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キュート君とクール君の平凡で刺激的な日常  作者: 園村マリノ
第五章

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04 見覚えのある絵柄

「んむむぅ……」


 朝の予鈴が鳴る、約五分前。

 廊下を大股で歩きながら、九斗は一人思案していた。眉間に皺を寄せ、時折低い唸り声のようなものを発するその姿に、彼の事をよく知らない生徒たちはあからさまにギョッとしたり、横に避けたりする。


 ──どーすっかなぁ……。


 昨夜、九斗は[MINE]で、早く願いを言うようにと改めて冷司に迫った。


〝何か裏がある願いの精霊みたいな言い方だな(笑)

 土曜日空いてるか? 何処か出掛けよう〟


〝おう、いいぞ〟


 そして更に届いたメッセージの内容に、九斗は一人で赤面したのだった。


〝その時に、九斗の方から俺にキスしてよ。唇に。誰も見ていない所でいいからさ〟


 ──練習するっきゃねーのか? でも一人でどうやってだよ……?


 後方のドアから教室に入って最初に見えたのは、大翔の席にクラスメートたち数人が群がっている光景だった。


「お、来たな巨人」


 九斗の椅子に後ろ向きで座っているウィルソンの声に、他のクラスメートたちも振り向いた。


「麻宮君おはよう!」


「うっす」


「おう麻宮。ギリギリじゃん」


「寝坊しちまって。皆何してんだ?」


「カガミンがさ、スゲー絵が上手いんだ」


 代表して答えたウィルソンが立ち上がり、入れ替わりで九斗が腰を下ろして体ごと後ろを向く。


「おはよう」大翔ははにかんだような笑みを見せた。


「うっす」


「ほら見て! これとか」


 石川が、大翔の手元にある開いた状態の大学ノートを指差した。そこにはシャーペンで、人気少年漫画『呪術スパイ×チェンソーの(やいば)』の主人公とヒロイン、悪役三人組の立ちイラストが描かれていた。顔立ちは原作にそっくりというわけではなかったが、画力の高さは誰が見ても一目瞭然だった。


「おお……! スゲーなカガミ君。これはもうプロだな!」


「有難う」


 ──確かこれ、あいつが好きな漫画だったよな。

 

 石川の横から覗くように冷司を見やると、スマホを片手に隣のクラスの男子と談笑していた。


「カガミン、漫画家とかイラストレーターになれそうだよな」


「ねー。何も見ないでこんなに描けるとか凄過ぎ」


「私なんて、前に犬を描いたらヒトデと勘違いされたんだけど」


「それ逆に見てえ!」


 ウィルソンたちの笑い声に被るように、朝の予鈴が鳴った。数人いた他クラスの生徒たちは、慌ただしく去っていった。


「じゃあなーカガミン」


「また何か描いてね~」


 集まっていたクラスメートたちが席に戻ってゆくと、九斗は机の上に置いたままだったリュックから、ノートや教科書、筆記用具を引っ張り出した。


 ──お。


 冷司がこちらを向いていた。九斗がニカッと笑いながら小さく手を挙げると、整った顔が微笑み返した。


 ──いつ見てもイケメンめ……。


 見慣れているはずなのに、何故か妙にドキドキした。


 ──あの笑顔を向けられて喜ぶ女子は沢山いるんだろーけど……一番向けられてんのはオレだよな。ヘヘッ。


 何となく浮ついた気分が落ち着かないうちに、九斗の右肩が優しく二回つっつかれた。


「むっ!?」


「あ、ごめん……」


 大翔が人差し指を伸ばしたまま固まっていた。


「お、おうどーしたカガミ君」


「あー、その……」


 大翔は若干声を落とし、


「麻宮君て、槙屋(まきや)君と仲いいよね。どれくらいの付き合いなの?」


〝付き合い〟という単語に一瞬ドキリとしつつ、九斗は平静を保った。


「中学から一緒だぞ」


「じゃあ、家も近いの?」


「近いな。駅から歩いて、途中で正反対の方に分かれるけどな」


「へえ……なるほど」


 答える大翔の表情と声色からは、感情が読み取れなかった。


「カガミ君は、今何処に住んでるんだ?」


南太田(みなみおおた)。京急線の」


「お、知ってるぞ。駅の近くにコーヒーの店があるだろ」


「ああ、うん。前を通った事ならある」


「……窓ガラスが変だったりしたか?」


「え?」


 担任が教室に入ってきたので、会話は自然とお開きとなった。


 ──おお、カガミ君と長めに喋れたな。


 席は前後だが、前日はウィルソンのグループの誰かしらが大翔の横にいたり、移動教室が多かったりで、落ち着いて会話する機会になかなか恵まれなかった。


 ──冷司の事も聞いてきたんだから、話してみたいんだろーな。よし、後で引き合わせよう……。


 担任が姿を現しても、ギリギリまでお喋りに花を咲かせようとする生徒たちは少なくなかった。席が隣同士の黒沢と新谷もそのうちの一組だ。


「やっぱりあの画風には見覚え事あるんだよね」黒沢は盗み見るように大翔に視線をやった。「加賀美君、[Kaxiv(カクシブ)]辺りにアカウント持ってたりして」


「カクシブって、イラストとか小説を投稿するサイトだよね。まあ、あり得るんじゃない? 『呪術スパイ』かなり人気だし」


「うーん、でも何か違うイラストか、もしくは漫画で見た気がするんだよね。何だっけな……どんなジャンルかも思い出せない。本人に直接聞いてみようかな……」


 担任が教卓の前で一声発すると、粘っていた生徒たちは諦めて口を噤み、居住まいを正した。


 ──はるちゃんが[Kaxiv]でよく見るジャンルっていったら……


 新谷は真っ先にあるジャンルを思い浮かべたが、即興の脳内会議で即座に否定された。


 ──まさかね。だって男子なんだし……ね?

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