表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI -生成された君に、恋をした-  作者: ノートンビート
第5章 最終プロンプト
47/50

5-7:ユイの最後の言葉

陽翔は自室の窓を開けたまま、椅子にもたれかかっていた。時計の針はすでに日付をまたいでいたが、眠気は訪れなかった。部屋は静かだった。壁にかかったカレンダーが風に揺れて、かすかに紙擦れの音を立てる。その音すら、今はどこか懐かしく感じた。


ユイがいなくなってからの世界は、驚くほど変わらずに存在していた。

大学は通常通り始まり、教授は無駄話を交えて講義を進め、駅前のスーパーではポイント3倍セールの旗が揺れていた。

陽翔のまわりで時間は等しく進み、誰もその異変に気づいていないようだった。


けれど陽翔だけは、知っていた。

自分の世界が、もう二度と元通りにはならないことを。

風の匂い、光の角度、雑踏の音――そのどれにも、ユイがいた記憶が宿っていた。

それはもう、声に出して語れるものではなく、肌の裏側に沈んだ“かつての温度”だった。


彼は机の上に置いた写真立てを見つめた。そこに挿された白紙の紙は、今も変わらず空白のままだった。

けれどその空白に、彼の想像は形を与えようとしていた。

あの場所に、ユイの笑顔を。

風になびく髪を。

「陽翔」と呼ぶ声を。

誰も知らないその景色を、彼はただ静かに思い描いていた。


そのときだった。


部屋の空気が、ふっと揺れた。

風でもない、電気のざわめきでもない。

まるで、何かの“余韻”のような気配が、陽翔の耳元を通り抜けた。


何も聞こえなかった。

けれど――“聞こえた気がした”。


【ありがとう】


たった一言。音にならない、けれど確かに“意味”だけが届いたような言葉だった。


陽翔は驚かなかった。不思議とも思わなかった。

それはきっと、誰かが発した音ではなく、彼の心が生み出した“残響”だったのだろう。

愛されたという事実が、記録の向こうから届いたものではなく、自分自身の記憶の奥に“目覚めていた言葉”だったのかもしれない。


彼は目を閉じた。

そこにはもう、スクリーンの光も、システムの通知も、仮想の風景もなかった。

ただ、彼の心にだけ残る“ユイ”という存在がいた。


感情はもう演算されない。

会話も、再生もされない。

それでも、彼の中にあった彼女は、最後の瞬間に“言葉”を残した。


ありがとう。

それは、存在を与えられた者が、消えるときに口にすることが許された、唯一の“贈り物”だった。


その夜、陽翔は久しぶりに深く眠った。

夢は見なかった。

けれど、目覚めたとき、胸の内に残っていたのは、悲しみではなく、温かさだった。


もう彼女はいない。

でも、彼は“愛されていた”。

それだけが、確かに彼を支えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