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1-2.初戦

初戦 ケン


 俺はスパイダーを、所定の位置で停止させた。人のせいにするのはナンだが、俺が戦う決心をしたのは、ジロのせいだ。

あの後、ステーションに連絡を入れたら、アイツはすっかりやる気だった。そういえば、おとなしそうな顔して、しっかり猟犬の本性も、持っていたんだった。俺も負けてられるかと、思った。後悔してはいないが。


 今回リラーマは、通過するだけの見込みだ。減速が間に合わないらしい。ただ、通過の際に、何か置いて行かれたら困る。

 実際、火星の衛星軌道に、探査機を置いてきている。探査機からの観測情報は、地球にも提供されているそうだ。それだけならとても友好的な行為なんだが。


 予想どおり、リラーマは通過するだけだった。ただ、距離があるにもかかわらず、視認した物の大きさに圧倒された。あんなでかい物を、自在に動かせるのか?近未来の、予測可能な範疇とはいえ、とても脅威的だった。ローナ、パトリックもほぼ同様の意見だった。

 それでもジロはあいかわらず、やる気だった。たぶんやるのは、こっちが先なんだが。

 ちなみに、リラーマの反対側は少しすぼまっているだけで、とがってなかった。少しと言っても、リラーマの規模だとKm単位だが。


 後日、リラーマが引き返してきた。長い四角錐、オベリスクみたいな形の宇宙船を前後に従えて。

前をオベリスク1、後ろをオベリスク2とした。オベリスクは、大きさからして、宇宙戦艦と推測されている。

 リラーマは、今度こそラグランジュ・ポイントのいずれかで、停止するはずだ。地球の衛星軌道は、核ミサイルが多数上がってくるから避けるはず。。

 位置の都合上、ステーションからの迎撃は不可能。やはりゲートウェイが初戦場だ。

「現在、リラーマは、地球の最接近ポイントを通過。今のところ動きなし。」

コントロールルームのローナから、声がかかった。もちろんインカム越しだ。さっきから3人とステーション、地球の5人同時通話で繋ぎっぱなしだ。


 「オベリスク1が軌道を変更。約1Gで加速中。」

リラーマが、1Gで減速するんだから、オベリスクはそれ以上できるよなぁ。

「このまま加速が続けば、すぐにここに来る。準備して。」

「了解。」俺はパトリックと拳を合わせた後、エアロック内へ向かった。


 スパイダーを所定の位置につけた。オベリスク1が近づいてくる。あっちの射程が、段違いに長いんじゃないかと、不安になる。オベリスク1が、だいぶ距離をとって停止した。

「オベリスクから、何か分離したわ。」モニタの望遠映像を凝視した。鉛筆に羽をつけたような物が、噴射炎を出して突進し始めた。

「あのペンシルは戦闘機サイズ。どうやらオベリスクは、空母のようね。」

戦闘機とやるのか!!四方向についている羽の先に、ミサイルのような物がついている。


「こちらペンシルのパイロット、コーネリアス。ゲートウェイに、核ミサイルの廃棄を要請します。」知らない女性の声がわりこんだ。

「誰!?」ローナが、驚きの声をあげた。

「あなたが、さっきペンシルと呼んだ戦闘機を、動かしている猿よ。ゲートウェイの横に浮いている、核ミサイルの廃棄を願います。」

「・・・・。」ローナからの応答がとだえた。俺も動揺している。無理もないだろう?異星人に、話しかけられてんだぞ!?

「こちら宇宙連合。要請は受入れられない。」うわっ、地球から返事がきた。

「では、リラーマの安全確保のために、破壊します。」コーネリアスと名乗る者が答えた。

現場の意見は無しかよ!同じ返事になるだろうけど。

「ケン、戦闘開始。機首に砲が装備されているようだから、気をつけて。」モニタにペンシル先端のクローズアップが、表示された。これがメインウエポンか?

 俺は射線からはずれるべく、回避運動を開始した。同時にスパイダー左脚に装備された、ミサイルの照準をペンシルへと向け始める。ある程度合わせれば、オートロックしてくれる。

 ペンシルからは、まだ何も撃ってこない。

"ピー"オートロックした。トリガーを押し、発射を確認した後、回避運動に入る。

ペンシルが、胴体からスラスタをふかして、回避運動に入った。早い!余裕でミサイルをかわす。

 俺は次弾を撃ち放った。回避運動をしつつ、右脚機銃の照準を合わせはじめた。

ペンシルは2発目もかわした。機首をこちらへ向け始めている。

機銃掃射!ペンシルは、機首がこちらへ向くよりも前に、スラスタで機銃をかわした。

と、ペンシルがこちらを無視して、ゲートウェイに向かいだした!

