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キュート君とクール君の平凡で刺激的な日常  作者: 園村マリノ
第五章

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03 ネコとド変態

〝賭けはどうだった?〟


 帰宅後、自室で『バトルサイキッカー(しゅん)』の二周目を遊んでいた冷司の[MINE]に、麗央(れお)からメッセージが届いた。〈よこはまコスモワールド〉の一件以来、二人は不定期的に近況報告及び恋愛相談をし合っており、九斗との賭けの内容は説明済みだった。


〝俺の勝ちだったんだけど、あいつが警戒しちまってて。ハレンチな望みじゃないだろうな、って〟


 平成初期に流行したらしい水色のゆるキャラが「あちゃ~」と言いながら頭を抱えているスタンプが返ってくると、冷司は小さく笑みを溢した。


〝つまり男子だったのか。せっかく勝てたのに残念だったな、イヤラシイ事させられなくて???〟


 ──まあ、勝つのは最初からほぼ確定だったんだけどな。


 転入生の存在を担任から告げられたのは金曜日の帰りのHRだが、冷司はそれよりも前、昼休み中には小耳に挟んでいた。職員室の前を通り掛かった際に、開きっぱなしになっていたドアから、学年主任と担任の会話が聞こえてきたのだ。


「えーと、転入生は何て言ったっけか」


「カガミです。結構背が高いんですよ……」


 この時点では転入生の性別まではわからなかったし、賭けなんて思い付いてもいなかった。しかし帰りのHRで、担任はよりによって縦に大きい九斗の後ろに席を用意すると言った。確かにクラスの席の配置的には、窓側の最後尾の空きスペースが一番広いが、他にも余裕のある列は存在する。どうしても窓側にしたい理由があるなら、九斗よりも前に入れればいいはずだ。

 となると、転入生は九斗と同じくらいか、ひょっとするとそれ以上に長身なのではないだろうか。一九〇センチ以上なら、女子よりも男子の方が可能性はあるだろう。

 そしてHR終了後、改めてクラス中を見回して気付いた。九斗のいる窓側以外の列は全て、最後尾が女子生徒だ。転入生が男子なら、すぐ目の前に同じ男子──顔立ちに反して明るく同性には懐っこい奴──がいた方が、何かあった時に話し掛けやすいだろう。


 ──うん、俺やっぱり名探偵かも。


 空き教室で九斗が転入生用の机を持ち上げただけで、何となくムラッとした。そして自分たちの教室へ運ぶ際、何の苦もなく机を抱えて歩く大きな後ろ姿を見ていると、無性に押し倒して好きにしたくなった。この衝動を抑えるにはどうすればいいのだろうと一人苦悩していたところで、火村が話し掛けてきたのは幸いだった。


 ──うん、あと変態かも。


 いきなり押し倒して嫌われるよりも、こちらからお願いして拒めない状況を作り出せないだろうか……九斗と火村が戯れ合う間に考えを巡らせていた冷司は、やがて卑怯な賭けを思い付いたのだった。




〝そっちこそ夏休みはどうだったんだ? 最後の方に篤弥(あつや)君の家にお呼ばれしたんだろ?〟


 麗央がキッチンの冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを取り出して部屋に戻ると、冷司からの返信が届いていた。


 ──うん、お呼ばれしましたよーっと。


〝お呼ばれしたけど、特に何かあったわけじゃないよ。一緒にシャワー浴びたくらいで〟


〝何かあったじゃんか!!〟


〝いやほんと、ただ汗を流しただけ。誰かさん曰く「ハレンチ」な事はなーんもしてないし、そんな空気にもならなかったよ〟


 シャワーを浴びている最中、麗央の心臓はずっと変な脈打ち方をしていたし、篤弥の顔と裸体をまともに見られず、何か言われたら答えるのがやっとだった。その様子を具合が悪いと勘違いしたのか、篤弥は顔を覗き込んできたり背中にそっと触れてきた。


 ──危ないところだったよなあ……。


 冷たいシャワーは汗を流すだけでなく、下半身の一部に集まりかけた熱を発散させるのに大いに役立ったのだった。


〝というか何で一緒に入った?? まさかお前が無理矢理……?〟


「ちがーーーう!!」麗央は思わず叫んだ。


「ちょっと何、レオ君?」


 リビングでドラマを観ながら寛いでいる母親から、心配よりも迷惑そうな声。


「いや何でもないよ!」


〝篤弥の方から、時間短縮で一緒に入ってしまおうと言われたんだよ。逆に断ったら怪しまれると思って。本当だぞ!?〟


〝押し倒してないよな?〟


 ──俺を何だと思ってるんだ、クールボーイ……。


〝向こうも俺に気があるんだったら、そうしていたかもしれないけど。それに俺は押し倒されたいんだよね〟


 水色のゆるキャラが、顔を真っ赤にして照れているスタンプも一緒に送信した。


〝へえ、篤弥君に襲い受けってやつをしてほしいんだ?〟


「ちがーーーう!! あ、何でもないよー母さん(マンマ)


 ──もう、この際だから言っとくか。


〝いや、受けは俺だよ。俺がネコちゃん。俺よりも小柄で顔の可愛い男に滅茶苦茶にされたいんだよね、実は。秘密な♪〟


 送信直後、やはり黙っていた方が良かったかもしれないと後悔しかけたが、意外にも返信は早く届いた。

 

〝あ、そうなんですね〟


〝敬語やめろ。急に恥ずかしくなってきただろ〟




〝篤弥の方から、時間短縮で一緒に入ってしまおうと言われたんだよ〟


 麗央からのメッセージの一文に、冷司は改めて目を通した。


 ──これ、ひょっとしたら篤弥(向こう)も、少なからずその気があったりしないか?


 時間短縮とは言ってもシャワーホースは一本しかないだろうし、ほぼ大人に近い体型の高校生が二人──更に片方は長身だ──で風呂場に入ればかなり狭いだろう。


 ──もしかしたら……だけど、教えてやろうかな。


 文字を打とうとしたところで、麗央から新たにメッセージが届いた。

 

〝実際のところ、キュートボーイには何をお願いするつもりだったの?〟


 ──そこまでは教えないつもりだったが仕方ない……。


 麗央は自分の性的な秘密を教えてくれた──教えてくれとせがんだわけではないが、答えるように仕向けてしまった事は否定出来ない。ならばこちらも答えなければフェアではないだろう。


〝引かないでくれな?〟


 一応予防線を張ったうえで、冷司は九斗への企みを素直に答えた。

 送信直後に既読マークが付き、一〇秒少々で返信がきた。


〝ド変態でござるな〟


「何だよその語尾」

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