巫女の妹は勇者に恋をする
ルーク=ウレイアは、カストルとともに歩いていた。
洞窟内はかなり暗い。それでも、明かりがあるので
幾分マシな方だった。
「カストル、疲れてないか?」
ルークはすぐ後ろを歩いている少女を振り返った。
彼女はすぐさま首を振る。カストルは、ルークの行動の一つ一つに
頼りがいがあることを感じていた。
今はふたりだけである。カストルは他の異性にそんなことを感じた
ことはいまだかつてなかった。
と、くぅー、とかわいらしい音が聞こえた。
カストルの腹からである。彼女は顔を赤らめた。
「ちょっと休むか? 俺も腹減ったよ」
笑顔を向けられたが、カストルは恥ずかしさのあまり
顔も上げられなかった。ルークは彼女の気持ちが分かっているので、
特に何も言わずにポケットをたぐっている。
チーズケーキがひときれ出てきた。昨日、夜食として作った
残りだった。今すぐにでもかじりつきたい欲求をこらえ、
ルークはカストルの前につきだした。
「ほら、これでも食えよ。少しは足しになるだろ?」
カストルは途端に笑顔になった。苦笑しつつも、
ルークがさらに彼女に近づける。
「ありがとね、ルーク!! いっただきまーす!!」
カストルはかすめとるようにそれを取ると、大きな口を
開けてケーキにかじりつこうとした。だが、その手が寸前で止まる。
潤んだ瞳が、ルークの姿を映した。
「ルークの分は?」
「ねえよ。一個しかねえんだ」
「じゃあルークが食べなよ」
「俺がお前に渡したんだろ!! お前が食え!!」
しばらく、彼らの舌戦は続いた。お前が食え、
あんたが食えと何回もやり返す。
そして、口の中がかわき、さらに空腹をつのらせてから、
二人の戦いは終結した。まったく無駄な争いである。
「は、はらへったああああ……」
「おなかすいたよおおお……」
結局、二人はケーキを分け合って食べ、少しお腹を満たした。
少ししか食べられなかったが、罪悪感を感じるよりはその
方がよかったとも言えた。
二人は食べ物を求めて歩き出した。少し楽になったので、
どちらからともなく歌を歌い始める。
ルークも自分の歌が下手であることを忘れたかのように、
調子っぱずれな声で歌っていた。
彼らはいつになく上機嫌だった。だがーー。
四時間後、その機嫌は一気に下落するのだった……。
「なんっで、ひとっつも食べれそうなものが
ねえんだよおおおおおっ!!」
ルークの叫び声が洞窟内にこだました。
ルークとカストルは、はじめは笑顔で探していた。
毒キノコを見つけ、ちょっと眉をしかめながらも、
それでも探していた。けれど、洞窟内には食べれそうな
ものが全然なかった。ルークが昨日食べたチーズの匂い
のする毒の実や、毒キノコ、雑草しかない。
彼らはすっかり気落ちしていた。
無理もない事と言えた。だって、二人は少しの
食料しか口にしていないのだから。
お腹はすいたし、疲れたし、ルークたちは
明らかにうんざりとした様子だった。
「カストル、ちょっと外出るか? 魔物でも
倒して肉かなんか手に入れようぜ」
「うん……」
カストルに異論はなく、彼らは洞窟から出て
歩き出した。新鮮な空気が二人を包み込む。
少し機嫌をよくしてルークたちは歩き出した。
「手分けして探そうぜ。何かあったら、大声で呼べよな」
「わかってるー」
ルークとカストルは一旦分かれた。
ルークは腹を鳴らしながら歩いていた。
実はさっき食べた時、カストルに多く上げていたのである。
カストルより、食べた量が少なかったのだ。
「腹減ったな、出てこい、魔物!! 肉にしてやる!!」
ルークは銀色にきらめく剣を構え、大声を上げた。
と、それに呼応するように、魔物の声が聞こえてきた。
ズシンズシンと地面を震わせ、こちらに足音が近づいてくる。
ひっ!とルークは息をのんだ。
……でかい。明らかにでかい。肉にするどころか、こちらが肉にされる。
それはアンズーという怪物だった。顔がライオン、体がワシである。
ぎらり、と肉食獣特有の目がきらめいた。
ルークの額を、汗の玉が伝わって行った。手が震えているのが自分でもわかる。
「ギャアアアア!!」
「うわああああっ!!」
鉤爪の攻撃を、ルークは間一髪でかわした。もう戦うどころではない。
食料にされないように逃げるしかなかった。
とーー。
「きゃあああああああっ!!」
「カストル!?」
今にも泣きそうな悲鳴が響いてきたので、ルークは慌てて彼女の声が
した方へ駆けだした。カストルは、へたり込んで動けなかった。
「あ……あああ……ああああああああ!!」
彼女の前にいるのは、ロック鳥だった。さっきのアンズーよりも
巨大な姿だった。象をさらって食べる、とも言われているんのだ。
「カストル!! 逃げろ!!」
ルークは爪の攻撃を剣で跳ね返した。ロック鳥は、いきり立って
彼に狙いを絞って攻撃してくる。ターゲットが、完全にカストル
からルークに変更されていた。
「逃げろったら!! 殺されるぞ!!」
ルークの方も泣きそうになっていた。爪の攻撃は完全にかわす
ことは出来ず、肩に傷がいくつか刻まれ、血が垂れ落ちている。
それに、彼の後ろにはカストルもいるから、うかつに動けないのだ。
〝……く。ルーク……聞こえますか……〝
「なんでこんな時に!?」
ちょうど間の悪い時に、アンジェからの通信が合った。
カストルは役に立たない。ルークは頭の痛みにたえながら、
剣を持つ手に力を込めるのだったーー。
久しぶりに二千文字いきましたよ。
次回の次回は、ビショップの再登場です。
次回の主役はエレナになります。
次回もぜひ見てください。