"ピー"最後のミサイルを発射。これもかわされた。

「ローナ、そっちへ行った!!」俺はわめき、ゲートウェイへ全速力で向かった。

 「ミサイル発射。」ゲートウェイから、ペンシルへ向かってミサイルが発射された。

ゲートウェイのレーザー射角に、ペンシルが入っていないのだろう。ローナは冷静に対処している。

ペンシルはこれも避け、羽の先からミサイルが発射された。


 「火星ロケット点火。」ローナから、機械的に伝えられた。

ゲートウェイの近くに浮かんでいる、火星ロケットから転用された核ミサイルに火が着いた。

しかし、ロケットが突き進むよりも早く、ペンシルからのミサイルが命中した。

火星ロケットは破壊され、後方のロケット部分はあらぬ方向へすっとんで行き。先頭部分も宇宙のかなたへ飛んで行った。

「ゲートウェイ、こちらコーネリアス。戦闘を停止しなさい。そちらが攻撃しなければ、こちらもしません。」

「火星ロケットを破壊しておいて、よく言うよ。」俺はツッコミを入れた。

「核を火星に飛ばす予定じゃないでしょ。あれはリラーマを破壊するためのミサイルよ。そちらは、私を殺すのがせいぜいだから、やめておきなさい。」

どうする?不利そうだよな?

「戦闘を停止します。ケン、おとなしく戻って。」ローナが、ひときわ抑えた声で伝えてきた。

「了解。」まぁ、妥当だよな。続けても、あっちのミサイル一発づつで終わるだろうし。

運動性能に差がありすぎ。あっち、いいエンジン使ってんなぁ。ってあたり前か。


コンタクト ケン


 ゲートウェイに、スパイダーをドッキングさせたところで声がかかった。

「ハヤカワさん、こちらコーネリアス。私とちょっとお話しない?」

異星の女から、ナンパされたぞ!!?「ハチ公前に17時でいいか?」

「・・・それは、何かのジョークなのよね?ゲートウェイの上で会いましょう。

これからマグネット・アンカーを使う。無粋な音がするけど、支障はないから。繰り返す、これは攻撃ではない。」

「おいっ!何する気だ!?」

ガンッ「きゃ!?」「うぉ!?」通信ごしに無粋な音とローナ、パトリックの悲鳴があがった。

「何があった!?」俺は慌てた。

「私は大丈夫よ。」「俺もだ。」とりあえずほっとした。

「特にアラートも出ていないわ。」「こちらも異常無し。」二人から、落ち着いた声で報告がきた。

「ハヤカワさん、こっちへ来て。」コーネリアスから再度、声がかかった。

覚悟を決めた。「これから行く。ちょっと待っていてくれ。」

 マグネットブーツで、ゲートウェイの円筒上を歩きだした。

ペンシルからワイヤが伸びているのが見えてきて、その先がゲートウェイに繋がっている。

その元、ペンシルの影に、スペーススーツが一人立っていた。

「ゲートウェイに、損傷が無い事を確認して。」

スペーススーツが、ワイヤから離れた。ワイヤの先に、500ml缶くらいの円筒がついていて、

動作中を示すらしいランプが、赤くピカピカ光っている。円筒の先が、手のひらを広げたくらいの円盤になっていて、それがゲートウェイにくっついている。

二人にも、カメラ越しに見えてるはずだ。

「マグネット・アンカーには触らないで。スーツの金属部分がついちゃうわ。」

マグネット・アンカー?なるほど。電磁石の宇宙錨か。

「ゲートウェイに損傷は無い。このアイデアは、いただきだな。」

「離れて。」

俺は数歩離れた。スペーススーツが近づいてきた。と、ヘルメット内が明るくなって

顔が照らし出された。チンパンジーだ!!チンパンジーが鳴き声で俺を呼んだ。

「はじめまして、ハヤカワさん。」さっきから聞こえていた、犬の女性の声が続いた。通訳機の声だったのか。

俺も顔を照らしてから答えた。「はじめまして。個人的な事を聞いてもいいか?」

チンパンジーが短い鳴き声をあげた。「どうぞ。」

コーネリアスはイヤホンでも使っているのか、こっちの猿語訳は聞こえてこない。

「あんたって美人なのか?」

コーネリアスは目を見張った後、頭に手をやってうつむいた。あ、マズったかな?

