新たな出会い
ルーク=ウレイアは今日も剣の素振りをしていた。
銀色の剣は、輝きが曇ってしまっている。
精霊たちがいないからだな、とルークは思った。
精霊たちに認められた証の石、
〝プリュネル〝も光がなくなっている。
「ルーク!! アンジェがまだ目覚めないよ!!」
おさななじみのエレナ=ルクウィッドの弟、
ビショップが走りこんできた。ぶつかりそうになり、
慌ててルークがよける。
「気をつけろよ!! ……アンジェの様子はどうだ、ビショップ?
苦しそうか?」
「ううん、それはもう大丈夫みたい」
「それだけでも進歩だな」
ルークは伸びをし、剣を鞘におさめた。優しく彼の肩を叩く。
「ごはんにするか?」
「うん……」
彼らは、木陰で眠る少女をちらりと見てから、
歩き出した。
その頃、エレナ=ルクウィッドは、軟禁されている部屋で
一人だった。今日は白いふんわりとしたドレスを着ていて、
一段とかわいらしく見える。差し入れられたチーズケーキ
なるものを食べながら、彼女はルークとステラのことを
考えていた。友達は今日は一度も部屋を訪れていない。
エレナが訪問を断ったのだ。考え事をしたいから、と。
「ステラ……ルーク……」
考えているうちに睡魔が襲ってきて、エレナはすぐに
夢の世界へと旅立った。
同じ城の、別室。暗い暗い部屋に、一人の少女がいた。
腰よりしたまで伸びた、長くて美しい金髪が、明かり代わり
のようにきらめいている。
少女の顔は、とても美しかった。憂いがある分、つねよりも
美しく感じる。美しい雫が少女の目できらめいた。
「止めなくては……あの人を……あの人を……」
少女は誰もいない部屋で、一人泣きながら悩むのであった。
同じころ、ルークたちは食事を取っていた。
ルークが仕留めた鳥の魔物(ハルピュイア)
ではない、をたき火で焼いて、串にさして
食べている。チーズがあればな、と彼がぼやいた。
「仕方ないよ、こんなところに乳製品なんかないもんね」
「わかってるよ、ビショップ。早く食べて訓練するぞ」
「う……うん……」
ためらいもなく食するルークとは違い、ビショップに
は少し食べにくかった。彼は肉を食べたことはあるが、
元は生きていたもの、という実感はなかったのだ。
生きていた命を奪わなくては、人は生きていけない。
そのことは十分わかってはいるけれど、ためらいはあった。
「ねえ!!」
いきなり声が聞こえたので、二人は驚いて振り向いた。
そこには、薄汚れた恰好の女の子がいた。
猫のような大きな目を見開き、じいっ、とビショップの
手元に目を落としている。お腹がすいているようだった。
「食べないなら、それ、あたしにくれないか!!
もう三日も食べていないんだ!!」
「え、ええ!? いいけど……」
少女はひったくるようにビショップの肉を取り、じつに
気持ちのいい食べっぷりで瞬く間に平らげてしまった。
物欲しそうに、ルークの分の肉も見ている。
ルークは声を立てて笑い、予備で焼いていた分を
全部少女に渡した。それをすべて食べ終わった少女は、
すっかりお腹がふくれたらしく、満足そうに息をついた。
「ああ、お腹いっぱい!! ありがとう、君たちは恩人
だよ!! 〝迷いの森〝で迷って三日!! 死ぬかと思ったよ!!」
にっかりと笑う少女の顔は、土で汚れてはいたが、
とてもかわいらしかった。ルークたちも笑い返す。
「ん? ちょっと待てよ、迷いの森?」
「そうだよ!! ここは、一度入ったら出られない、おっそろしい
森なんだぞ!! 君たちは何日かかった?」
ビショップは首をかしげた。二人は、まったく迷うことなく森
を出ることができたのである。だが、少女が嘘を言っているようにも
見えなかった。口調にも、恐怖がにじんでいる。
「俺たち、迷わなかったぜ?」
「嘘だろおおおおっ!?」
あんたら神様!? と少女は大きな目をさらに大きく見開いた。
ルークたちは困ったように肩をすくめる。
「これのおかげかな、ルーク?」
銀色の弓を触りながらビショップが言い、ルークも銀色の剣を
ながめた。これは、精霊の姫と精霊たちの加護を受けた証である。
きらきらと目を輝かせ出した少女に、ルークたちは事情を
説明したのだった。
新キャラを登場させました。
二人とも気の強い方では
ないので、かなり気の強い子
の予定です。最初は猫かぶっていますが。