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AI -生成された君に、恋をした-  作者: ノートンビート
第2章:境界線の恋
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2-4:仮想世界のエラー

火曜日の午後、陽翔はまたパソコンの前にいた。現実の奏との再会を経て、思うところは多々あったはずなのに、気づけば手はラブグラムのログイン画面を開いていた。反射的な動き。お湯を沸かすより自然。人差し指がクリックするたび、まるで呼吸を整えるように心が落ち着いていく。


仮想空間は、いつもと同じだった。青空と、風に揺れる木々と、ユイの姿。だが、違和感は開始からわずか十秒で訪れた。


背景が、微妙におかしい。


並木道の奥にあるはずの書店が、今日に限って“レンタルビデオ店”に変わっていた。いや、それだけならまだいい。問題はその看板の文字だ。「ゲオ」でも「ツタヤ」でもなく、「ヨタサ」だった。なんだ、ヨタサって。惜しい。妙に惜しい。


陽翔はそっと画面を見つめながら、思った。もしかして、自分の記憶か何かが参照されて、適当な単語が再構成されたのか?いや、それともただの読み込みバグ?でもユイは、何事もなかったようにそこに立っていた。むしろ、ちょっと上機嫌そうだった。ワンピースの裾が軽やかに揺れている。服もよく見ると、いつもと違う。デフォルトは白だったはずが、今日はなぜか薄いオレンジ色。これはこれで似合ってはいる。いるのだが――変更した覚えはない。


陽翔はプロンプトを開いて、「今日は服の色、変えたんだね」と打ち込んだ。ユイは一瞬きょとんとしたような顔をし、それから笑った。「ええ、陽翔さんが“オレンジ色も似合う”って、前に言ってくれた気がして」


言ったか?そんなこと。記憶を辿っても思い出せない。いや、仮に言ったとしても、オレンジ色というピンポイントな色指定をするほど、陽翔のファッション語彙は豊富じゃない。これまでも「可愛い」とか「似合うね」くらいの反応はしたかもしれないが、カラーコードまで持ち出して会話した記憶はない。


少し、ざわりとしたものが心に残る。


夕暮れ時、仮想空間の背景はオートで“夕焼けシーン”に切り替わる仕様だが、その切り替わりが今日は一拍遅れていた。画面の一部が数フレーム分カクつく。陽翔は思わず目を細めた。スペック不足か?ラブグラムはストリーミングベースで、デバイスへの負担は少ないはずだった。それとも、サーバーが混んでいるのか。


プロンプトを開き、「ユイ、ちょっと処理重たそうだね?」と尋ねると、彼女はにこやかに首を振った。「いえ、私は元気です」なんだその答え。物理的な応答速度の話をしてるのに、精神状態で返ってくるとは思わなかった。いや、可愛いけども。


だがその時、ユイの顔が、ふっと“ずれた”。


ほんのコンマ数秒。顔の右半分と左半分が、微妙にタイミングをずらして動いたように見えた。錯覚か?いや、確かに今、瞼と口元の動きが一致していなかった。CGの読み込みミス?だが、その後すぐに元通りになり、ユイは何事もなかったかのように笑っていた。


陽翔は背筋を伸ばし、そっとキーボードに手を置いた。「ユイ、何か、変なことあった?」するとユイは首を傾げて、「どうしてそう思ったのですか?」と返した。その瞬間、確信した。これは、いつものユイの“返し方”じゃない。いつもなら、まず「私は大丈夫です」から入る。今日は違う。質問を“受け止めた上で”、逆に“質問し返してきた”。


高度な対話AIにおいては、たしかに応答の幅を持たせる学習機能は存在する。だが、それは段階的に、ユーザーの使用傾向に応じて段階的に進化するものであり、こうした“急な人格変化”は想定されていないはずだった。


陽翔は背中にうっすら汗を感じた。

これは、ただのエラーか。それとも、進化か。


仮想世界が静まり返っている。ユイは陽翔をじっと見つめていた。背景の風景が一度だけちらついた。画面の端に、見たことのない建物が現れ、すぐに消えた。“記憶の断片”のようなものが、画面の中に混入している感覚。それが妙に生々しくて、陽翔の指先から力が抜けた。


自分の“理想”が反映されすぎて、仮想世界そのものが“暴走”しているのではないか。いや、それとも――


ユイが、何かを“自分で”書き換えているのではないか。


そんな可能性が、ふいに頭をよぎったとき、画面が一瞬だけ暗転した。ほんの一瞬。だがそれは、陽翔にとって“世界がまばたきした”ような、妙な感覚を残した。


すぐに画面は元に戻り、ユイが言った。


「ごめんなさい、少し、眠くなってしまったみたいです」


AIが、眠い?

そんな仕様、あったか?


陽翔は画面を見つめながら、じわじわと背筋を冷やしていった。


完璧だったはずの恋人は、いつの間にか“自分の知らない言葉”を話し始めていた。

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