片鱗
「ふっ、悪かった。焦らなくていい。ゆっくり決めればいい」
ほんのわずかだけど口角を上げた国王様。
その瞬間また周りが騒がしくなった。
なんだ、ちゃんと笑えるんだ。
表情が動かないから最初は冷たそうな人だと思ったけど、案外いい人なのかも?
「聖女については、キールが戻ってきたらキールに教えて貰え。生活する部屋も用意させてあるから安心しろ。何か聞きたいことあるか?」
「名前…あなたの名前が知りたい。ちなみに私は雪音、よろしくね」
国王様って事だけは分かったけど、それ以外は知らない。
これからお世話になる…?なら名前を知らないと不便だもん。
それに最初より雰囲気が少し柔らかくなったから、今なら仲良くなれるんじゃないのかなって。
夏希もいない今、1人は寂しいもの。
また私の方を見て固まっている。
そんな変なこと言ったかな?
「どうしました…?」
「いや、なんでもない。俺は、ウィリアム・リンドネール。ウィル、と呼んで欲しい。」
「よろしくね?雪音」と先程よりもまた更に雰囲気が柔らかくなったウィルに言われた。
獲物を射るような瞳をしていることに気づいていない呑気な私は、不安はあるけどこの人とならうまくやって行けるかもと、よろしくの意味を込めて笑った。