第3章 降下 3-1.降下防衛戦
迎撃 イザベラ
「まもなく降りてくるぞ。戦闘準備。」通信機から、落ち着いた隊長の声が響いた。
「了解。」全員からの返事が、聞こえてくる。
猿どもが地表へ降りてくるのは、これが四度目だ。アイツらは、毎回違う気候の無人地帯へ降りる。候補と思われるいくつかの場所に、待ち伏せを配置して、私達が引き当てた。
多分、全機テスト機で、民間機登録されているのが良かったんだろう。基地も民間空港扱いだ。
「いくわよ。まともに動いてよね。」
「了解。」デジタル・ボイスが返事を返してきた。
私が乗っているのは、特別な新機構を組み込んだ機体だ。コパイロット席の部分に、生体パーツが乗せられている。
何の動物かは知らないが、最初のフライトの時はひどいもんだった。ちょいと振り回したら、機体がパワーダウンして、基地に引き返すハメになった。普通のジェットエンジンじゃないんだ、コイツ。
以後、今日までに、十数回しか動かしてない。最近安定してきたばっかりだ。今回は、今のところパワー・ポテンシャル高めで、維持されている。
ホントに大丈夫だろうか。そりゃ相手は、猿の探査機なんだろうけどさ。
半年前 イザベラ
「なんで、私がテストパイロットに!?」
「しばらく前に、センサーが配布されたろう?」リョーマが、自身のブレスレッドを見せながら言った。
土佐犬のリョーマは、整備士だ。闘犬の血筋のくせに、おとなしい性格をしている。
「これが何!?」ブレスレッドを、ふりかざした。
「イザベラが、最高値をだしたんだそうだ。」
「最高値って何の?」
「気力とか、精神力のたぐいらしい。」
「らしいって。」
「詳細は、教えてもらえなかった。」
「あっそ、機密って事ね。」リョーマがうなずいた。となればこれ以上、こいつに文句を言ってもしかたがない。
「よぉ、イザベラ。パイロットを、クビになったんだってな。」男二人が近づいてきた。
あいつらもパイロットだ。私より腕が悪いので、何かとからんでくる。
自慢たっぷりげに、ポーズをつけた。「そう、めでたく最新鋭機のパイロットに抜擢よ。」
相手は、顔をひきつらせた。「そうか、それはよかったな。」視線を反らして、あらためて機体を眺めまわした。
「これは、お前が整備するのか?」リョーマに聞いた。
「たぶん。」
「お前ってホント、イザベラの下僕だな。」
「別にそんなわけじゃ。」さすがに、リョーマはむっとしたようだ。
ヤツは視線を機体にもどした。
「二つの膨らみがあるな、コイツの方が女らしいんじゃないか?」
「なっ。」私はあまりの事に驚いた。
「ひどいじゃないか!取り消せ!」リョーマが、つっかかっていった。
えっ、アンタ、そーゆー性格じゃないでしょ。私の方が驚いた。
ヤツも意外そうだったが、ニヤリと笑って
「ご主人様の為に、無理すんなよ。」リョーマのおでこを、はじいた。
「このぉ!!」リョーマが、ヤツに腕を振り回して突っ込んでいった。
えっ、ちよっ、だから、何してんのよアンタ。私はリョーマを止めようとした。
しかし、もう一人が殴りかかってきて結局、四人で騒ぎを起こす事になってしまった。
リョーマは整備の面々に連れていかれて以後、姿を見ていない。
テスト機の整備についたイケメンによると、開発側に回されたらしい。
このイケメン、淡々とソツなく業務をこなすヤツで。愛想がない。
この基地きってのアバズレと、関わるつもりはないのだろう。
はりきって乗った機体はポンコツ、完全にハズレを引いた気分だった。
戦闘 イザベラ
ピー。「敵機接近。」ブザーに続きデジタル・ボイスが告げてきた。
私は目を見開き、操縦桿を強く握った。
「撃墜しろ。」隊長が、落ち着いた声で伝えてきた。
「了解。」返事を返し、機体に話しかけた。
「急上昇する。目を回さないでよ。」
「了解。」デジタル・ボイスがかえってきた。
夕焼けの空に、猿の降下船が見えた。と、船が分解した!?
分解した破片が、モニタにズーム・アップされた。翼が生えた破片?
「猿の迎撃機です。」デジタル・ボイスが告げた。
次の瞬間、回避をした。攻撃はされなかったが、一つが後を追ってくる。
小さくてすばしっこい。ドローンか!?機体を振り回した。
立て直したところで、「やられた!」「ちきしょう!こっちもだ!」通信機から叫び声が聞こえた。
見回すと、煙を吐いきながら飛ぶ機体が数機見えた。「すまん、基地に引き返す。」
どうやら、なんとか墜落せずに済んでいるようだ。
「この野郎!」アタマにきた。
突然、計器の一つから火花が飛んだ。「うわ!?」ガクンと機体が下降を始めた。
「イザベラ!」誰かの声が聞こえた。
ガムシャラに、なんとか機体を河原に不時着させた。
「使いものにならないじゃない。」ボヤきながらコクピットを這い出た。
コパイのハッチも開いている。中にいるヤツは死んでしまっただろうか。
恐る恐る、中をのぞきこんだ。ん?あれは人だ。小柄でずんぐりしてて・・・。
「リョーマ!」なんでコイツがここに?
慌ててて中に入って、ゆさぶる。「しっかりしろ!おい!」
「う。」よかった、生きてる。外へひっぱりだして、機体から離れたところに寝かせた。
見たところ、ケガはしていないようだ。息も安定している。あらためて機体を見た。あっちも安定しているようだ。
「おいっ、しっかりしろ!」あらためて、リョーマをゆすった。
「あ・・?イザベラ??」
「気が付いたか。」
「えっ!?」リョーマが跳ね起きた。「ここは??なんで??」驚いた様子で、あたりを見回している。
「突然、あのポンコツが落ちたんだよ。」私は機体を指した。
リョーマは機体を見た。「そうか、パワーゲージがいきなり跳ね上がって・・・。」
ばっとこっちを見て「どうして、俺が乗っているのに気が付いたんだ!」
「墜落してハッチが開いたから。なんでアンタが乗ってるのさ。」
「俺も高得点を出したんだと。」ブレスレッドを見せながら言った。
「それをなんで、隠す必要があるわけ?」
「え、だって・・・。」リョーマはいきなり、膝を抱えて縮こまってしまった。
「どうした?どこか傷むのか?」
「いや、大丈夫だ。助けてくれてありがとう。しばらくほっといてくれ。」
「具合が悪いのか?」
「興奮剤を飲んでるんだ。あと数時間はきれない。」
「なんだって、そんなものを。」
「パワーゲージが、高めで維持できてただろ。」
「その為に?そんなの飲んで大丈夫なの?」
「薬がきれると、暫く虚脱感が続くくらいだよ。」
「あまり、大丈夫じゃなさそう。」