第1章 接触 1-1. リラーマ
犬、猿型半獣人の異星人の話です。ファンタジーではなく、SF設定でお願いします。
プロローグ
ある日、何の前触れもなく、太陽系に最も近い恒星"プロキシマ・ケンタウリ"がスーパー・ノヴァと化した。
このニュースは世界を驚かせたが、しばらくしてプロキシマ・ケンタウリが爆発したのではなく、間にある小惑星が科学反応を起こして、輝きだした事がわかった。
ごく一部で、宇宙人のしわざと噂されるものの、いつものごとくしばらくして、多くの人から忘れさられたのだった。すぐに消えるだろうと、言われた輝きを空に残したまま。
宇宙連合の発表 ケン
2033年、月の衛星軌道には"月軌道プラットフォーム・ゲートウェイ"と呼ばれる宇宙ステーションが稼働している。
21世紀初頭のISSと違うのは中央の動力ブロックに牛乳瓶のような形のブロックR,G,Bを三方向に突き立てて、グルグル回しているところだ。
俺はケン・ハヤカワ。秋田犬。この星の人類は犬の半獣人だ。作業ポッド"スパイダー"のメインクルー。
今ここにはあと二人いる。チームリーダーはアネキ肌のローナ。イエローのラブラドール・レトリバー。先日、ルナシャトルで地球の衛星軌道にある"宇宙連合・宇宙ステーション"から来たばかりのパトリック。黒いブービエ・デ・フランドル。
ルナシャトルは"ステーション"と"ゲートウェイ"を往復しているロケット便だ。
ちなみに、俺以外の二人は軍務経験者だ。いや、今も軍に所属しているか。
俺は今日もスパイダーで、火星ロケットを組み立てている。
スパイダーは、カプセル型の胴体がコクピットで、X字にスラスターが伸びている。
脚にあたる重量物用アームで部品を運び、細腕二本のマニュピレータで組み立てる。
計8方向にアームが伸びているのが、スパイダーと呼ばれるゆえんだ。
コクピット内は与圧されていて、作業者は動きやすい簡易宇宙服を着用している。
「ケン、進捗はどう?」ローナから連絡が入った。
「ネジをあと一つ締めたら、戻るよ。」
「三人揃って聞くように、厳重に言われているから、間に合わせて。」
「スペーススーツを脱いだら、すぐにコントロールルームへ行くよ。ガウンとワインを用意しておいてくれ。」
「バスタオルと水でがまんしてくれ。」パトリックが笑いながら答えた。彼はエアロック手前で、スペーススーツを着て待機中のはずだ。
「用意してもらえるだけ、ありがたいね。」
スパイダーを、ゲートウェイの端にドッキングさせた。といっても、最後のところはオートだ。こちらの端には他に、月面降下船が付いていて、反対側はルナシャトルがドッキングする。
スパイダーから出て、エアロックからゲートウェイに入った。ジャージ姿のパトリックに手伝ってもらってスペーススーツを脱いだ。バスタオルを下着姿にまきつけて部屋を出る。
コントロールルームは、有重力ブロックにある。有重力といっても、1Gなんてとんでもない。ゲートウェイを中心にゆっくり回る3ブロックに、ごくわずかにあるだけだ。でも、あるのとないのでは雲泥の差がある。3ブロックの底を部屋に分けて各自の個室、シャワー、食事,運動等の共有スペース、実験で使用している。
Rブロックを示す赤い入口から、コントロールルームへ"降りて"行くと、「おつかれさま。」ローナから、水の入ったボトルを渡された。
「なんとか間に合ったわね。」皆席についた。
コントロールルームは6人がけのテーブルが、部屋の大部分をしめている。有重力ルーム自体が、大きくとれないのだ。
これから宇宙連合の長官が、世界に向けてメッセージを放送する予定だ。内容は知っている。
残念な事に、宇宙連合というのは、惑星間とか恒星間のとりまとめではない。
ロケットを打ち上げられるだけの実力を持つ国々を中心に、共同で宇宙を利用しょうと立ち上げた団体だ。
このゲートウェイも、宇宙連合つまりは、各国の出資で作られた。
長官が挨拶の次に言ったのは、次のような事だった。
「全人類の皆さん、これから重大な事柄を申し上げます。聞いた後も、騒ぐ事なく落ち着いていただきたい。
我々は危険はないと考えています。くり返します。危険はありません。避難等の必要はありません。」
長官の後ろに、地球と月の間に引かれた線を小惑星が通過して行くアニメーションが映された。
「およそ一週間後、小惑星が地球の近くを通過します。衝突はしません。ただし、小惑星付近には小さな岩がとりまいていると思われ、これらが地球にふりそそぐと予想されます。」
予想図が表示された。
「ほとんどが、地表に到達する前に燃え尽きるものと思われますが、少し大きな物ですと衝撃波等で窓ガラスが割れる等の被害がでるかもしれません。」
