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キュート君とクール君の平凡で刺激的な日常  作者: 園村マリノ
第五章

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02 大翔(ひろと)

 月曜日、朝のSHR。


「はい、それじゃあ入ってきてー」


 担任に促され、教室前方のドアから、クラスの誰もが初めて見る男子生徒が現れた。ソフトモヒカンにした短髪は烏の濡れ羽色で、くっきりとした目鼻立ちをしている。一部の女子から控えめな黄色い声が一瞬上がった事に無関係ではないだろう。


「男子だ」


「デケェ」


「麻宮君と同じくらいじゃない?」


 ──む、確かに。


 担任が転入生を見上げ、


「はい、では自己紹介をお願いします。とりあえず名前だけでもいいよ」


「静岡県から来た加賀美大翔(かがみひろと)です。よろしくお願いします」 


 緊張からか、少々ぎこちない動きで転入生が頭を下げると、自然と拍手が湧いた。


 ──あ、つーかオレの負けだ。


 負けた方が勝った方の望みを一つ叶える──冷司から提案された賭けは、九斗にとっては残念な結果となってしまった。


 ──オレが勝ったら、何か飯を手作りしてもらおうと思ってたけど……あいつはオレに何を頼むつもりなんだろうな。


 冷司は他の生徒たちと同じく転入生を見ており、こちらを振り向く事はなかった。


「席は窓側、一番後ろね。ほら、君と同じくらいデカいのが座ってるでしょ。その後ろ」


 九斗と大翔の目が合った。

 

「君の背丈なら黒板見えると思うけど、もし厳しそうだったら言って」


「はい」


 ──まあ、縮こまる必要はなさそーだな。


「じゃあ、早速座って」


「はい」


 多くのクラスメートたちの視線を集めながら、大翔は自分の席へと向かい、静かに着席した。


 ──挨拶しとくかな。


「よろしくな!」


「わっ!?」


 九斗が勢い良く振り返りながら声を掛けると、大翔は飛び上がらんばかりに驚いた。


「よ、よろしく……」


「こら麻宮、威嚇するな」


「し、してねえっすよー!」


 笑いが起こった。少し緊張がほぐれたのか、顔をほのかに赤らめた九斗を見やりながら大翔も微笑む。そんな二人の様子を、冷司は頬杖を突きながら穏やかな表情で眺めていた。




「で、お前の望みは何なんだ?」


 体育館の手前側、壁際の一角。

 九斗は胡座を掻くと、自分の左隣に腰を下ろして片膝を立てる冷司に尋ねた。今日の体育はバレーボールで、二人は同じチームで一回目の試合を終えたばかり──九斗の体を張ったプレーで逆転勝利した──だった。


「望みって、賭けのか?」


「おうよ。約束は約束だからな、よっぽど無茶な要求じゃなきゃ呑むぜ」


「うーん……」


 冷司は照れ臭そうな気まずそうな、曖昧な笑みを浮かべた。


「ちょっとここでは言い辛いかな。帰ったら[MINE(マイン)]で教える」


「何だよ。む、まさか──」


 ドゴオンッッ!!


 二人の足元付近にバレーボールが落下し、物凄い音を立てた。女子チームの試合中である目の前のコートから飛んできたようだ。


「……あっっぶね!」


「二人共、大丈夫ー?」


「うっす」


 手前側のチームにいる黒沢が、九斗からボールを受け取った。


「ごめんなさーーーい!」


 バレー部員でもある石川(いしかわ)の謝罪の声に、冷司は手を挙げて応えた。


「今の石川さんのサーブか? スゲーな、隕石が落ちてきたかと思ったぜ」


「ジャンプサーブだったのかもな。凄いけど、残念ながらアウトだ」


「……で、話を戻すけどよ」

 

 九斗は咳払いすると、声を落として囁くように、


「は、破廉恥な望みじゃねーだろうな……?」


「……お、清水(しみず)のチーム凄いな。あんなにリードしてる」


「何で逸らす? おい冷司?」


 奥のコートの方で、男子数人の歓声が湧いた。


「ナイスー!」


「いいぞーカガミン!」


 大翔が、同じチームの清水やウィルソンとハイタッチしている。


「加賀美君が決めたみたいだな」


「カガミンなんて呼ばれてたぞ。オレらもそう呼んでいいのかな」


「後で聞いてみたらいいじゃないか。席が後ろなんだし」


「そーだな」


 大翔の緊張した姿が印象に残っていたが、楽しそうに試合に挑んでいる様子を改めて目にして、九斗は安心した。


「で、お前何企んでるんだ? ま、まさかほんとに破廉恥な──」


「お、黒沢さんのチーム追い上げてきたな」


「コラァッ!」


「いででででっ!」


 戯れ合う九斗と冷司を、反対側の壁際に座りながら遠巻きに眺めるクラスメートが三人。


「見てあれ! ほんと仲良し~っ」


「ワンコと飼い主が遊んでるみたい」


「言えてるー!」


 新谷(しんたに)狭山(さやま)が盛り上がる横で、淵上(ふちがみ)も内心頷いていた。


「……仲いいんだ」


 目撃していた人間は、コートの外だけではなかった。

 チームメイトがサーブを打つ直前、大翔はぼそりと呟き、唇の端を僅かに吊り上げた。

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