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選択 ケン


 エアロックの内側で、下着姿のパトリックに手伝ってもらって、ヘルメットをはずした。

「コラっ。」頭を軽く殴られた。

「いて。」

「お前、危うく戦争を、引き起こしかけたぞ。」言葉は厳しいが、顔が笑っている。

「え、そうか?」そんなにひどい、やりとりだったか?

「相手が、ブスの全権大使でなくてよかったな。」

確かに、地球上でなら国交断絶モンだ。俺はいまさら、ぞっとした。

「まぁでも、"あなたが気さくな人で、よかったわ"?」彼女のセリフをマネされた。

「気に入られて、よかったじゃないか。この、女たらし。」スーツを小突かれた。

「いや、そんなつもりは・・・。」俺はとまどった。

「わかってるよ。上司がどう思うかは知らんがな。」

「えっ。」ローナだけじゃなく、地球からも叱られそうだ。

「まぁ、もうドンパチ始めたんだけどな。」

「あ。」そうだった!ショッキングが事が続いて、現状がわからなくなっている。

「とりあえず、無事でよかった。先、行ってるぞ。」

パトリックは、普段着に着替えて出て行った。


 俺は気まずい気持ちで、コントロールルームに降り立った。

「お帰りなさい。無事でよかった。」ローナからハグされた。

「ありがとう。」体を離した。

「突然の直接対話も、終始なごやかで良かったわ。歴史的人物になったわね。」

俺は頭をかかえた。「異星人と、アホな会話をしたヤツとして、汚名を残しそうだ。」

「あなたは相手に、悪感情を持ってなかったわね。」

「悪感情?なんで??」

「最初、殺しあっていたけど?」

そんな事、忘れてたな。

「殺し合いに、なってなかっただろ。全弾あっさり回避されて、反撃もされなかった。」

「こっちは攻撃されて、衝撃をうけたわ。」

そうか、それは生きた心地が、しなかったろう。

「守れなくてすまない。」俺はうなだれた。

「今、三人共無事なんだから、いいのよ。対話も、あちらは顔見せが目的だったんだし、地球の態度にも変化はない。いろいろ得られたものもあるしね。」

「なにかあったか?」俺は顔をあげた。

「分析は、地球にまかせましょ。今は、我々に向けられた提案を、考えましょう。」

「何を提案されたんだっけ?」俺はいろんなでき事がありすぎて、マジで思いだせなかった。

「おいおい、しっかりしろよ。月降下船を、ステーションまで運んでやるって言われたろ。」パトリックからはたかれた。そうだった。


 月降下船は、月面キャンプ設営の為の物だが、火星ロケット製作を優先させた為に、ここしばらく使用されていない。

 月降下船は、ゲートウェイから月面へ退避する場合にも、使用される。空気で膨らむテントが、静かの海の洞窟にあって、そこでのびのび救助を待っていられる。それだけの空気、水、食料等が用意されている。

