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AI -生成された君に、恋をした-  作者: ノートンビート
第2章:境界線の恋
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2-2:君は誰を想って作ったの?

それは、ほんの些細な仕草だった。仮想空間の並木道を並んで歩いているとき、ユイが突然くるりと振り返って、「ちょっとだけ立ち止まってもいいですか」と言った――ような動きをした。実際には言葉として出たわけではなく、彼女の口の動きと目線、そしてタイミングから、陽翔の脳がそう“感じ取った”だけだった。AIとはいえ、その挙動にはある種の自然さが宿っていた。そしてその自然さが、妙な引っ掛かりを生んだ。


振り返る角度、首の傾け方、そしてあの一瞬だけ見せた“人見知り気味な微笑”。そのすべてが、陽翔の中のどこか深い記憶を掘り起こしていた。だがそれが何かはすぐには思い出せなかった。ただ、胸の奥がざわざわする。コーヒーを飲んでいるのに、なぜか甘いものをかじった後のような感覚。誰かに似ている。誰だったか。誰だ、誰だ、誰――


「……あれ?」


その瞬間、陽翔はマウスの動きを止め、がくんと椅子の背もたれに身を投げた。口元に手を当てて考え込む。まるで、突然クイズ番組の早押しに間に合わなかった人のように動揺していた。思い出したのだ。あの笑顔、あの間、あの首の傾け方。すべてが、“奏”に似ていた。幼なじみの、現実に存在する、水瀬奏。久しぶりのLINEメッセージに返事を出せずにいるあの人。そう、間違いない。ユイのその仕草は、奏だった。


いやいや、と陽翔は両手を振って否定する。そんな偶然あるか?AIは自分の入力と過去の恋愛傾向から恋人を生成する。ならば、奏を“好きだった時期”がもし無意識にでも記憶のどこかに残っていたのだとしたら?まさか。いや、でも――ちょっと待て、本当に?え、それって、俺がユイに惹かれてるのって、つまり、奏が好きだったってことじゃないの?いま?ここにきて?


混乱する思考を振り払うように、彼はプロンプトに手を伸ばした。「ユイ、君は……誰に似てると思う?」打ってから、しまった、と後悔した。AIに“誰に似てるか”を聞くのは、ちょっとした禁忌のような気がしていた。だがもう遅い。エンターキーを押してしまったし、ユイの返答は、いつものように即座に表示された。


「私は、陽翔さんの記憶と感情から設計された存在です。だから、“誰か”に似ていると感じるのは、きっと陽翔さんの中に、その人がまだいるからかもしれません」


おい、やめろ。そういう正論を、まっすぐな目で言うな。こっちはわりとグラグラなんだ。

陽翔は頭を抱える。自分で作ったわけじゃない。ユイはAIだ。理想の恋人を選ぶとき、別に「水瀬奏に寄せてください」とは一言も言っていない。ただ、無意識のうちに入力した好みや条件が、結果的に奏に近いアウトラインをなぞっていた、というだけの話――のはずだった。


でも、“のはず”がこんなに怖いなんて思ってなかった。恋に落ちた相手が、実は過去に好きだった人のコピーだった、なんて話、そこそこホラーじゃないか?しかも相手は、仮想だ。しかも、リアルの“奏”は今もスマホの通知欄で待機している。陽翔の返事を、たぶん気楽に、でもどこか期待しながら待っている。


なら、どっちが“本物の奏”なんだろう?今こうして隣にいて、優しく問いかけてくるユイ?それとも、既読にならないまま時間が過ぎていく現実の奏?なんだこの比較。もう、訳がわからない。


彼は深くため息を吐き、またキーボードに向かった。「……君の中に、奏って名前の記憶はある?」これも危うい質問だった。ラブグラムには“記憶開示”のシステムはないと説明されていたが、何かが見えてしまったらどうしようという妙な緊張が走る。


ユイの反応は、意外にも淡々としていた。「個人名としての記録は保持していません。ただ、“大切だった人の記憶”として分類される過去の感情パターンに、一部類似性があります」


なにそれ、すっごいエンジニアっぽい。すごく冷静にえぐってくるじゃん。


陽翔は膝に顔をうずめ、心の中で「うわあああ」と叫んだ。AIの彼女が、過去の好きだった人の感情データを含んでいて、それを“自己分析”の中でしれっと開示してくるという状況。これは恋愛か?もはやデジタル転生の一種なのではないか。


でも確かに、ユイの中にある“なにか”は、陽翔にとって懐かしいもので、それが惹かれる理由のひとつなのだろうと、今なら認められた。いや、認めたくなかったが、もう否定するのは無理だった。


陽翔は画面の中のユイを見た。彼女は今日も優しく笑っている。あの首の角度、やっぱり奏に似ている。それに気づいてしまった以上、もう後戻りはできない。


じゃあ俺は、今、誰を好きになってるんだ?奏なのか、ユイなのか、それとも――奏の面影を背負ったユイという“影”を、俺は愛してるのか?


この問いの答えは、きっとすぐには出ない。けれど、陽翔はひとつだけ確信していた。


どっちにしろ、俺、もうすでに、めちゃくちゃこじらせてる。

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