精霊の巫女の想い
エレナ=ルクウィッドは、
悲しげに目をふせていた。
リエンカは黙ってそれを見つめている。
口数の少ないリエンカには、ステラ=ワイズの
心中をうまく説明ができなかった。
嫌われているわけではないのに。
むしろ好かれている(本人は否定するだろうが)のに。
リエンカは、それども説明しようとした。
だがーー。
「エレナ、おひるごはんだよ!!」
ミルカ=ライニオが入りこんできたので、できなかった。
ジゼット=ブラックも後ろにいる。彼女は、いつものように
花を抱えていた。
「ミルカ、ジゼット、ありがとう」
エレナの作り笑いに、ミルカたちは気づかなかった。
ジゼットが百花白蓮と、真っ赤な十字架の
形をした花、火炎十字を差し出す。
エレナは受け取り、白い上等そうな花瓶に生けた。
「あ、リエンカもいたんだ!! ステラはいないの?」
「いない……」
食事の用意は四人分あったので、リエンカもまた共にした。
お昼の食事は、やわらかく煮てソースをからめたお肉料理と、
ふわふわに焼きあげられたパン、あつあつの野菜スープだった。
お肉はパンにはさんで食べるらしい。
ちょっと手が汚れたけれど、白いパンとお肉はとても
良く合い、最高のお味だった。
エレナの笑顔が、一瞬だけ輝いたくらいのおいしさである。
食事の後も、ミルカはいろいろなことをしゃべっていた。
エレナに会わない間、何をしていただの、どんなものを
食べたのかだの、何の変哲もない世間話だった。
エレナはいつもだったら笑顔で聞いていたが、
食後のお茶を飲んでいる最中、あまり笑わなかった。
食後のお菓子はケーキだというのに、手も
つけなかった。今日は、アーモンドやシナモンを
しみ込ませたタルト生地に、赤すぐりやラズベリーの
ジャムをはさんだ、ミルカの最高傑作だったのに。
「どうしたの、エレナ? ケーキおいしくない?」
「ごめんね……お腹いっぱいなの」
あいまいに笑ってエレナは問いを交わした。
ようやく彼女の様子がいつもと違うことに気付き、
ミルカたちが首をかしげながら部屋を出ていく。
エレナは置いて行かれたケーキを、一口食べてみた。
いつもならおいしいのだろうが、味がしない。
砂の様な味とは、こういうことをいうのだろう。
食事はおいしかったのに。
エレナははあっ、とため息をついた。
「……私も部屋、帰る……」
「うん、また、来てね……」
ほとんどまるごとのケーキを抱え込み、
リエンカはパッと姿を消した。
ガチャリと扉がいきなり開けられたのは、
彼女が消えたのとほぼ同時だった。
「あなたは……!?」
そこにいたのは、黒衣の男だった。
エレナをさらった男だ!!
「精霊の巫女よ、ご機嫌はいかがかな?」
「最悪よ。早くここから出して!!」
じろりと睨んだにもかかわらず、
彼は楽しそうに笑っていた。
エレナを中に突き飛ばすように、
入って来る。エレナはさらに苛立ちをつのらせた。
「やはり似ている……」
そう呟いた囁きは、彼女には届かなかった。
黒衣の男は、自ら茶を入れ、おいしそうに飲んでいた。
エレナの嫌そうな顔など、どこ吹く風である。
エレナのきれいなエメラルドグリーンの瞳や金髪を、
愛しいように見ていた。だが、エレナをみている訳
ではないらしい。エレナを通して、誰かを見ていた。
黙っていると、髪を掴んで撫で始めたので、
エレナは眉をしかめて振り払った。
一瞬眉をつりあげたものの、男は何も言わなかった。
「この部屋は気にいっているか?」
「気に入るわけがないでしょう!! ここは牢獄だわ!!
出ることができないんですもの!!」
カッとなったように、男が手を振り上げた。
エレナだって、気が強い方である。
間合いを取り、彼に攻撃を与えようと
眉を吊り上げて応戦した。
「違う……やはり、違う……」
「何ですって!?」
結局上げた手は下ろされた。ギロリと睨みつけてくる。
「来い!」
「ちょっと! 何するのよっ」
男は痛いくらいの力でエレナの白い腕を掴むなり、
そのまま歩き出した。喚こうがまったく手の力は緩まない。
途中でミルカやジゼットに会ったけれど、彼女たちは
笑顔で手を振ってきた。訳が分からなく、エレナは
苛立ちばかりがつのっていった。
と、そこで思い出した。ステラが言っていたのだ。
〝適合〝するかするまで、ここからは出れないと。
では、何か検査のようなものをするのだろう。
エレナは少し気が楽になり、男の手を振り払うと、
そのまま後ろについて行った。
その後ろ姿を、空中に浮いた少女と、
ステラが戸惑ったように見つめていた。
ついに彼女が〝適合〝するか
しないかがわかります。
気になりかもしれませんが、
次回の主役はルークです。
交互に主役が入れ替わって
やっていくので、次回も
よろしくお願いします。