 衛星軌道まで上がって、救助にきたルナシャトルとドッキングする。というのが本来の用法。

 もちろん、月降下船内だけで、救助を待つ事もできる。その期間内であれば、月降下船で月から地球まで運ばれる事もできるだろう。どう運ぶのかが問題だが。


「とりあえず、飲み物を持って座りましょ。」ローナから席についた。

 俺はスポーツ飲料にした。座ってひとすすりすると、だいぶ落ち着いた。

「地球は、迎えをよこしてくれるって?」二人に聞いた。

「たぶん無理。」とローナ。

「猿もルナシャトルの接近を、ゆるさないだろう。」とパトリック。

俺はパトリックに顔を向けた。「なんで。」

「核を積んでいて、突っ込んでくるかもしれんからな。」

そうか。無人で飛ばしてきてもいいわけだ。

 「地球側は、俺達に死んでくれって?」ローナに責めるように聞いた。

「まずはこちらで、猿からの提案を受けるかを検討しろって。」

「こっちの意見を聞いてくれるのか?ステーション側は?」

「たぶんあちらでも検討中でしょ。こちらの三人を受入れるキャパはあるはず。」

うん、そのはずだ。

「ここでのたれ死ぬか、敵の情けを受けるかの選択なんだが、ステーションに着いた後の事はわからん。」パトリックが重く言った。

「着いた後?」

「一時的にでも、敵の捕虜になって、解放されるわけだからな。良い待遇は、期待しない方がいい。」

そういう事もありか。

「技術面はほとんど、あっちにおまかせするしかないわ。」

「こっちは、何もする事なしか。」

「月降下船とステーションのドッキングには、ソフトの修正が必要よ。現状、降下船からステーションまで、宇宙遊泳することになる。」

「ソフトの修正は、間に合わないか・・・。」


「月と地球の間で、何かされるとは思わないんだな。」パトリックから軽く睨まれた。

「何かって?」

「俺達をひきずり下ろすとか。降下船に、しかけを付けるとか。」

「俺達をつかまえたきゃここでもできるし、ステーションの破壊なら、オベリスクとペンシルでできるだろ。」

「盗聴器とかの、スパイ機器とか。」

「否定はしないが、通信に割込みかけてきて、核ミサイルの事まで知ってたぞ?」

「月降下船内外のカメラ映像はステーション、地球でも常に監視される。手だしされればわかるわよ。」

俺はうなずいた。この件はこれで納得するしかないな。


「B・スパイダーの事が、どこまで漏れてるか気になるな・・・。」パトリックが顔をしかめた。

「もう姿を見られているから、おおまかな推測はされてるだろ。」俺がつっこんだ。

「ずいぶん、あっちの肩をもつな。」

肩をすくめて答えた。「さっきデートの約束を、とりつけたばかりだ。期日未定だが。」

パトリックがにが笑いした。おい、冗談だと通じているよな?


 ローナも交えて、いくつか懸念事項を話し合った後、俺達はだまりこんだ。

「こんなものかしら。」ローナが区切りをつけた。

「俺達の決心だけで、あとはあちらまかせだ。」パトリックは不満そうだ。

「地球側はOKするかな?」俺は天井を見上げた。そっちに地球があるわけでもないのだが。

「まずはこっちよ。私は提案を受ける事に賛成。」

「俺もだ。」二人がハモった。

 「では地球にこちらの意向を伝え、指示をあおぎます。」ローナが席を立った。

「俺はスパイダーに、弾薬を補充する。」パトリックも立った。

俺は驚いた「おいっ!それはこの話し合いより、優先事項じゃないか!」

パトリックは意外そうだ。「比較的短時間での返答を求められていて、無線会話はまる聞こえなんだぞ?急いで顔合わせて話すしかない。攻撃はされないだろ、デートの約束をしたばかりなんだろ?」

うっ、やりかえされた。殺すならとっくにやってるよな。でも、備えは必要か。地球が何と言ってくるかもわからないし。「では、俺はエアロック前で待機だな。」

「俺の作業が終わるまで、しばらく休憩してろ。お前が作業可能になったら呼ぶからな。」

そんなに、のんびりしてていいのか?でも現状、そうするしかないか。

「わかった。」食堂へ行くべく、コントロールルームを出た。


 俺はなんとなく、リンゴをかじることにした。

モニタの端にオベリスクの現状を映しつつ、ペンシルの着艦の様子を撮影した動画を見た。

ペンシルの前部と後部あたりから、マグネットアンカーをオベリスクにつけた。

するすると引き寄せ、羽2枚の向きを変えて甲板に着艦した。マグネットアンカーが定位置につくように誘導されているのか?甲板が沈んで、ペンシルが格納された。開いた穴はシヤッターが、交互二重に閉じた。

 この後多分、ペンシルの周りに空気が満たされ、整備員がホースとかを引き回すんだろうな。

人型ではないロボットがやるのかな??いかん、となりの芝が緑に見える。

いや、こっちもほぼオートでドッキングでき、燃料と空気も補充される。うん、すごいぞ。武器、弾薬は軍人しか扱えないが。

 リラーマの現状を大きく表示した。推定コースが右下に表示される。刻一刻L1に接近している。

でかい、圧倒的だ。月より大きそうな錯覚さえ覚える。

 ローナのアナウンスが入った。「ケン、パトリックを手伝って。」

「了解。」俺はエアロックへ向かった。


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