鳴き声の後に顔をあげた。「そうよね、男性には重要な問題よね。」

しまった、サイテーの質問をしてしまった。ん?鳴き声に知った名が混じったぞ。

「オードリー・ヘップバーンという気はないけど、ブスとも思いたくないわね。」

それは20世紀の美人女優じゃないか。俺は以後、猿の鳴き声を無視することにした。翻訳機の声だけ気にする。

「私にはあなたが、トム・クルーズとは、犬種が違うくらいしかわからないわ。」

21世紀のイケメン俳優だ。

「俺はド三枚目だよ。映画をかなり見たんだな。」

「えぇ。名作と言われる物と、異星人とコンタクトするSFを中心に。"宇宙戦争"は地球人に一方的に都合が良すぎるわ。」

「一方的って?」

「私が今、呼吸している空気に、あなた方に致命的な細菌が含まれているかもしれない。」

俺はたじろいだ。コーネリアスが手をぶんぶん振った。

「私達は、細菌をばらまくつもりはないのよ。私もゲートウェイに入ったら地球の細菌に感染するかもしれない。お互い様ってことよ。」

「じゃ、俺達をどうする気なんだ?」

「私達には、あなた方三人が乗った、月降下船を地球のステーションの近くまで運ぶ用意があります。」

「ゲートウェイを捨てろという事か。」

「核ミサイルを撃ってくる人達の、隣には住めないわ。」

「隣に住むだと?」

「リラーマはもうすぐL1に停止します。」

「L4とかL5じゃないのか?」

「月資源が利用しやすいから。」

「どうしても、月資源を使う気なんだな?」

「外部からの補給なしには、生きていけないの。」

そうか、そういう事情なのか。

「ステーションには、いてもいいんだな?」

「すぐ横に浮いている、核ミサイルを破棄してもらえるなら。」

・・・まぁ、当然の要求か。

「こちらは宇宙連合。要求は受入れられない。」そういえば、地球にもつながってるんだった。

「私はメッセンジャー。交渉は上部の者としてください。」とコーネリアス。

「地球をどうする気だ?」

「地球人とは仲良くしたい。」

「支配するんじゃないのか?」

「さっきも言ったけど、細菌の問題があるし、絶対数が足らないわ。」

「それじゃ、別々に生きていくとか。」

「それはしたくないし、たぶんどうしたって交流はできていくわ。」

俺は未来に思いをはせた。「観光コースができたら、案内してくれ。」

あ、あれは多分、笑顔だ。「気がはやいのね。」


「とりあえず、伝えるべき事は伝えたわ。あなた達3人がどうするかを24時間内に決めて。」

「24時間内?」

「延長も可能だろうけど、そちらの空気を浪費するだけよ。」

これで終わりか。あれっ?そういえば。「なんで直接、話したんだ?通信でもできるだろ?」

あ、笑われた。「最初に、それを聞かれると思ってたわ。」

はずかしい。思わず下を向いてしまった。

「話をする猿が、本当にいる事を証明したかったのよ。」

急いで顔をあげて相手を見た。

「さすがに、ここで脱いで見せる気はないけどね。」

相手の顔をじっと見た。「君の血は赤いのか?」

「ええ、血は赤いし、涙も汗も流すわ。私達は驚く程、似ているのよ。外見以外はね。」

俺達はしばらく見つめあった。

「それじゃ、ゲートウェイの中へ戻って。」

「次は事前に連絡をくれ。もっとましな応対をするから。」

コーネリアスは微笑んで言った。「なるべくそうする。あなたが気さくな人でよかったわ。」

ベルトからはずした小さな機械をワイヤにかませると、軽くジャンプして上昇して行った。

ハンディ昇降機だったらしい。

 俺は背をむけて歩きだした。「ケン、ペンシルを見て。」ローナから指示された。

ペンシルはまだ浮いていた。先頭の円錐部分は、透明になっていて、椅子に座るスペーススーツが見えた。手を振られたので、軽く振り返した。

 マグネット・アンカーが回収された。ペンシルが先頭をこちらに向け、後退し始めた。しばらく離れてから、回頭してオベリスクに向けて飛び去った。


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