裏切りと悲しみ
「きゃああああああっ!!」
悲鳴がその場の木々を震わせる。
銀色の剣から、アンジェ様!!と
声が上がった。結界は役には
立たず、すぐに破られた。
精霊たちがパアッと一斉に散る。
剣から解放されたのだ。
「アンジェ!! 大丈夫か!!」
「今、癒すからね」
ルークとビショップが慌てて駆け寄った。
キッとアンジェが睨みつける。
「来ないで、来ては駄目!!」
「ほう。まだ奴らをかばう余裕があるのか」
アンジェは今度は男の方を睨んだ。
「勇者と巫女の血縁には手を出させません」
「それはお前次第だな」
「やああああああっ!!」
気合一閃、アンジェが銀色の剣を振りおろした。
精霊の力が宿っていなくても、普通の武器より
威力はあった。が、フッと笑うと、男はそれ
を余裕でかわした。
「アンジェ、よけてよ!!」
ビショップが銀色の弓をかまえた。狙いを
男に定め、打つ。
「駄目ッ!!」
アンジェが叫んだが、もう遅かった。
矢はすでに放たれている。
男が手を挙げてそれを止めた。
空中に矢が静止する。ビショップが青ざめた。
ルークが彼をかばおうとし、巻き込まれる。
「やめて!!」
アンジェの制止は届かない。
男はそれを解放した。
「「わあああああああっ!!」」
二人は返された矢に服の袖を貫かれ、木の幹に
体を縫いつけられた。魔力も込められていたらしく、
動くことができなくなる。
「ルーク!! ビショップ!!」
「人のことより、自分の心配をするんだな、アンジェ。
暗黒閃光!!」
アンジェの胸に黒き光が吸い込まれていった。
彼女の体がびくり、と跳ねる。
たとえようのない痛みが体の中をかけぬけていった。
「うあ、うあああああああっ!!」
絶叫の声を上げ、彼女はかくり、と気絶した。
男が今度は二人の方にやってくる。
キッとルークは男を睨み、ビショップは泣きそうな
顔になっていた。
「来ないで、来ないでよ!!」
「ちくしょう!! ちくしょう!! ちくしょ・・・・・う」
ビショップは泣きながら、ルークは悪態をつきながら、
攻撃をされて意識を手放した。
ルークたちが危機に陥っている、その頃。
エレナは今日も監禁生活を満喫中だった。
ジゼット=ブラック、ステラ=ワイズの他に、
料理番のミルカ=ライニオまで加わって、
かなりかしましくなっていた。
テーブルにはお菓子の数々があり、四人は
おしゃれの会話に余念がなかった。
と、いきなりステラが会話を遮った。
「エレナちゃん、少しいいかしら」
「どうしたんですか、ステラさん?」
「ちょっと来てくれる? 大事な話があるの」
ステラはエレナを連れ出し、自室へ連れて行った。
初めて部屋から出れた解放感にひたっていたエレナは、
ステラの目に険があるのに一切気付いていなかった。
にっこりと笑うと、ステラは口を開いた。
「エレナちゃんに良い事教えてあげる」
エレナは何故か背中がゾッとしていた。
頭の中で危険信号が鳴り響く。ここにいては駄目だ。
早く自室に帰れ、と。
だが、ステラはしっかりと腕を掴んでいて、
離してくれる気配はなかった。
「私、あなたが大嫌い」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
大嫌い? ステラさんが? 私を?
何かの冗談だと思いたかったが、彼女の
顔にはもう親しみは欠片もなかった。
「もう一度言ってあげましょうか? 私、
あなたが大嫌いなの」
「ど、どうして!?」
「私、あなたみたいな幸せな子って大嫌い。
愛されて当然だと思ってた? いい子ちゃんの
エレナちゃんは」
悪意のある言葉がエレナの胸を深くえぐった。
ぼろぼろと目から涙がこぼれおちていく。
「ステラさん・・・・・・」
「何であんたなの? あんたばかり愛されて
慕われて。私は、あの子たちと仲良くなるの
に時間がかかったのに!! なんであんたばかり
が幸せなのよっ!!」
「・・・・・・!」
だんっ、とステラが壁を叩いた。びくっ、とエレナ
は身をすくめる。それがさらに、彼女の怒りに
油を注いだ。
「あんただってあたしのこと嫌いなんでしょ!?
しらじらしい敬語とさんづけなんかしちゃってさ!!
あんたが来なければこんなにみじめになんか
ならなかったのに!!」
ステラは気づいていなかった。この言葉が、エレナを
責めることが、さらに自分をみじめにしていることに。
ただ感情のままに、罪もないエレナを責め立てていた。
「あんたなんか、死んじゃえっ!!」
そのままエレナは走り出し、その場から逃げだした。
ステラが泣いていたことも、それを一人の少女が
見ていたことも知らず、自室の前の扉に寄りかかって
すすり泣いていた。
愛しい人の名前を小さく呼びながら。
エレナがステラに裏切られる話です。このまま
二人が友人に戻れるかは、エレナにかかって
いるので、がんばって書きたいと思います。