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02.コミュニケーション

「平星くんってどこから引っ越してきたの?」

「サッカー部に興味ない?」

「いいや野球だよな!」

「今日の帰りにカラオケ行くけど一緒に来ない?」

学校初日の昼休み、何人ものクラスメイトに囲まれてしまった。珍獣を見るような好奇心に当てられ続け目眩はするが、これまでの青春生活で培ってきたコミュケーション力を発揮して何とか受け答えはできる。

「出身は四国の方、スポーツは好きだけど受験勉強があるから部活動は遠慮するかな、カラオケいいね!転校したてでまだ忙しいからまた今度誘ってよ」

右の質問を右に返し、左の質問を左に返す。大人数との会話なんてできないと思っていたが、聖徳太子の如く集中力でなんとか捌けていた。我ながらよくできることだ。

「平星くんってよく見るとイケメンだよねぇ」

「確かに、うちらのクラスの男子よりかは断然良いわ」

いつのまにか話題は俺の容姿のことにシフトしていた。

化粧水やらワックスやらに気を付けていたこともあり、容姿にはそれなりに自信があった。

こういう話が挙がると他の男子たちから怨みがましい視線を感じるものだと思っていたが……このクラスではあまりそういうものを感じられない。むしろ男子たちでさえ「うんうん、そうだよな」と相槌を打ってくれるほどだ。

皆良い人なのだろうかと考えたがそうではない。違和感の正体はすぐにわかった。

「入学したときに出会ってたら今の彼氏じゃなくて平星くんを狙ってたかもね〜」

「おいおい、彼氏本人の前でそういうことを言うなよな」

「てへっ、ごめん怒らないで♡」

「まったく.....」

「私も最近他校の人と付き合い始めちゃったからなぁ」

「夏に出会ったって言ってたあの人?」

「そうそう」

ここにいる人たちは皆揃って成熟した青春を送っているのだ。高校1年の春から2年の冬にかけて築いてきた関係性、そしてこの冬によって成就させた恋愛と友情がこのクラスを形成していた。

今更になって多少容姿の整っている俺が転校してきたところで、この青春の中に入る余地なんてなかったのだ。今から足掻いても残りの時間はほとんど受験勉強に充てられる。仮に友達になってもらって仲良くしてもらったところで彼ら彼女らの元から存在している関係性は上書きできやしなかった。俺の残りの高校生活は最後まで転校生(珍獣)ポジションとして皆の青春を彩るモブになることが確定してしまったのである。

心の中で絶望しながら、俺は会話を拾ってみることにした。少しでも情報を得て、希望を捨てないためだ。

「そういえばこのクラスは仲が良さそうな人が多いよね、何組くらいカップルがいるの?」

思い切ってカップルという単語を出してみる。

「組、組かぁ……数えたことないし、ステルスなカップルもいるだろうけど、だいたい半分くらい?」

「クラスの半分がカップル持ち!?」

「そう!あたしらみたいにクラス内でカップルになる人もいれば、他クラスや他校の人とカップルになる人もいるよ。平星くんがいた四国ではどうか知らないけど、今恋人はSNSで探すものだから」

SNSは俺もやっているが、それは飽くまでも青春の報告用だ。楽しかった思い出を不特定多数の人と共有するためのツールと思い使っていて、SNSに青春を求めたことはなかった。俺にとってはかなり衝撃的なことだった。

「SNSで恋人を探すのか......前の学校にいた頃はやったこともなかったな」

「あー、平星くんもSNSやってる?とりあえずクラスグループに誘うよ」

「ありがとう、全員いるの?」

「クラスの人は全員いるはずだよ......たぶん、退出者もいないし」

クラスグループは重要な場所だ。ここで始まる話題が多いからだ。クラスグループに入っていないものならクラスでの話題には一生ついていけず孤独な道を辿ってしまうのである。

俺たちはSNSのIDを交換して、IDからクラスグループに招待してもらった。クラスグループに入った瞬間「ようこそ!」「よろしく!」といった言葉や絵文字が大量に送られてくる。既に1クラス分の人数が入っているグループに参加するため、その反応は凄まじい。これまでは送る側になることが多かったから新鮮な気持ちだ。

招待してくれた人にお礼を言おうとしたところで次の授業の予鈴がなり、周りの人共々去って行ってしまう。お礼を言いそびれてしまった。今度話すときに言おうと思う。

いや、お礼以前に名前を聞き忘れていたな......。


授業は問題なくついていけた。転校先の学校の偏差値を前の学校と同じくらいで探していたため、科目の範囲もそう変わらず苦労することはなかった。使用している教科書も一部の科目を除き同じものを使っていた。かなりラッキーだと思う。

教師が黒板に文字を書いている間、それとなく周りを見渡してみる。あれほど騒がしいクラスメイトなのだから授業中も騒がしくなるのだろうと思っていたが、そんな予想は裏切られた。授業中はとにかく静かであり、皆が皆先生の話をよく聞こうとする。さっき話しかけてくれた人、チャラそうな見た目をした人、髪を金髪に染め上げたギャルな見た目の人までもが集中して授業を受けていた。

ただ1人を除いては。

「う〜ん……、う〜ん……」

授業を妨害するほどではない声量だが、隣に座っている俺には聞こえてくる。今朝のホームルームに遅刻してきた女子の声だ。確か名前は小熊といったか、インパクトがあったため憶えていた。

随分と唸っているようだが、何に困っているのだろうか。そう思って彼女の方を見てみると、彼女の机には授業になんら関係のないグルメ本が展開されていた。グルメ本の食べ物を見て唸っていたのだ。

