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精霊の巫女の決意

 エレナ=ルクウィッドは、

いつもの部屋でいつもの目覚め方

をした。銀のお皿にたたえられた

水で顔を洗い、ついでに手を洗う。

「よしっ!!」

 顔を軽く叩いて気合を入れる。

「食事……」

 音も立てずに彼女の後ろに立った

少女が、低めの声でポツリと言った。

 まるで幽鬼のように陰気な雰囲気だ。

「きゃああああああああああっ!!」

 思わずエレナは悲鳴を上げ、

文字通り飛び上がってしまった。

 少女は驚いた様子もなく、

サイドテーブルに料理の盆を置く。

 人形のように無表情だった。

「あなた、誰……?」

「リエンカ……」

 それ以上は口を開かない。

 なんとなく名前がそれ

だというのが、エレナはわかった。

「食事……」

「あ、あなたが持ってきてくれたのね、

ありがとう、えっと、リエンカ?」

 こっくりと彼女は頷く。

 よく見ると、盆には二人分の

料理が載せられていた。

 リエンカも、一緒に食べるのだろうか。

 今日のメニューは、

ハチミツのたっぷりとかかったワッフル

と、チーズが載せられたトースト、

カモミールティーだった。

「あなたも一緒に食べるの?」

「駄目?」

「ううん、一緒に食べたいわ」

 今回の食事は、ひどく静かに

始まって終わった。リエンカは一言も口をきかず、

エレナも口をきくのが気まずくなったのだ。

「ステラ、あなた、ケンカ……私、見た……」

 エレナはギョッとなった。

ステラとの言い合いを、見ていた人が

いたなんて。少女が今までで一番しゃべったのも

驚いたが、それ以上の衝撃だった。

「見てたの!? 誰にも言わないで!!」

「ん……」

 またリエンカがこっくりと頷く。

「ステラ、私、友達……」

「そうなの……あ、あなた私の名前

知らないのよね? 私エレナっていうのよ」

「エレナ……」

 リエンカは何度かエレナの名前を呟き、

口元をゆがめた。それが笑顔だと気づき、

エレナは笑い返す。

 鮮烈なる笑顔だった。

 確実に、にっこり、ではなく、

ニヤリという表現が似合いそうだ。

 表情を出すのになれていないのね、

とエレナは思った。

 ふと、疑問を抱く。

「リエンカって、鍵を開ける時、

音を立てないのね。私、驚いたわ」

「鍵、いらない……。私、瞬間移動……」

 彼女の話を整理すると、リエンカは

瞬間移動能力があるらしいとのことだった。

 さっき部屋に入った時も、自分の部屋から

直接来たのだと言う。

「ステラ、部屋、行く?」

「え……?」

 エレナは迷った。ステラの部屋に行く?

これから? リエンカの顔を見るが、

少しも表情は変わっていなかった。

「エレナ、ステラ、仲直り……」

 彼女には一切の悪意は感じられなかった。

 純粋に、善意だけがある。

 このままではいけないのは確かなので、

エレナはこくりと頷いた。

 リエンカが口をゆがめ、エレナの手を掴む。

 次の瞬間、二人の姿は部屋から消えていた。


 ステラ=ワイズは、部屋で一人でいた。

食事には手をつけず、ベッドに倒れ込んでいる。

 具合が悪いのではないようだったが、

だるそうに目を閉じていた。

 と、何かの気配を感じた。

 リエンカだろうと思い、体を起こす。

 そこに、エレナ=ルクウィッドの姿を

認め、ステラはギョッとなった。

「リエンカ! 何のつもり!?」

「エレナ、ステラ、仲直り……」

「余計なお世話よ!!」

 エレナは勇気をふりしぼってステラに近づいた。

 ステラは一瞬目を見張ったが、移動はしなかった。

「何の用? 仲直りなんかしないわよ。

私は、あんたが大嫌いなんだから」

「仲直りなんて、できる訳ないよ。

私は、ステラの友達じゃなかった」

 ステラは眉をしかめた。仲直りする気はない。

そう言うのならば、何をしに来たのだ。

「私、ステラのこと知らなすぎたんだよ。

 ステラのこと、聞こうともしなかった。

でも、これからは知って行こうと思う……」

「何なのよ、どういう意味なの?」

「ステラ、私と、友達になろう!

 今までの関係には戻れないけど、

友達になろう!!」

 ステラは黙っていた。

友達? 私と友達に?

 心が浮き立つのを感じる。

 何故か、嬉しい。

「う……」

 思わずうん、と言ってしまいそうになり、

ステラは慌てて口元をおさえた。

 危ない! これがこの子の手なんだ。

 皆を取り込んだ、あの子の手口なんだ。

 そう思うと、すごく腹が立った。

 皆を取り込んで仲良くなったくせに、

今度は私をも取り込もうとしている。

 自分を魅了しようとするエレナが、

ひどく苛立たしかった。

 だが、それ以上に嬉しさも感じている。

 と、コツコツと靴の音が聞こえてきた。

 ステラはキッとなって叫ぶ。

「あんたなんか、嫌いよ! 大嫌い!!

 出てって!! 出てってよ!!」

 泣きそうになりながら、ステラは喚いた。

 こう言わなくてはならない。

 嘘でも、こういうことが今はつらかった。

「ステラ……」

 リエンカが声をかけ、手を伸ばしてくる。

 ステラはその手を振り払った。

「今度は余計なことしないで。この女のことは、

あんたなんかに関係ないんだから」

 リエンカは黙ってエレナの手を取った。

再び、エレナたちは部屋に戻ってくる。

「私、ステラに嫌われてるのね……」

 エレナは気づいていなかった。

 ステラの部屋に、黒衣の男が

歩み寄っていたのを。

 ステラに、思ったより嫌われていないことを。

 ステラに、かばわれたということを。

 さっき、エレナが見つかっていたら、

あの男にどんな目にあわされるかしれなかった。



「さっき、誰かいなかったか?」

「リエンカです。瞬間移動ができるあの子。

私たち、ケンカしたのですわ」

 黒衣の男が帰っていく。

 ステラはホッとして、胸をなでおろした。

「もう、来ないでしょうね……」

 悲しげにつぶやく。

 自分から拒絶しておいて

虫がいいとも思ったけれど、

ステラはエレナがもう一度

来ることをのぞんでいたのだったーー。


新キャラ登場です。

エレナも再登場です。

エレナが動き出しました。

ステラはまだ迷っています。

ですが、仲直りというか、

この二人は友達にしたいので、

がんばって書きます。

次回もエレナ編です。

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