ここで、過去の被害の映像が紹介された。
「又、小惑星が最も地球に接近する際には、通信障害が発生する恐れもあります。
しかし、甚大な被害の恐れはありません。くり返します。危険はありません。避難等の必要はありません。皆さんは、落ち着いて、日々を過ごしてください。」
万が一、大きい岩が近づいた場合は、月軌道のゲートウェイと、地球軌道のステーションで、訓練を受けた者が対処することになっている旨が紹介された。俺の事だ。
以前からシミュレーションはしていたのだが、ここ数週間は、実際に実弾を発射することまでした。もっとも空砲だが。
長官は、とにかく害がない事を強調して、会見を終了した。
小惑星の事実 ケン
「すばらしい、会見でしたね。」俺は二人ににこやかに言った。
しかし、二人は真剣な顔でうなずきあった後、俺に向き直った。ローナが小指の先程の機械を見せながら。「実はあなたには続きがあるの。」
あれは記録装置だ、今どき情報は、ほぼ全て通信で行われるので見るのも久しぶりだ。
「まずは、何も言わずに見てちょうだい。」
画面には、先程会見した長官が映しだされた。
長官の後ろに図が表示された。左端に太陽、右へ各惑星が続き、右端近くに「プロキシマ・ケンタウリ」の表示がある。
「昨年、プロキシマ・ケンタウリが爆発した、というニュースが世間を賑わせた事を、覚えておいでの事と思います。」ここで長官は間をあけた。
「実際には、プロキシマ・ケンタウリ方向にある小惑星が、科学反応を起こして輝きだしたのだと、判明しました。」長官の背中より太陽に近い所に、白く輝く円が表示された。
「この小惑星について、さらに詳しく調査を行った結果。光に近い速度から、約1Gの減速を行いつつ、太陽系に向かって来ている事が判明しました。」
白く輝く円に注釈線が引かれ、"亜光速から約1Gで減速中"と表示された。
亜光速で飛ぶ小惑星だって!?そんな物があるわけがない!
「この小惑星は、大きさの割には質量が軽く、中が空洞だと考えられます。」
それってつまり・・・。
「以上の事から、我々はこの小惑星を、恒星間宇宙船の可能性が高いと判断します。
この宇宙船は数日中に、太陽系のどこかで、停止する可能性があります。」
そんなの決まっているだろ、とツッコミたくなった。
引き続き、以下次の事が説明された。
地球に来るかどうかは不明。火星で止まるかもしれない。
太陽に向かって、1Gの減速を続けている事は、宇宙船で地球上と同じ生活ができるという事である。
地球上で人が1Gかかる図と、1Gで減速するロケットの中の解説図が表示された。
このことから、地球人と同程度のサイズの生命体が、乗っているかもしれない。
今のところ、こちらからの呼びかけに答えはない。無人、ロボット等の自動機械の可能性もある。
恒星間を航行する宇宙人がいるなら、友好的なものと期待できる。
もし、友好的でなくとも、月衛星軌道のゲートウェイと、地球衛星軌道のステーションで迎撃の準備ができている。
よって危険な事は何もない。落ち着いて平常の生活を送って欲しい。
なんだって!驚いてローナとパトリックを見ると、二人が厳しい表情でうなずいてきた。
しばらく茫然とした。危険がない?ホントかよ!?ゲートウェイで迎撃するから心配するな??俺が迎撃するのか!!?俺は動揺した。
「これは数日後に、一般の人に向けて発表される予定のリハーサルなの。これでもまだ難しいと思うけど。」
「ジョークじゃないと?」
「俺もそう思った。でもマジなんだ。」パトリックが真剣な表情のまま言った。
「俺が迎撃するのは岩じゃなくて、異星人なんですか!!?」
「それは俺がやるかもしれない。その話は後だ。」
「後って!??」パトリックにくってかかった。
「まずは補足説明を聞いて。」ローナになだめられた。
「宇宙船は直径10km程度、全長は数10kmに及ぶ円筒形と思われる。
もしかしたら向こう側はシャーペンみたいにとがっているかも。
科学反応で光っているのは、水素が燃焼されているもので、大量の水を消費しながら、飛行してきたと考えられる。燃料の残量が少ないもの、と推測する。」
中が空洞の円筒型って、それはつまり・・・。
「あなた似たようなテーマの、20世紀のSF作品を読んだ事ある?」
「はい、つまりあれはスペースコロニーなんですか。」
「たぶん。接近中の宇宙船はリラーマと呼ばれているわ。」
「宇宙人が乗っている?」
「そう。実は交渉が既に決裂しているのよ。」
「は?決裂って??」俺はさらに動揺した。
「ヤツらは、月の占領と制宙権を要求してきたんだ。」パトリックが怒りをこめて言った。
「は?月と制宙権を要求??」それらは誰が渡すんだ?