「う〜ん、やっぱこれかなぁ……」

グルメ本のページを捲っては気にいる食べ物を探している。まるっきり授業には集中していない。

「それじゃあここの問題を、小熊が答えろ」

「えっ!?……あ、答えます!」

そんな彼女を容赦なく指名する先生。教科書を見ていなかったため解答の書かれているページなどわかるはずもない。

自業自得だとは思ったが、別に意地悪してやるつもりはないため教科書の該当部分に指を刺してやる。更に彼女の二の腕をつついてやり気付かせる。

「あ……江戸時代後期です!」

「正解。これは江戸時代後期に誕生したものだ、中期と間違えないようにな」

回答できたことに安心し、彼女は「ふぅ」とため息を吐く。すぐにグルメ本に向き直る。お礼は無しか、と思い俺は授業に集中するが、少しして彼女から紙切れを渡される。

“教えてくれてありがとう!”

と書かれた紙と、グルメ本に付いていたっぽい割引券を受け取った。彼女なりの感謝の仕方なのかもしれない。ありがたく受け取ることにする。

それにしてもと思う。彼女、小熊さんはこのクラスでかなり浮いている存在だ。なんというかクラスの雰囲気についていけていないというか、皆と同じことができていない瞬間がたびたび見受けられる。

授業が終わったタイミングで話しかけてみることにする。

「小熊さん、だっけ?この割引券はオススメのお店のなのかな」

声を掛けられた本人、小熊さんは少し驚いているようで数秒間返事が無かった。

「小熊さん? もしかして名前間違えてたかな」

「いぃいやいや間違えてなんてないです小熊であってます!」

きょどっているようで手をあわあわとばたつかせている。

「よかったー、名前間違えてたらどうしようかと思ったよ。ところで何故に敬語?」

「そ、それはほぼ初対面の相手と接するにあたって失礼な態度になるのはまずいので丁寧な言葉を使おうとおもってとっさに出たと言いますかそもそも距離感を間違えたくないので最初からタメ語で話す選択肢はなかったと言いますか!」

急に早口でまくしたてられて今度は俺がたじろいでしまう。

こういった喋り方の人の特徴は多少理解している。()()()()と呼ばれる人だ。あまり相手のことを考えられない(考えていない)で対話をし、失敗してしまう人だと実際にコミュ症だった友達に聞いたことがある。

「落ち着いて小熊さん、ちょっと気になっただけだから。もし会話苦手だったら無理しなくていいからね」

「そ、そんなことはないですのでご安心を。ちょっとてんぱってしまっただけなので!」

落ち着いたのか、さっきよりかはゆっくり話してくれるようになる。もしかしたら思ったより会話できる人なのかもしれない。最初にコミュ症のレッテルを貼ったことは取り消して心の中で謝ることにした。

「それで割引券のことでしたね。はい!オススメもオススメの私的5ツ星の料理店です!さっきは本当に助かりましたからとにかくお礼をと思い、プレゼントです!もしかして要らなかったでしょうか......」

「要らないなってことはないよ、引っ越してきたばっかりでこの辺のお店全然知らないから美味しいお店紹介してくれるだけでも助かるくらいだ」

「それは良かったです」

美味しいお店を紹介してもらった上にその割引券が手に入った。俺としては非常に嬉しいことだった。

一体どんな料理店なのだろうか。なに料理なのか気になって想像しているところ、小熊さんはまだなにか言いたげな表情をしていた。

「......その、お礼がきっかけとはおこがましいことと思いますが」

いったいどうしたのだろうか、いきなりもじもじし始めた。やはりコミュ症なのだろうかと頭をよぎったが、コミュ症にこんは症状は知らないため考えることをやめた。

「よかったらこれからも隣の席の者としてよろしくお願いします」

「うん、よろしく!」

何かと思ったらただの挨拶であった。コミュ症というよりかは人見知りなのだろうか?それならはやく打ち解けたいものだ。そう思って俺は小熊さんにいくつか提案をしてみる。

「ところで、隣の席の者っていうか友達になろうよ、敬語も要らないからいつも喋ってるみたいにしてよ。その方が仲良くなれると思うから」

「友達......ですか?」

今度は拍子抜けした表情をする。何か気に障ったのだろうか。

「友達はだめだった......?」

「いえっ、そういうことではなく」

小熊さんはどこか恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに俺へ向き直って続きの言葉を話す。

「こんな私と、と友達になってくれるんですね!私、これといった友達なんていたことなくてあのあんまり自慢できることでもないんですけどずっと一人だったんです!あんまり話の合う人なんかいなくて、そもそも人に話しかけることなんてできなくて正直寂しい人生だったんです。でも平星くんが私と友達になってくれるのならもう私はボッチ卒業でリア充入学式です!」

「......え?」

またも早口にまくしたてられ、話についていくことができなかった。卒業と入学の話が出たあたり学校行事の話にシフトしていたのだろうか?

いや、きっと違う。小熊さんは俺と友達になれたことをどうしようもなく喜んでいたんだ。それほど友達というものに飢えていた。きっと小熊さんに友達はいなかったのだ。

急に早口になって周りが見えなくなるところ、友達がいなかったという事実、やめることのない敬語、最初に話しかけたときのきょどり方、全てが物語っていた。俺の直感は間違っていなかった。

「あれ、平星くん?」

「ああ、ごめん。ちょっと驚いただけ。これからよろしくね、小熊さん」

「はい!末永くよろしくお願いします」

小熊さんはクラスで浮いてしまうほどのコミュ症だったんだ。

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