた瞬間、俺は走ってそちらに向かい、モス・ソルジャーの顎を思い切りつま先で蹴り上げた。
モス・ソルジャーは後ろに倒れたまま動かなくなっ
た。
「怪我はないかい?」
「あ、ありがとうおじさん!俺めっちゃ怖かったあぁ」
少年は泣きながら俺に抱きついてきた。そして頭を優しく撫でてあげる。
(おじさん……か。俺、まだ十八なんだけど……)
「この子どうする?ベルノスのところまで一緒に連れていくのは流石に危険よね」
「そうだな……依頼をキャンセルして帰るって選択肢もあるけど、キャンセル料が三十万ミルもかかる
し……」
(仕方ない。三十万ミルは流石に高いしこうしよう)
「メナ。今来た道、この子と戻れるか?ベルノスは俺一人でやる」
「ザブル正気なの!?相手はベルノスよ!いつもの三万ミルのモンスターより断然強いのよ!?」
「俺を信じろ。必ず生きて帰ってくるから」
「……分かったわ。絶対に死なないでよ」
メナは不安そうな顔をしながら俺を見送った。
彼女が不安になるのも無理はない。ベルノスは、視界に入った動物を仕留めるまで追い続けるという恐ろしいモンスターなのだ。鋭利な爪、ギザギザな歯、ライオンより一回り大きいサイズ。これを聞いて怖がらない人間は少ないだろう。
「さっさと終わらせて帰るか」
メナと別れて二十分が経過したくらいの時、ついにべルノスの住処である洞窟に着いた。ポケットから短剣を取り出し、軽く手足を動かす。
「出てこい、ベルノス。いるのは分かってる」
すると、洞窟から勢いよくベルノスが飛び出してきた。そして俺の頭部を目掛けて噛みつこうとしてくる。
「おっと危ない!」
俺はすかさず横に避け、こちらを向いてきたベルノスの額に短剣を思い切り突き刺した。ダメージは与えられたが、今一つ火力が足りない。もっと良い短剣なら一撃だったかもしれないが、俺の短剣だと最低でもあと二、三回は必要だ。
だが、ここで悲劇が起きる。
「う、嘘だろおい……」
ベルノスに突き刺した短剣を抜く時、刃の部分だけべルノスの額に刺さったまま取れてしまったのだ。
(クソっ……殴って倒すしかない!)
その後、ベルノスの攻撃を避け続け、隙を狙って、目、手、足の順に攻撃をしていった。
そしてベルノスが立てなくなった時、俺はベルノスの頭頂部を目掛けて思い切り右足のかかとを落とした。
「……何とか、倒したみたいだ」
ベルノスが息をしていない事を確認し、俺は町に帰った。




