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03.転校生→飼育員

小熊さんと友達になってからわかったことがある。


その1、小熊さんはあまり自分から誰かに話しかけることが無い。

小熊さんは多趣味なのか暇なのか、常に自分の机でグルメ本をはじめとした雑誌を読み漁っては1人でリアクションしている。そして読み終わった後はスマホをいじるか暇そうにしている。誰かと談笑したり駄弁ったりすることはない。

驚いたことは、俺にすら能動的に話しかけようとしないところだ。クラスメイトに話しかけないのはコミュ症だからという理由で理解はできるが、友達となった俺でさえ話しかけようとしてこない。

暇な時も、何かに困っているときも、明らかに俺へ何かの用事がありそうなときも、自分から話しかけることはなかった。友達になったもののまだ距離があるのか、それとも友達なんて言うのは噓だったのか。おそらく前者だろうが、そこはもうちょっと頑張ってほしいと切に願う。

仕方なく何か用があるときや困って良そうなときは俺から話しかけているが、話さえ始まれば特にきょどることもなく普通に受け答えできる。俺の知っているコミュ症はいつでも話し辛そうにしているが、コミュ症も人によって症状が違うのだろうか?


その2、クラスの誰も小熊さんを嫌っていない。

これだけ浮いているのだからクラスメイトからの評判が気になった。昼休みの雑談タイムにそれとなく聞いてみたところ、誰も小熊さんを悪く思っている人はいなかった。

なら何故小熊さんが孤立しているのかというのを質問してみると、皆口をそろえて「小熊さんは友達じゃないからわからない」と答えていた。理解できないわけではないが、このクラスが少しだけ恐ろしく感じた。

このクラスの雰囲気と皆の言葉から考察してなんとなく現状が理解できた。小熊さん以外の全員は誰かしらと確固な交流があり、それを全員で尊重し合っている。しかし尊重というのは皆がそう思っているだけであり、実際は"無関心"であった。友達以外のことは知らない、友達じゃない人は関係ない。そしてそんな友達の輪に入れなかった小熊さんは今までずっと孤立無援だったのだ。

俺も危なかったとも言える。転校生ブーストで話し合える相手ができていなければ、俺も無条件に孤立無援状態になるところだったのだから。転校生ブーストも解けてしまえばだれも俺に興味を示さなくなって、これから孤立してしまうことも考えられる。もっと深い関係の人を作る必要があると感じさせられた。


その3は、何かというと。

「あ、小熊さんおはよう」

「実くんおはようございます!今日は一限目から現社で眠くなりそうですけど頑張っていきましょう!」

「ちょ、ちょっと抱き着いてこないで、重いって!」

「重いなんて女子に言っちゃダメですよ実くん、あと私のことは下の名前で和猫(かずこ)って呼んでもいいんですよ?」

「わかったから、和猫さんどいて!タブレットが取り出せない」

......明らかに距離感がおかしい。

何故こんなことになったと問われても、俺には理由がわからない。友達になった2日目からは既に()()だったからだ。

あんなに離れてると思っていた距離感が一瞬にして0になる。物理的にだ。

俺の知っているコミュ症ではなかった。何かが違っていた。コミュニケーションに問題があるからコミュ症と言われれば確かにコミュ症なのだが、このての人は四国であったことが無いため対処に困っていた。

「お、またやってるぞあの2人」

「平星くんが困ってるみたいで可哀想、でも小熊さんの相手ができて良かったような......」

「この際、平星にパンダを任せるか。パンダ係ってやつ」

「動物園の飼育員みたいだなぁ」

ガヤの声が聞こえてくる。なんだか厄介者を押し付けられた気分だ。

ところでパンダというのは和猫のあだ名らしい。何故だろうと思い和猫を見てみる。黒髪に白のメッシュ、熊の丸い耳のようなお団子、珍獣、あと名前に「熊」と「猫」が入っている。熊猫でシャンマオと読み、パンダのことを指すのだとか。

「って誰が飼育員だ」

あまり良く思わないレッテルを貼られ、反射的に言い返す。だがそれはお笑いのツッコミのように聞こえたらしく、クラスでは笑いが起きる。面白くはない。

だが本当に面倒くさいのはここからだ。

「実くんは私のことが迷惑......でしたか?」

和猫のネガティブモードだ。これが始まるといつものスキンシップや壊れた距離感に加え面倒くささが出てくる。

「そんなことないよー、和猫が迷惑だなんて思ってないから機嫌直して。さっきのは言葉の綾だから」

「でも私の飼育員は嫌なのかなって」

「それは嫌だね」

誤って本音が出てしまった。まずい。

「うわーん!嫌だって言い切った!」

「お、俺と和猫は友達なんだろ?飼育員と動物なんかじゃないだろ?」

至極正論だが、友達というあたりを特に強調して説得してみた。

「そうですね、そうでした。私たちは友達です!変な勘違いをしてしまってごめんなさい」

「いいよ、気にしてないから」

なんとか気を落ち着かせてくれたみたいだ。

和猫はどうやら俺に少しでも拒絶されることが怖いらしい。もはやコミュ症というよりメンヘラである。滅茶苦茶疲れる。

こんなやり取りを続けているせいか、他のクラスメイトからの認識は飼育員で定着してしまった。常に構ってしまう俺にも非があるだろう。

和猫にはもっと適切な距離感を教えてやる必要があるみたいだ。

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