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精霊の巫女は城の屋上で

 エレナ=ルクウィッドは黙って

精霊王についていっていた。

 彼もエレナもまた口を利かない。

静寂の中、響くのはかつんかつんと

いう靴の音だけだ。

 エレナは黙ってついていくしかなかった。

正直怖い。だけれど、ルークが来てくれるという

安心感も半分はあった。

(ルーク、助けて……!!)

 エレナは心中で助けを求めながら歩いていた。

彼が止まらないようにと必死に祈った。

 仲間を犠牲にはしたくなかった。

だけど、犠牲になるのは怖かった。

 それを彼には知られたくないため、

エレナは感情を消した無表情で歩いていた。

 ずっと着かなければいいのに。

そう思ったエレナをあざ笑うように、

すぐに目的地についてしまった。

 そこにはカトレイアがいて、

何事か叫んでいた。

 今にも泣きそうな目は、決して喜んではいない。

彼女の声はエレナや精霊王には聞こえないみたいだった。

「ねえ、何か言ってるわよ」

「お前には関係ない事だ。口を利くな」

 エレナはムッとなって口を開きかけたが、精霊王が

「仲間たちをひどい目に遭わせていいのか」と睨んだので

それ以上口を利くことができなくて口をつぐんだ。

 歪んだ笑みを浮かべる彼とは対照的に、

カトレイアは嘆き彼に必死に訴えていた。

 エレナには彼女の気持ちが分かる気がした。

一度死んでいるのにこれ以上他人の命を

使ってまで生きたくない。

 声はきこえないけれど、エレナはそんな感じの事を

精霊王に彼女は訴えているような気がした。

 カトレイアはエレナと目が合うと、彼に伝えてと

身ぶり手ぶりで話しかけてきたけれど、黙れと

命じられたエレナはただ首を振ることしかできなかった。

 カトレイアは、それでもあきらめたくないのか

身ぶり手ぶりで何度もエレナに話しかけてきた。

 エレナは彼女の必死な想いに応えたいと思うものの、

ステラ達のためにもそれを彼に言う訳にはいかない。

 それに、言ったとしても死にたくないから言い逃れを

したのだろうと彼は判断しただろう。

 彼はエレナの言葉に耳を貸さないのだから。

「カトレイア、もうすぐだ。もうすぐ君を……」

 狂ったようにぶつぶつと言いながら笑う彼に、

カトレイアは静かに真珠のような涙を流した。

 エレナは彼女をうかがいながら彼についていく。

やがて、そこには円陣のようなものが描かれていた。

 円陣からは温かい光が発されていて、何故か

エレナは自分の身が危ういというのに

それに見とれてしまった。

 あまりにもそれは綺麗だったのだ。

しかし、エレナはそれを長くは見ていられなかった。

 精霊王はエレナにその円陣に入ることを指示し、

膝をつかせて目を閉じさせたのだ。

 呪文のようなものがエレナの耳に聞こえてくる。

エレナは暗闇に一人残されたような錯覚に陥り、

ついそこには存在しない髪飾りをいじるまねをしてしまった。

 小さい頃から何かあるごとに髪飾りをいじっていたので、

ついその癖が出てしまったようだ。

〝どうして分かってくれないの!? 私の声を聞いて!!

 クラウン!! お願いよ!!〝

 ついにエレナにもカトレイアの声が聞こえた。

それは二人の気持ちが通じ合ったからではない。

 エレナの中に、カトレイアが、彼女の魂が入り込もうとしているからだ。

エレナの魂を追い出し、カトレイアが彼女の体に存在するように

精霊王が仕組んでいるからだ。

 エレナはふわふわとする感じを必死に振り切ろうとしたけれど、

体から離れ始めている魂をそのまま体に閉じ込めておくことはできなかった。

〝私は、生きていたくないのに!!〝

(ルーク……最後に、会いたかった……)

 エレナが意識を保っていられたのはそこまでだった。

カトレイアの魂が完全にエレナの体に同化し、エレナの魂

がはじきとばされてしまったからだ。

「カトレイア……ようやく君を……!!」

「エレナ!!」

 ルークが飛び込んできたのはその直後だった。

後ろから、ビショップ、カストル、そして精霊王の妹である

アンジェが姿を現す。

「お前!! エレナから離れろ!!」

 ルークは精霊王に向かって銀色にきらめく剣を叩きつけようとした。

精霊王は口元に笑みを浮かべながらそれを回避する。

 その笑みは、勝利と喜びの笑みだった。

「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」

「あんたがエレナなの!? しっかして!!」

 ビショップとカストルが必死にエレナを揺さぶる。

しかし、エレナは、正しくはエレナの体に宿った

カトレイアは、目を見開いたまま動かないばかりだった。

 同化したばかりでまだ魂が定着していないのだ。

自体に気付いたのはアンジェだけだった。

「兄さん!! やっぱりあなたは……!!」

「もう手遅れだ!! あの娘の体に、あの娘の

魂はすでにない!! 私の愛するカトレイアが、

ようやく蘇ったのだ!!」

「お姉ちゃん、が……?」

 精霊王の言葉に、カストルはショックのあまり動けなかった。

生き返る意思などなかった姉を、彼は生き返らせてしまったのだ。

 でも、カストルにも彼の気持ちが分かる気がして、

そんな自分を心中で責めた。

「エレナは、エレナはどうなったんだ!!」

「そんな娘は知らぬ。カトレイア、ようやく君にまた会えた!!」

 精霊王が彼女に近づく。もはや、ルーク達の姿は彼には

見えていなかった。かつて愛した娘、カトレイア以外は。

「クラウン……」

 ようやくカトレイアが顔を上げた。

その顔にはどこか憂いが宿っている。

「カトレイア……!!」

「クラウン……!!」

 間に合わなかった、と膝をついたルーク達は、

かつての恋人達が抱き合おうとするのを、

ただ見ているしかできなかった――。


ついに精霊王の恐るべき野望が果たされました。

ショックを受けるルーク達、カトレイアは、エレナは

どうなってしまうのか!?

 もうすぐ完結ですが、最後まで

見てくださるとうれしいです。

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