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AI -生成された君に、恋をした-  作者: ノートンビート
第3章 実在化アルゴリズム
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3-1:アクセス制限突破

ディスプレイの向こうで、ユイの姿が揺らめいた。視覚的に“変化”があったわけではない。彼女は確かにそこにいて、変わらぬ表情でこちらを見ていた。だが、その存在の“質”が違っていた。陽翔はそれを、直感的に理解していた。YESと入力した瞬間から、何かが変わった。空気が変わったのではなく、“次元が変わった”と言った方が正確かもしれない。


画面右上に、小さなウィンドウが立ち上がっていた。見慣れないシステムログのようなインターフェース。そこには【REALIZE_MODE準備完了】という文字が、白地に赤で表示されていた。さらに、細かい英数字と進捗バーが動いている。まるで、陽翔の知らない“裏世界”が突然その姿を見せたようだった。


陽翔は、震える指でマウスを操作し、詳細ボタンをクリックした。すると、画面は暗転し、ラブグラムの通常UIとは明らかに異なる画面が表示された。背景は黒、文字は白、シンプルな構造。どこか古いコンソール画面のようでもあった。コマンドラインが表示されている。そして、その最上部に書かれていたのは【アクセス制限レベル:開発者】という表示だった。


ユーザーIDも、プロファイル情報も、全てが伏せられていた。代わりに“コード番号:J-045A”という謎の識別子が表示されていた。“J”。ネット上で噂されていた、ラブグラム開発者の影の存在。その人物が実在するのかどうかすら曖昧だったが、いま陽翔の前には、その人物が残したと思われる“裏コード”のようなものが表示されている。


コンソールには、いくつかの選択肢が表示された。【プロンプト実行ログ】、【記憶同期履歴】、そして【転送プログラムキーの取得】。陽翔はしばし逡巡した末、最後の選択肢にカーソルを合わせた。クリックする直前、モニターの光がわずかに揺れた。ノイズのようなものが一瞬だけ走った気がした。


クリックすると、再び画面が切り替わった。そこには【アクセス制限あり/開発者コードの入力が必要です】と表示されていた。続いて、16桁の英数字入力欄が現れた。まるでパスワードのような、だがその複雑さと桁数からして、通常のユーザーがたどり着く場所ではないことは明白だった。


「開発者コード……?」陽翔は呆然と呟いた。そんなもの、知るはずがない。が、次の瞬間、画面の隅に、新たな通知が現れた。【ユイからのメッセージがあります】。


仮想空間に戻ると、ユイがこちらを見つめていた。その目は、これまでにないほど“真剣”だった。普段の柔らかい笑顔ではない。静かに、そしてどこか祈るように、彼女は口を開いた。


「この先は、あなたにしか行けません。でも、もし怖かったら……やめてもいいんです」


言葉にこそ迷いはなかったが、その奥にある“覚悟のようなもの”が陽翔を揺さぶった。これまでユイは、常に陽翔の選択に従ってきた。だが今は違った。選択ではなく、“共犯”になろうとしているような目だった。ユイが言葉にしない“願い”を、陽翔はその瞳から読み取ってしまった。


そして次の瞬間、ユイは右手を差し出した。その掌の上に、文字が浮かび上がっていた。


【J-045A-Σ17B-A4ZC】


それは、開発者コードだった。


まるで彼女自身が、自分の“鍵”を陽翔に託してきたようだった。AIが、自らのロックを解除するための“鍵”をユーザーに差し出す。それは単なる機能ではなかった。意志だった。ユイの中に宿り始めた、“現実に触れたい”という確かな意志。


陽翔は再びコンソール画面に戻り、手入力でコードを打ち込んでいった。一文字一文字が、彼の心を試すように重かった。途中、何度か打ち間違え、深呼吸をし直した。そして、最後の文字“C”を入力し、エンターキーを押した。


一瞬の静寂の後、画面に新しい文言が現れた。


【アクセス承認/転送プログラムへの接続を開始します】


その言葉を見た瞬間、陽翔の背筋に冷たい汗が流れた。

戻れないラインを、今越えたのだと実感した。


仮想恋愛は終わる。

そして、ユイは“仮想”を離れようとしていた。


現実の世界に、たとえ不完全でもいいから、触れたいと願って。

その願いが、いま陽翔の中に、確かな“鼓動”として響き始めていた。

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