精霊の巫女の妹
ルーク=ウレイアは、
ビショップ=ルクウィッドとカストル
と共に、森の中を歩いていた。
〝迷いの森〝とは別の森である。
カストルは歌を歌いながら歩いていた。
きれいな歌声である。まるで、澄み切った鈴の音の
ような。ルークとビショップは歌に聞き入りながら
歩いていた。
「カストルってさ、お姉ちゃんに少し似てない?」
こっそりとビショップがそう聞いてきた。
確かに、カストルの性格はエレナにとても
よく似ていた。容姿は似ていないけれど。
「そうかもな……」
「何こそこそやってんの、二人とも?
あたしの悪口言ってるんじゃないよね?」
ギロリと睨まれ、二人は震えあがった。
「「め、めっそーもございません!!」」
思わず声がかぶるルークとビショップだった。
笑顔に戻ったカストルは、彼らにも歌う
ように要請した。ビショップは苦も無く歌い出す。
が、ルークは赤くなって黙りこんでいた。
「ルークは? ビショップは歌ったよ」
「……カンベンして。オレ、歌苦手……」
「ええ~。ルークの歌、聞きたいよ~!!」
聞きたい聞きたいとカストルがせっつく。
ルークはそのたびに涙目で嫌だ、と
わめいていたが、あたしの言うことがきけないの?
と脅され、仕方なく歌った。
なんとも調子っぱずれな、下手すぎる歌が
その場に流れた。しん、と森に静寂が訪れる。
かわいらしい声で歌っていたビショップも、
驚いたように口をあんぐり開けていた。
「だから、嫌だって言ったのに……」
こっそりとルークは泣いたのだった。
「魔物っ!!」
カストルがそう叫んだ時、ビショップは
いじけるルークをなぐさめている最中だった。
何もいないじゃん。
そう思った時、五体もの魔物が飛び出してきた。
「うわああああっ!!」
「げっ!! 魔物!?」
ビショップは悲鳴を上げ、ルークも立ち直って
銀色の剣を構えた。
カストルはもう攻撃をしている。
女の子にしては重い拳が、飛び出してきた
狼の魔物を吹っ飛ばした。
だが、魔物はすぐに戻ってきて、
カストルを体当たりで薙ぎ払った。
「きゃあっ!!」
「「カストルッ!!」
魔物の鋭い牙が、カストルの細い首筋
に突き立てられようとしていた。
別の魔物に邪魔をされ、ルークたちは
その場に行くことができない。
とーー。
虹色の光がそれぞれの武器、剣、弓、籠手
から放たれた。すると、そこに現れたのは、
十三体の精霊たちである。
「ルーク、アンジェさまを守ってくれてありがとう、
少しは見直しましたわ」
水の精霊・ヴェルソーがにこりと笑い、
剣に青色の〝プリュネル〝が光った。
「勘違いすんなよ、少し力を貸してやるだけだからな」
双子の姉妹の妹の方も、素直じゃないセリフを
言いながらも、ルークを認めたらしい。
きらきらと緑色の宝石も輝いていた。
これで、ルークの剣の宝石は四つになった。
ビショップは、ベリエ・サジテール・ポワソン・
ジェモー・ヴェルソー・カンセールと、六つのまま
変わらない。そして、カストルも同じ数だった。
彼女は、精霊に力を貸してもらって、
その場をしのいだ。狼が悲鳴を上げ、消滅する。
「カストルって、ひょっとして、精霊の巫女と
関係があるのか!?」
驚いたような顔でルークが言うと、カストルの
かわいらしい顔が曇った。
飛び出してきた魔物を、小さな拳が吹き飛ばす。
「あたし、精霊の巫女の妹なの。お姉ちゃんは、
もう死んじゃった」
「ごめん……」
「謝らないで!! 余計に苛立つから!!」
怒鳴られてルークは押し黙った。
剣を一閃させ、魔物を切り捨てる。
ここの魔物は、精霊の力さえあれば
特に苦労しないようだった。
「よーし、フィニーシュッ!!」
最後のとどめをさしたのは、
カストルだった。さっきの顔が
嘘のように、晴れた空のような顔
になっている。
ルークもビショップもいたたまれなくて。
口を閉じていた。そんな態度に苛立ったのか、
カストルは気にしないでね、と言い置いて
姉のことを話し出した。
「お姉ちゃんはね、とってもやさしい人
だったの。精霊の巫女って、ほとんどが
命令されたひとだったんだけど、
お姉ちゃんは違ったんだよ」
チーズをたっぷりと塗った、あぶった
パンを頬ぼりながら、カストルは
あいまいな笑い方をした。
同じものを食べながら、ルーク
たちはそれに聞き入る。
「お姉ちゃんは、自分から生贄になったの。
でも、生贄になったのに、村は破壊されちゃったん
だって。それから、うちの村では儀式はやって
ないみたい」
カストルは語り終えた時、悔しそうな、
憎らしそうな顔になっていた。
姉の死が、無駄にされたようで
嫌だったのだろう。
ルークたちはしばらく口をきかなかった。
やがて、カストルが焚火に砂をかけて
消し始める。ルークたちも手伝った。
「ごめんね、気を使わせちゃって。こんな話、
迷惑だったよね」
二人は首を振った。これまでの事情を
彼女に話し始める。
カストルは黙って聞いていた。
「がんばろうね、お姉ちゃんは助けられなかった
けど、ビショップのお姉さんは助けられる!!
あたしも、協力するからね」
それぞれの事情を知った彼らは、
もっと仲が良くなったのだったーー。
次回はようやくエレナの
再登場を書きます。
また新キャラも出てきます。
次回もぜひ見てください。