「彼らは、月資源の利用を一方的に通告してきた。」ローナが事務的に言葉を続けた。
「宇宙連合は抗議した。すると彼らはゲートウェイからの退去も加えて要求してきた。」
俺が言い出しそうになるのを遮って、「宇宙連合は拒否。」
そうだろう、俺はほっとした。
「強制的に退去させられるようなら、抵抗すると通告した。」
俺は再度不安になった。抵抗するのは俺達だよな?
「彼らは共存ができないようなら、ステーションからも撤退するよう求めてきた。」
ステーションからもかよ!
「地球人類は衛星も、あげる事ができなくなるかもしれない。」
制宙権ってそういう事か!!いや、待てよ。
「彼らと共存すればいいんですよね?」
「それでも、あちらの月資源利用とゲートウェイからの退去は必須。受け入れられる?」
俺は躊躇した。
「宇宙連合は拒否。事実上の徹底抗戦宣言ね。」
うー、そうなるよなぁ。俺もここを手放すなんていやだ。
要請 ケン
「俺が戦うんですか。」
「これは軍からの要請です。ケン・ハヤカワさんスパイダーで戦っていただけませんか。」
ローナとパトリックが期待を込めた目で見ている。
「断ったら?」
「あなたは民間人だから、要請を断っても特にペナルティなし。」
「俺が戦う。君はエアロックの内側でスペーススーツを着て待機していてくれればいい。」パトリックが言った。
「そんな事言ったって、ゲートウェイは戦闘状態になるんだし、今から逃げさせても、もらえないんでしょ?どうして俺を追い込んだんですか?」俺は憤慨しつつ言った。
「あなたが、スパイダーの扱いがうまいから。」
「それなら、ジロのほうがうまいじゃないですか。」
ジロ・シラセは、地球の宇宙ステーションにいる、俺の後輩の柴犬だ。
スパイダーvsスパイダーのバーチャル・ゲームではあっちの勝ちのほうが多い。
今思うと、あれはゲームじゃなく、実戦訓練だったのか。
「彼には先週から"B・スパイダー"に乗ってもらってるわ。」
「B・スパイダー?」初耳だ。
「バトル用スパイダー。と言ってもスパイダーの改装バージョンで、大きくは違わない。」
パトリックは実際見ているわけだ。
「資料は後で見て。」とローナ。
「ジロは、やるって言ったんですか。」
「まさに今、同じ事を要請されているはず。」
「こちらに2番手、3番手で、あちらに1番手、4番手ですか。」
「ジロが断ったら4番手がB・スパイダー、5番手にスパイダーの組合せになるわ。」
そうか、あっちは2機か。
「こっちの戦力は、あなたが既に知っている物の他に、切り札がある。」
「なんです?」
「明日、パトリックに火星ロケットへ、核爆弾を取り付けてもらう予定よ。」
「核爆弾なんて、持ってきたんですか!!?」今度こそパトリックへ吠えた。
「そうだ。」パトリックが、うつむきかげんに重く答えた。そうか、彼としても不本意なんだろう。
「俺は、核ミサイルを、組み立てていたんですか。」
「リラーマへの対抗手段として、火星ロケットを転用することにしたのよ。
ステーションでも、ムーンシャトルに核爆弾を。搭載する事になってる。」
「それじゃ、ここへ救助にも、来てもらえないじゃないですか。」
「何事もなければ、帰還が一週間伸びるだけよ。」
「ないわけないでしょ。放り捨てられた気分だ。」憤慨した。
「地球にいても、平穏無事に過ごせるとは限らない。」パトリックがぼそっと言った。
驚いて彼を見た。そうだ、異星人がどこまで約束を守るかなんてわからないんだ。地表まで攻撃されるかもしれない。あれ?そういえば。
「彼らと、高度な意思疎通が、可能なんですね?」ローナに向かって尋ねた。
「テレビ、ラジオで学習して、あちらには優秀な翻訳機があるんですって。先週のヒットチャートも知ってるそうよ。」
俺は頭をかかえた。まるわかりじゃないか。
「というわけで、記録装置で動画を見てもらったのよ。」
俺ははっとした、そうか機密情報は電波に乗せられないのか。
「ジロや家族には、相談できないって事ですか。」
「小惑星対応をする事は、周知の事実だから、あくまでも、その相談をする分には、かまわないわ。」
「危険度が、全然違うじゃないですか!」
「作業の危険度を、強調するのは自由よ。できれば、明日までに返事をして欲しいの。直前に気がかわっても、何とかするけど。」
「・・・。」俺はどう考えてよいか、わからなくなった。
「最後に送られてきた、彼らの代表の画像を見て。」
「画像があるんですか!!?」
「あちらから、TV放送が送られてきた、そのキャプチャだそうよ。」
TVの受信だけじゃなくて、送信もできるのか。
画面に映された、彼らの代表を見て、唖然としてしまった。
「やっぱり、これは何かの、ジョークなんでしょ?」
そこには、背広を着こんだオラウータンがいたからだ。
次期ISSの計画がどんな物かは知りません。創作です。
月軌道プラットフォーム・ゲートウェイは本当に計画があります。ただし、有重力ブロック等は創作です。