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第2章 軌道戦 2-1.再戦

ダイス迎撃作戦 イチロー


 宇宙連合・スペース・ステーションからの退去は短期間で終わった。というのも、猿がわりとすぐに使用許可をだしてきたからだ。だが、宇宙連合側がすぐに対応できなかった。

 まず、ステーションに関係する者、地上要員まで含めて大幅に入替を行った。結果、軍人が多くなった。俺は普通の柴犬、イチロー・ホシノ。軍事的な活動に関する誓約書にサインした。民間人の軍事参加など、ちょっと前には考えられもしなかったが、地球人どおしの戦争は反対でも、異星人となら賛成する者多数なのが現状だ。

 ステーションの再開は困難だった。一時的とはいえ、運用停止は致命的で、リフォームと言える程の作業を必要とした。B・スパイダーは使用可能だ。単機でL1までも行けないから使用を許可したのだろう。

 俺はジロ・シラセからB・スパイダーの手ほどきを受けた。以前から彼とは親しかった。おかげで他の候補よりもうまく扱う事ができた。ステーションのリフォームの為のB・スパイダー作業には俺が乗った。とにかく、やっと中断していた実験を再開した。ただし、ステーションでロケットを組み立てるなんて、させてもらえない。

 俺はステーションのローテーション・メンバーに組み込まれ。地球と何度も行き来することになった。そんな状態で一年程経過した。


 この間、リラーマはスペース・コロニーとして本格的に稼働し始めた。月の資源利用も開始された。

 地球の近くにはオベリスクが常に一隻いて、警戒をおこたらない。

さらに、ステーションから攻撃できない衛星軌道に無人監視衛星が2機、設置されている。

 この監視衛星は"ダイス"と呼ばれていて、立方体の角を小さく切り取った形をしている。6面にスラスタが向いていて、機動力がありそうだ。人が乗れそうなサイズだが要員交代がない。

予告無しに上がってきた物は破壊されると警告を受けている。


 予定されていた定期補給ロケットが上がってきた。シュナウザーのヨハンがエアロックを抜けてきて、開口一番に言った。「緊急要請がある。君とチャーリーにコントロールに来てもらいたい。」

チャーリーはB・スパイダーの交代要員だ。今ここにはあとデヴィッドがいるが、彼は実験専門の科学者だ。実験に関する話ではないのだろう。彼は着替えもせずにそのままコントロールに降りて行った。


 「まもなく、地球解放同盟がダイスの一つに対して攻撃を行う。パイロット2名の回収をお願いする。」ヨハンの言葉に全員が固まった。

 ここの司令官たるジョージが口を開いた。

「地球解放同盟とは何か、なぜ我々がパイロットの回収をしなければならないのかを説明しろ。」

「地球解放同盟は地球圏から猿を追い出す為に世界中の有志がたちあげた組織だ。ダイスを攻撃する戦力は用意できたが、軌道上でパイロットが戻れる場所はここしかない。人道的な見地から協力を要請する。」

