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スピリッツ!! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: ルナ
男の正体を知る勇者たち
18/30

勇者たちは精霊の姫の告白を聞く

 精霊の姫アンジェが、せっぱつまったような

真剣な顔で、ルークたちの野宿の場所に訪ねてきたのは、

翌日のことだった。かなり無理をしたらしく、彼女の

顔は青ざめている。

 倒れかけたので、慌ててルークが駆け寄って抱きとめた。

「すみません、ルーク……」

 アンジェは小さな声で謝った。ビショップとカストル

は心配そうに眉をひそめている。

「いつもの通信でもよかったのに」

「いいえ、やっぱり、私が直接来て話さなければならない

ことだと思います……。聞いてください」

 アンジェをその場に座らせ、ルークもまた座った。

彼女はしばらく黙っていたけれど、やがて口を開いた。

「今回お話したいのは、精霊の巫女をさらった

あの男についてです……」

 三人は身を乗り出して話に聞き入った。

アンジェは心を落ち着かせると、

決意を秘めた目で言い放った。

「あの男は、精霊王であり、私の兄です」

「ええええええっ!!」

 叫び声をあげたのは、ルークだけだった。

「なあ、冗談だよなあ、あいつがアンジェの

兄だなんて!!」

 ルークは動揺のあまりかわいた笑い声

を上げたが、アンジェはしっかりと首を振った。

 ビショップがやっぱりね、と声をこぼす。

「どういうことだよ、ビショップ!?

 お前知ってたのか!?」

「兄だってことは知らなかったけど、

だいたいは近しい人かなとは思ったよ。

二人の態度を見てたらなんとなく、ね」

 ルークは黙り込んでいるカストルに

目をやった。瞬時に、その目が大きく

見開かれる。彼女は震えていた。

 拳を痛いくらいに握りしめて、

震えていた。目には大粒の涙。

「人殺し……」

「カストル?」

「人殺し!!」

 カストルの口から飛び出したのは非難の声だった。

アンジェは悲しげな顔をしながら黙っている。

 彼女はカストルの反応を予想していたらしい。

「兄妹ですって!? じゃあ、何で止めなかったのよ!!

 何人も死んだわ!! 村の人達が何人も!!」

「カストル、よせよっ!!」

 ルークが彼女をはがいじめにしようとしたが、

すぐに振り払われてしまった。カストルは

アンジェの頬をひっぱたく。

 アンジェはよろめき、その場に倒れ込んだ。

「カストル!!」

「いいのです、ルーク……。私は殴られて

当然のことをしたのです。私は、

兄を止めることができなかった……」

「わ、私、絶対にあなたたち兄妹を

許さないんだからっ!!」

 カストルは目から涙をこぼすと、

ルークが止めるのを無視して

走り去ってしまった。

 その後を、ビショップが追いかけていく。

「アンジェ……。何で言ってくれなかったんだ?」

 アンジェは一瞬体を硬くしたけれど、ルークの

顔が責めているのではないと分かり、ためらいがち

に言い返した。

「私は臆病な愚か者です。責められたくなかった……。

責められて当然なのに、責められたくなかった」

 こらえきれなかったらしく、アンジェは目から

涙をこぼして泣いてしまった。

 ルークたちは、アンジェにとって初めての

仲間であり、友達だった。初めて自分を

精霊の姫としてではなく、ただの「アンジェ」と

して仲良くしてくれた人たち。

「馬鹿。責めるわけないだろ? ビショップは責めた?

 カストルだって、本気で言ってるわけじゃない。

つい混乱して言っちゃっただけだよ」

 ルークは珍しく怒っていた。痛くない程度に

アンジェの額を小突く。

 その顔は、もう不安な顔をしていた子供の

ものではなく、どこかりりしさを秘めていた。

「ルーク……」

 アンジェはルークに抱きつき、子供のように

泣きじゃくったーー。


「待って!! 待ってよ、カストル!!」

「ついてこないで!!」

 カストルは後を追ってくるビショップ

に金切り声をあげた。今は一人になりたかった。

 姉の、死んでいった村人の敵。

それがアンジェの兄だった。

 信じられなくて、信じたくなくて、

頭が混乱していた。思わず思っても見ない

セリフが飛び出してしまったくらいだ。

 「人殺し」だなんてひどいことを言った。

「だって、放っておけないんだよ」

「放っておいて!! 余計なお世話なのよ!!」

 誰かが追ってきてくれて、嬉しいという

気持ちもあったが、素直になれなかった。

 それが、ルークであったとしても、

きっとカストルは追い払おうとしただろう。

「逃げちゃ駄目だよ。最後まで、アンジェの

話を聞こうよ。確かに、アンジェのお兄さんは

村の人達を殺したかもしれない。だけど、

何か理由がーーーー」

「うるさいっ!!」

 カストルは籠手をした手を振りまわした。

拳はビショップの頬をかすめ、彼を転ばせた。

「うるさいうるさいうるさいっ。村の人達が

悪かったって言うの? お姉ちゃんが何か

悪かったって言うの?」

「違う!! そんなこと言ってない!!」

「同じことよ!!」

 ビショップの目にどこか不穏な色が走った。

眉はつりあがり、拳に力がこもっていた。

「分からず屋!!」

「きゃっ!!」

 いきなり頬を叩かれ、カストルは悲鳴を上げて

倒れ込んだ。痛みよりも、驚きの方が勝っている。

 ビショップがそんなことをするとは全く

思わなかった。

「自分だけが正義だと思わないで。僕だって、

ルークや自分が正義だと思ってた。

 だけど、精霊王だって自分が正義だと

思ってるんじゃないの?

 彼には何も事情がないっていうの?」

 ビショップの言葉は正論だった。カストルは

黙り、自分のことばかり考えていた自分が

恥ずかしくなった。精霊王のことなんて、

ちっとも考えたことがなかったのだ。

「ビショップ……。そうだよね、あたし、

アンジェたちのところに戻る」

「うん……一緒に行こう」

 差し出された温かい手を、カストルは掴んで立ち上がった。


 一方、アンジェはすでに泣きやんでいた。

目は赤くはれ上がり、痛々しいほどである。

 髪もぐちゃぐちゃでところどころ濡れていた。

「なあ、アンジェ? 精霊王は、何でエレナを

攫ったんだ? アンジェは知ってるんだろ」

「あの男は、カストルのお姉さんの……」

 アンジェが言いかけた、その時だった。

雷鳴がとどろく。いきなり雷の刃

に貫かれ、彼女はその場に倒れ込んだ。

 背後には、精霊王その人が立っている。

「にい……さん……」

「余計なことを話されては困るな」

「お前っ、アンジェになんてことをするんだ!!

 たったひとりの妹なんだろ!?」

「お前には関係のないことだ」

 そこに、ビショップとカストルが帰ってきた。

ぎり、とかみしめた歯が音を立てる。

「精霊……王……!!」

「お姉ちゃんの敵っ!!」

 ビショップが口元をおさえて後ずさる。

カストルは隠しておいたナイフを構えると、

精霊王に向かって行った。

「カストル、やめろーーーーっ!!」

 ルークの制止だけが、むなしく

その場に響いたーー。


ついにあの男の正体が明かされた。

カストルの姉と彼の関係は!?

次回はエレナ編になりますが、

次回もよろしくお願いします。

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