精霊の剣の力
ルーク=ウレイアは、日課となった、
剣の素振りをしていた。おさななじみの
エレナ=ルクウィッドの弟、ビショップが
笑顔で走りこんでくる。
「ルーク!! 少し休憩したら? てゆーか、
ごはん作ってよ~。ぼくもアンジェも出来ないんだから~」
「わかったよ、ビショップ」
ルークは自分で作った革製の鞘に、銀色にきらめく剣をおさめた。
伸びをし、歩き出す。隣にビショップが並んだ。
「まだ、嫌な夢、見る?」
「いや、見てないよ。ビショップたちのおかげだよ、ありがとう」
ログハウスに帰ると、精霊の姫・アンジェが出迎えた。
「おはようございます、ルーク」
「おはよう、アンジェ!!」
ルークはあいさつをし、台所に入って行った。
ふんだんにある材料を使い、なんともおいしそうな料理を作っていく。
今日の朝ごはんは、チキンスープにチーズ入りの蒸しパンだった。
デザートには冷たいチョコレートが添えられてある。
歓声を上げて料理を食べる二人の姿に、ルークは小さく笑った。
エレナは今日も軟禁生活を満喫していた。
友人のステラ=ワイズと、ジゼット=ブラックが部屋に来ている。
誘拐したあの男は、まだ顔を見せてもいなかった。
ステラたちに聞いても、聞かされてないから、とか、言うことが
許されてない、とか言われて容量を得ない。
少し太ったかもしれない、と思う今日この頃のエレナなのだった。
「やああああっ!!」
気合のこもった声がその場に響く。ルークの一閃で、一体のモンスター
が消滅した。少しずつ強くなっていっているらしい。ハルピュイアくらいな
ら、すぐに一体は倒せるくらいになっていた。
まだ精霊の剣は宝石が二つだった。
「ルーク、その剣を少し貸してくださいませんか?」
アンジェが手を差し出しながらそう言った。
首をかしげながらも、ルークは剣を彼女に渡した。
「精霊の剣の本来の力を見せます」
ビショップに下がっているように言うと、アンジェはスッと剣を
ハルピュイアへと向けた。
「全地をすべる精霊たちよ、我の前に集え!!」
リオン・ジェモー・ベリエ・サジテール・ポワソン・ヴェルソー
・カンセール・スコルピオン・カプリコルヌ・ヴィエルジュ・
トロー・バランスがその場に現れた。
彼らが一つとなって剣の宝石、〝プリュネル〝に吸い込まれて
いき、虹色の光を剣が発した。
「行きます。 ・・・・・・闇を祓いし力
となれ!! 浄化の光、百花乱舞!!」
ズバアッと剣気がハルピュイアの前から後ろにかけゆけた。
声を上げる暇もなく、モンスターは切り刻まれた。
あとには塵も残らない。言葉通り、浄化されたようだ。
へたりこんだルークは、小さくすげえ、と呟いた。
ビショップは木の陰に隠れてしまっている。
「これが精霊の剣の本来の力です」
アンジェはルークに銀色の剣を返した。次に、
ビショップを見やって言う。
「あなたの弓でも同じです。すべての精霊と
心かよわせなければ、その真価は発揮できないのです」
ルークたちは頷いた。すべては、エレナのため。
彼女を、あの男から取り返すために。
「よーし、もう一回だ!! 次の敵に行くぞ!!」
「待ってよ~、ルーク!!」
次のターゲットは、スキュラという、美しい女性
の姿をしたモンスターだった。ただし、下半身が
魚のもので、腹部に犬の首が六つついている。
水辺の近くに住んでいた。
「ルーク、ビショップ!! スキュラはハルピュイア
よりも強いですよ、気をつけて!!」
「わかってるよ、アンジェ!!」
「けがしないようにがんばるよ!!」
二人はそれぞれ、剣と弓を構えた。
襲い来るスキュラの攻撃をかわし、
攻撃を打ちまくる。
ルークがスキュラに弾き飛ばされ、
空中を舞って精霊二人に助けられた。
ありがとう、と声をかけ、再びスキュラに向かう。
がー。スキュラは水の中に飛び込み、姿を消してしまった。
「なんだよ、まだ何もしてないのに」
「ボクの攻撃もあたってなかったよ」
アンジェの顔がひどく青ざめていた。
「ルーク、剣を貸していただけますか?」
「また? ああ、いいけど」
アンジェはぎゅっと剣を強く握っていた。
体が小刻みに震えているのに気付き、二人が
声をかける。
「大丈夫か、アンジェ?」
「どうしたの?」
「あの男が、あの男が、来ます」
「「え?」」
ふっ、と姿を現したのは、あの時、エレナを
さらったあの男だった。
カッとルークの頭が真っ白になった。
気が付いたら、奴に飛びかかっていた。
もちろんかなう訳はなく、吹っ飛ばされて
木の幹に背中を打ち付ける。
ビショップも攻撃をしたが、同じ目にあった。
「アンジェ、私のもとへ来い。お前では
私には勝てない」
「嫌です!! あなたこそ、あきらめて、
エレナを、精霊の巫女を解放しなさい!!」
「相容れぬか」
少しだけ、男の目が悲しみに染まった。
キッとアンジェは黙って睨みつけている。
「ならばいたしかたない」
ごおおおおっと力の塊が押し寄せてきた!!
アンジェは剣を構え、結界を張る。
二人の戦いを、ルークたちはただ見ている
しかできなかった。
ついにあの男がルークたちの前に再登場です。
あの男の正体は、徐々に明かして行きます。