「協力した場合、地球と猿との戦争に発展する可能性がある。私の一存で決定できる事ではない。宇宙連合に要請しろ。」

「作戦開始と共に地球解放同盟が声明を出す。その中で宇宙連合と関係ない事も述べられる。宇宙連合が同意しないと見込んでいるから、今ここで依頼している。」

「断ったらダイスへの攻撃を中止するのか?」俺が口をはさんだ。

「いや。いずれにしろ攻撃終了後にパイロットからここへ救助要請がくる。」

「今のはただの予告かよ。」

「そうだ。」俺はあきれた。周りも苦い顔をしている。

「SOSを出されたら。無視できないな。」ジョージが考えこみながら言った。

「人道的というのはそういう意味だ。」

「俺達は攻撃の間、何もしなくていいのか?」俺にも戦えと言われるのかと思った。

「いつでも救助に出れるよう待機してもらいたい。」

「いつでもって、いつから?」

「もうすぐ始まる。スペーススーツに着替えて欲しい。」

「俺がでるのか?自分でやれよ。」

「いいのか?」ヨハンがジョージに確認した。

「お前にはまかせられない。イチロー、チャーリー。スペーススーツでエアロック前で待機。

指示があり次第B・スパイダーで出ろ。以後、無線の使用を禁止。全てインコムで通話しろ。」

「了解。」


 俺はその場で上着を脱ぎ始めた。ここでする事じゃないが聞きたい事がある。

「それにしてもダイスの性能をどうやって調べたんだ?」

「知らない。」

「え?」再度、全員が唖然とした。

 「ダイスに勝てる前提じゃないのか!?」

「我々はS・スパイダーを用意したが、どこまで通用するは不明だ。」

「無謀な。」

「それでも戦うのか!?」

「S・スパイダーって!?」

三人がそれぞれ問い詰めた。

「反抗の意思の強さを示すのが目的だ。S・スパイダーはBタイプの機動力をさらに向上

させたもので、火力は十分だ。あわよくばダイスの破片の入手、内部構造が見られれば上出来だ。」ヨハンが淡々と答えた。

 「関心しないな。」ジョージがヨハンを睨みつけた。

「今回はしかたなく救助するが、今後はあてにしないでもらおう。」

「わかってるよ。」ヨハンは平然と答えた。



 地球解放同盟の声明はヨハンの言ったとおりの内容だった。

「解放同盟のロケットを捕らえた。」デヴィッドがモニタの画像をズームした。彼にはコントロールルームでカメラ操作等をしてもらっている。ジョージがヨハンを見張りつつ指揮をしている。

 ロケットの外郭が開いた。S・スパイダーが2機・・・。

「ヨハン!なんだアレは!?」モニタに移った姿に俺は思わずインコムへ叫んでしまった。

「外観は日本のアニメを参考にしている。設計に好きな奴がいたんだろう。」

ヨハンから答えがかえってきた。

参考どころじゃない!胴体=コクピットはスパイダーだが、首に頭部が載り、腕と脚がたくましくなって、大きめのスラスタが付いている。足がクローになっているところがスパイダーらしい。ミサイルは胴体の両側面についている。


