目覚める精霊の姫
ルークたちは、カストルと名乗った少女
に案内され、彼女の住んでいる村に来ていた。
カストルはのべつもなしにしゃべっていたが、
ルークたちは笑顔でそれを聞いていた。
おしゃべりな女の子は、エレナで慣れていたのだ。
「あ、ついたよ。おしゃべりはここまでだね」
少女が立ち止った。ルークは背に負ったアンジェを
背負い直しながら、笑顔になる。
ここは、小さな酪農村・ラクレット。
お礼に家の乳製品をごちそうする、と言われていたので、
ルークはかなり上機嫌だった。ルークほどではないが、
ビショップもどこか楽しそうだ。
「ただいまあ~」
何事もなかったかのように村に入っていくカストル。
三日もいなかったのに。とゆうか、『カストルをしのぶ会』
とかいう垂れ幕が張ってあったが、スルーして歩いて行った。
「なあ、カストル?」
「なあに?」
「お前、死んだことにされてないか?」
「だから、命の恩人って言ったじゃん。
一度迷いこむと、あそこは一生出れないって
言われてるんだってば」
カストルはきっぱりと言い切った。特に気にしてはいないらしい。
オレだったらかなりショックだな、とルークは思った。
『カストル!!』
村人たちが一斉に駆けてきた。どの目にも、涙がたまっている。
カストルは村人全員に愛された娘だった。
「みんな、心配させてごめんね、あたし、ちゃんと帰ってきたから!!」
カストルは母親と父親と思われる人に抱きついた。
妹らしき子と、弟らしき子が腕に掴まっている。
「あの人たちが助けてくれたんだよ!!」
全員の目がルークたちの方に集中する。
二人は顔を赤らめてうつむいたのだった。
それからルークたちは大変だった。
「命の恩人!!」だの「神の使い!!」だのと
言う人たちをなんとかなだめ、カストルの家
にたどりついたのだ。アンジェはカストルの
貸してくれたベッドに寝かせた。
「さあ、どんどん食べてよ」
ドドン、とさらに山盛りの乳製品が皿に
乗って出てきた。かなりおいしそうだ。
「こんなものしかないですが」
優しそうなカストルのお母さんが苦笑している。
だが、ルークは好物を前にして目を輝かせていた。
「いえ、これで結構です!! オレ、チーズとか
好きなんで!!」
「とてもおいしそうですよ」
二人は早速食べ始めた。とろけたチーズをパンに
塗り、たっぷりのミルクでいただく。
それは今までで食べたこともない味だった。
独特のくさみもあまりない。新鮮な乳製品の
おいしさを、ルークとビショップはこころゆくまで味わった。
カストルは笑顔で給仕をしていて、これはこういう名前、
とか、これはあたしが作ったのよ、とか教えてくれて、
食事はかなり楽しいものだった。
その時ーー。
「お客様が、お目覚めになりましたよ!!」
一旦様子を見に行ってくれていたカストルの母が、
血相をかえて走ってきた。ルークたちも慌てて走っていく。
カストルがその背を追いかけた。
「う……ここは……」
アンジェは目をパチパチと瞬かせていた。
バサリ、と体にかけられていた羊毛の毛布が落ちる。
驚いたように、女性が後退した。
それから、ホッとしたように笑う。
「よかった!! お目覚めになったんですね!!」
「ここは……どこ、なのですか……」
アンジェはよわよわしい声でたずねる。
女性はこころよく教えてくれた。
「ここは酪農村のラクレットですわ。今、お二方を
呼んでまいります!!」
しばらくして、ルークとビショップが部屋に
駆けこんできた。後ろには、かわいらしい少女もいる。
「アンジェ!! よかった!!」
ビショップは涙目でアンジェに抱きついた。
ルークは泣きはしなかったが、ホッとしたように
方をなでおろしていた。にっこりと少女が笑う。
「あなたアンジェっていうのね、あたし、カストル。
よろしくね!!」
「あ、はい……よろしくお願いします」
アンジェはあいまいに笑っていたが、その場の全員が
目をそらした時、悲しい目をしていた。
ここは、アンジェにとって思い出深いところなのだ。
この少女も母親も、アンジェのことは知らないだろうが。
アンジェは恐縮しながら食事をいただき、カストルの
汚れのない笑顔で癒された。自分の力を確認し、力が
あまりないことを知る。これでは、ルークたちの足手まとい
も同然だった。
「私は、もうルークたちとは共にいけません」
「どうしてだよ、アンジェ!!」
「あの男と戦った際に、力を封じられました。足手まとい
ですから、どうぞどこかに置いていってください」
ルークたちは迷うように目を泳がせた。
カストルが提案をする。
「じゃあ、ここにいればいいよ!! ずっと倒れてたんでしょ?
そんな人をどこかに放っておくなんで、駄目だよ。
ね、お母さん?」
「ええ。狭い家ですが、どうぞいつまでもいてくださいな」
アンジェはすまないと思い断ろうとしたが、二人はかなり
強情でついには了承してしまった。
そして、次の言葉にルークたちは目を丸くした。
「あたしも、ルークたちについてく!! これでも強いんだよ~」
「そんな、女の子を巻き込むわけにはいかないよ!!」
「男女差別はよくないよっ。あんたに命救われなきゃ、
あたし死んでたもん、恩返しさせてよ~」
アンジェでさえ敵わなかったのだから、元々口ベタなルークが
勝てるわけはない。結局カストルに打ち負かされた。
「カストル……こちらに……」
アンジェが真剣な顔で言った。手招きされたので、彼女が
向かっていく。パアアッ、と虹色の光が散る。
それが晴れると、カストルの腕に銀色の籠手が輝いていた。
ルークたちと同じくぼみが十二個ある。
「うわあ、きれーい」
「あなたなら使いこなせるハズです。がんばってくださいね」
「「「行ってきます」」」
三人は笑顔で村を出て行った。差し入れとしてもらった
乳製品やパンを大量に荷物におさめながら。
彼らは知らなかった。笑顔で三人を見送ったアンジェが、
力の使いすぎでまた倒れたことを……。
今回はエレナの登場がありませんでした。
次回も多分ありません。
新キャラが出た分、彼女の出番は
減りますが、絶対に次回の次回は
出しますので見てください。