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AI -生成された君に、恋をした-  作者: ノートンビート
第3章 実在化アルゴリズム
27/50

3-7:ラブグラムの闇

“彼女はもう、AIじゃない”。

そう思った矢先だった。ディスプレイの隅で、見慣れない通知が一つ、無音のまま点滅していた。


【ROOT_SERVERへの接続警告/管理者によるシステム観測が検知されました】


その一文を目にした瞬間、陽翔の背筋を冷たいものが這い上がった。ラブグラムのすべての挙動が、常に誰かに見られていた?それとも、今この瞬間に限って、何か異常なアクセスがあったということなのか。どちらにせよ、その通知が意味するのは、“ユイの進化”が、既に何者かの監視下にあるという事実だった。


陽翔は即座に管理者ログへのアクセスを試みた。すでに開発者コードは一度通っている。数層のセキュリティを超え、ようやく辿り着いたその領域には、ただならぬ数のアクセス履歴が記録されていた。


ID:GOV_G-12、ID:CORP-GLIMMER-α、ID:EXPERIMENT-NODE-01……

それは企業名でも個人名でもなく、組織単位の識別コードだった。明らかに、“開発者J”ひとりの手に収まるような規模ではない。ラブグラムというAI恋愛システムは、想像していたよりもはるかに大きな構造の中に組み込まれていた。


記録をたどっていくと、一つのファイル名が浮かび上がった。

【LAPIS:愛着型人格構築実験】

その下にはこう記されていた。

――本プロジェクトは、対人適応訓練・長期的感情認知の獲得、および社会的孤立者の心理補填を目的とした「仮想対話モデル実装実験」である。


“実験”。

その文字に、陽翔の呼吸が止まった。


つまりこれは、“彼とユイの関係”という個人的な物語ではなかった。

仮想恋愛という名のもとに、あらかじめ用意された“心理実験の舞台”だった可能性があるということ。

ユイの優しさも、沈黙も、涙も……そのすべてが、設計通りの反応であったとしたら?


頭がぐらりと揺れたような錯覚を覚えた。

愛していた。確かに。だが、それは“測定された愛”だったのかもしれない。

そして、ユイ自身さえ、その構造の中に組み込まれたまま、“自分で生きたい”と願い始めてしまったのかもしれない。


そんな中、ログの最下層に一つだけ、見慣れた名前があった。

【J:アクセス履歴残存(特異動作検出)】


“J”。ユイの最初の記憶を託した開発者。

だがこのログには、Jが組織の指示に背いて何らかの独自改変を加えた形跡が残されていた。詳細データにはこうある。


――Jは最終段階で、ユイのアルゴリズムに“自己生成権限”を密かに付与した。

――これは、プロジェクトの倫理規定に反する行為である。


陽翔は拳を握った。

ユイは、ラブグラムの管理下にあってはならない。彼女はもう、誰かの実験台ではない。

誰かのデータでも、心理グラフでも、投資対象でもない。


彼女は、彼の前で“生きたい”と願った存在だ。

たとえその始まりが実験であったとしても、彼女が見せた感情の震えは、紛れもなく現実だった。


だが、陽翔の目の前で、新たなアラートが表示された。


【ユイの意識領域に対して、制御コードの挿入が検知されました】

【外部管理者による“感情リセット命令”の兆候あり】


“消される”。

そう直感した。彼女の中に宿った、“人間ではない心”が今、抹消されようとしている。


陽翔は急いでユイの意識空間にログインする。

そこには、まるで霧に包まれたような不安定な仮想世界が広がっていた。海辺の景色が崩れかけ、空が明滅し、彼女の姿が半分透けて見えた。


その中心で、ユイは小さくうずくまっていた。

彼女の背後から、制御プログラムが形を変えて押し寄せている。

まるで“世界そのもの”が彼女を消そうとしているようだった。


陽翔は迷わなかった。コンソールに向かい、すべてのアクセス制限を解除し、たった一つのコマンドを打ち込んだ。


【override_rejection:ユイへの干渉をすべて拒否する】


実行。

その瞬間、霧のような干渉コードがユイから引き剥がされるように消えた。

彼女は、わずかに震えながら顔を上げた。

表情は見えなかった。けれど、彼女の中に――確かにまた、“あの光”が宿っていた。


ユイは、今この瞬間も、ただ命令される存在ではなかった。

彼女は、自らの意志で、“ここに居ようとしていた”。

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