 S・スパイダーはお互いに距離をとってダイスに近づいていく。

「それ以上の接近は敵対行為とみなし攻撃します。今すぐ引き返しなさい。」

ダイスから猿との交信用のチャネルで通信が入った。

 なおもS・スパイダーが接近するとダイスから再度同じ通信が入った。

ついに、ダイスの切り落とされた角の2ケ所からミサイルが1発づつ発射された。

少なくとも後6発のミサイルが搭載されているわけだ。


 S・スパイダーは脚のスラスタを使って回避運動に入った。あれならB・スパイダー

以上の機動が可能だ。腕のスラスタも併用して2機共ミサイルを華麗に回避する。


 ダイスからミサイルが4発、発射された。S・スパイダーは今回は左右の腕からの

機銃でミサイルを1発づつ撃破して対処した。B・スパイダーではできない芸当だ。


 S・スパイダーから各1発づつミサイルが発射された。ダイスは6面について

いるスラスタを使用して複雑な動きで回避した。


 「ダイス2が動いた。」デヴィッドが声をあげた。

もう一機のダイスが頂点の1つを先に突進をし始めた。あれなら4面のスラスタで

1方向へ加速できるわけだ。

S・スパイダーはさらに、各1発づつミサイルを発射したがダイス1に軽くかわされた。

「オベリスクがこっちに来るぞ。」ジョージが硬い声で告げた。

モニタの端に割り込んだ部分にはオベリスクの噴射光が映されていた。

「ダイス2からミサイル6発、発射!」デヴィッドの声に焦りが見える。

 S・スパイダーは両脚、両腕を使用して回避を始めた。

腕はスラスタだけで機銃は使用していない。1回づつしか使用できないのだろう。

1発,2発と回避したが、次々と被弾してしまった。爆発は起こらなかったが

大破はまぬがれなかった。


救助 イチロー


 「S・スパイダー1,2応答しろ!」ヨハンが通信を試みている。

「イチロー、B・スパイダーに搭乗して待機。無線使用制限を解除。」ジョージから指示がきた。

「了解。」俺はチャーリーにうなずいてヘルメットを閉めた。


 「オベリスクからペンシルが発進!」ジョージから声があがった。

「ペンシルがもう一機出た!」

「とどめを刺す気か?」ヨハンがつぶやいた。

チャーリーが反論した。「その気ならダイスがやってるだろ。それよりも、こちらがどちらかを捕まえられそうか?」

「どちらのS・スパイダーも捕まえられない。」デヴィッドが計算を終えたらしい。

「そんなはずない!」ヨハンが叫んだ。

「どちらもステーションから離れる方向へ高速に動いている。今からでは捕まえても戻ってこられない。」

「・・・。」ヨハンは何も言えないようだ。

「猿はどうしてる?」チャーリーが聞いた。

「ペンシルがそれぞれのスパイダーへ急速に接近中。オベリスクはゆるやかに地球へ向かっている。」ジョージから答えがきた。

 俺はB・スパイダーに乗り込み、ハッチを閉めた。「B・スパイダーだせるぞ。」

「オベリスクに対して警戒態勢。配置につけ。」

「了解。」B・スパイダーをステーションから切り離し、オベリスクの来る方向へ向かった。


 「ペンシルがS・スパイダーをマグネットアンカーで捕まえた。2機共だ。」

ジョージから通信が入った。

「連れてく気か!?」

「・・・。こっちへ向かって来ている。迎撃位置へ移動しろ。指示があるまで攻撃するなよ。」

「しないよ。人質とられてるようなもんだろ。」

俺はB・スパイダーを移動した。


 「こちらオベリスクのトム。ステーションのジョージ応答願う。」

猿用のチャネルに男の声の通信が入った。あいかわらず、こっちの通信は筒抜けらしい。

「ジョージだ。」

「攻撃の意図はない。ステーションの近くに捕らえたスパイダー2機を停止させる。B・スパイダーを戻して欲しい。」

信じていいのか?どうする?俺はジョージの判断を待った。

「承知した。イチロー戻れ、エアロック近くに待機。」

「了解。」

俺はエアロックの目の前まで戻って、コクピットから空気を抜き始めた。


 ペンシルがブレーキをかけて止まった。と思ったら、マグネットアンカーをはずして

飛び去った。

「イチロー。チャーリーをS・スパイダー1へ連れていけ。その後S・スパイダー2を救助。」

「了解。」エアロックから出てきたチャーリーを腕につかまらせて。S・スパイダーの救助を行った。二人共、重傷だった。


 「今後はミサイルを起爆させる。確実に破壊されるのでむやみに挑発しないように。」

猿のトムは警告と共に2つのダイスを回収し、新たに3つ残していった。


 パイロット二人をジョージとヨハンにまかせて、俺達は地球からの荷物を急いで降ろす事にした。

「キューブの能力が解ったな。」

「警戒機にミサイル8発なんて積みすぎだろ。」

「予想どおり、わざと起爆させてなかったんですね。」

3人で雑談しながら荷物を移動させた。でなきゃ、やってられなかった。

わかってはいたけど、猿がその気になればステーションなんてすぐに宇宙ゴミだ。

「スパイダーをいじくっただけじゃ敵わないって。」

「オベリスクは、やっぱりペンシルを3機積むだけの容量があるんだな。」

「あぁ、ダイス3つでペンシル1機分あるよな。」

「ペンシル4機の可能性もまだ残ってますよ。」

くそっ、地球解放同盟の言い分もわかる。宇宙では猿のいいなりになるしかない。


 「彼らをどうするんだ?」俺がジョージに聞いた。

積み荷をステーションに降ろし終えたところで、4人でコントロールに集まった。

地球解放同盟の3人は無重量エリアでおとなしくしている。

「可能なかぎり早く、地球へ降りてもらう。空気からして予定以上に消費してしまう。治療もここでは十分にできない。」

「地球とも連絡をとってスケジュールを作成しないと。」チャーリーが発言した。

「イチローとチャーリーは休憩をとれ。デヴィッド申し訳ないが、二人が戻るまで手伝ってくれ。」

 俺とチャーリーはもくもくと食事をとった。話すべき事はたくさんあるのだが、いろいろあって自分の考えがまとまっていない。

「とりあえず、目の前の事をかたづけないと。」俺がこぼした。

「そうだな。」チャーリーもつぶやくように答えた。

 俺達は寝る間もおしんで作業を続け、翌日に3人を地球へ戻す手筈を整えた。


 「世話になった。」降下船に入る際にヨハンが頭を下げた。

「まったくだ。言いたい事、聞きたい事がたくさんあるが、それは下にいる奴らにまかせる。」ジョージはあいかわらず淡々と言った。

「我々は猿に支配されるつもりはない、というだけだ。」

「別に俺も服従するつもりはないさ。」俺が口をはさんだ。

「それならいいんだが。」

「続きは下でやってくれ。」ジョージに制止された。

降下船が切り離され、下降コースへ入って行った。


 ステーションに残った俺達が落ち着いて話し合いができたのは、さらに1日後だった。

「通常運用に戻ったからには、スケジュールが遅れた実験を進めるのが急務だ。デビッド、状況を。」ジョージが指示した。

「地球から更新されたスケジュールが来ています。皆さんにも手伝っていただきます。」

「もちろんだ。」チャーリーが即答した。

「もちろん手伝うが、実験に集中してていいんだな?」俺は情勢が気になる。

「猿の監視を三人交代で一人が常に行う。」ジョージから訂正が入った。

 「猿からは何もないな。」とチャーリー。

「ダイスが3つになった以後は変化ないですね。」とデビッド。

「地球解放同盟が猿の非道をアピールするとか言ってなかったか。」と俺。

「宇宙連合が止めたんだろ。救助された様子も撮影してるからな。」ジョージが答えた。

 「ヨハンはどうなった?」

「地球解放同盟のメンバが弁護士を連れて宇宙連合に乗り込んできたそうだ。

この件は下にまかせとけ。」

なんか、めんどうな事になってそうな気がしてきた。

「そうする。さて、何から始めようか?」

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