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キュート君とクール君の平凡で刺激的な日常  作者: 園村マリノ
第三章

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01 補習の帰りに①

〝補習終わった!

 シマセンのヤツ、ニヤニヤしながらムズい問題当ててきやがんの! ぜってードSだろ!!〟


 トークアプリ[MINE(マイン)]で恋人へのメッセージを送ると、九斗(きゅうと)は昇降口を出て、大きな体で大きく伸びをした。


 ──よっしゃ……帰るぞ。


 前日の数学の授業で、中間テストの結果が返ってきた。

 歓声やら悲鳴に近い声やらで騒がしい生徒たちに対し、数学教師・島田(しまだ)は、一〇〇点満点中三〇点未満の者は、翌日の放課後の補習に必ず参加するようにと不気味な程にこやかに宣言し、悲鳴の量を倍に増やした。

 二九点の答案用紙を握り締めて震えていた九斗は、助けを求めるように隣を見やった。何とも言えない表情で応えた冷司の答案用紙は赤丸だらけで、聞くまでもなく補習など不要だった。


 ──あれ、何かヤバそうだな。


 何気なく空を見上げた九斗は、雲行きが怪しい事に気付いた。もうそろそろ梅雨入りしてもおかしくない頃だが、今日は一日晴れると聞いていたので傘は持っていない。


 ──帰るまで持ってくれよな?


「えー、何か雨降りそうじゃない?」


「あ、ほんとだー。傘持ってなーい」


「うちもー」


 聞き覚えのある女子生徒たちの声に、九斗は何気なく振り返った。同じクラスの黒沢(くろさわ)新谷(しんたに)狭山(さやま)だ。この仲良し三人組(トリオ)も、九斗と同じく補習を受けていた。


「あ、麻宮(あさみや)君だ。お疲れ~」九斗に気付いた黒沢が手を振った。


「うっす」九斗は小さく頭を下げた。


「補習ダルかったよねー。麻宮君、難しい問題当てられてて大変だったね」


「い、いやぁ……」


「麻宮君当てる時の島田(シマセン)、超ニヤニヤしてたよね」


「してたしてた! ヤバ~い!」

 

 新谷と狭山はケラケラ笑うと、その流れから島田の話題で盛り上がり始めた。黒沢は二人を見て小さく笑うと、九斗に向き直り何気ない口調で、


槙屋(まきや)君と一緒に帰れなくて残念でしょ」


「あー、まあオレはいつも冷司(あいつ)と帰ってるし、家も近くて土日もよく会ってるんで……」


「ほんと仲いいね~二人共」


「そ、そうっすかね?」


「まるで恋人同士みたい! なんてね」


「い、いやぁ~……? にゃはははは……」


 駅前で新谷と狭山の二人と別れると、九斗たちは改札内へと入った。騒がしいコンビがいなくなり、周囲の人気(ひとけ)の少なさも相まってか、何となく気まずさを感じるような静けさが漂う。


 ──まあ、ここで解散だよな?


「麻宮君、上り線?」


「そうっす」


「うちも上り線なんだ。そろそろ電車来るから行こっ」


「お、おっす」


 上り線ホームまで来ると、間もなく電車が到着した。ドアに近いロングシートの角に黒沢が座ると、九斗はくっ付き過ぎないよう注意を払いながら、そっと隣に腰を下ろした。


「麻宮君てほんと大きいよね。座ってても何か存在感が凄いもん」


「あっ、狭いですか? サーセン!」


「ええ? ううん大丈夫だよ、そういう意味で言ったんじゃないから。麻宮君、学校で一番背が高いじゃない? 凄いなぁって」


「いやぁ、何か勝手に伸びちゃいましたね!」


 九斗は精一杯平静を装っていた。女子と二人だけで学校から帰るなんて、記憶に間違いがなければ小学校低学年以来で、変に意識しないようにしても緊張してしまう。


 ──冷司(あいつ)がいてくれりゃあな……黒沢さんだってその方が嬉しかっただろうし。


「そういえばさ、何点だったの? 数学のテスト」


「え? ああ、まあその……惜しいところだったと言いますか……」


「うちより悪い点だった人はいないはずだよ」黒沢は自虐的な笑みを浮かべた。「うち、一二点」


「じゅーに……あー、テスト中、具合悪かったんすか?」


「元々出来ないんですぅ~!」


「そ、そーなんっすねっ!? でも誰にだって不得意はありますよっ! 大丈夫!」


 慌てる九斗の様子に、黒沢は小さく吹き出した。


「優しいなぁ~麻宮君」


「え?」


「あとさ、敬語使わなくていいよ。同い年なんだよ? 槙屋君とか、男子にはタメ語でしょ。同じでいいじゃん」


「そ、そーっすかね?」


「そうそう、そーっすよ。なぁんてね」


 学校の最寄駅から二つ先の駅に到着する少し前、黒沢が[MINE]のアドレス交換を持ち掛けてきたので、九斗は了承した。


「有難う! まあ安心して。何の用もないのに連絡しないからさ」


「いやぁ大丈夫っすよ、いつでも連絡くれて」


「ほんと優しいなぁ」


「いや、そんな……」

  

 小首を傾げて見つめてくる黒沢の視線を受け止め切れず、九斗の視線は滑稽なまでに泳いだ。


「うち次で降りるんだ」黒沢はスマホをスカートにしまった。


「あ、近いんすね」


「うん、だからこの高校選んだの。親には『そんな理由で決めるな』ってグチグチ言われたけど、結果的には大正解だったよ。新谷(なっちゃん)狭山(ゆーりん)と出逢えたし……あ、麻宮君もだね」


「おおっ!? いやぁその、恐縮っす!」


 駅のホームに近付き、電車が徐々に速度を落としてゆくと、黒沢はゆっくりと立ち上がった。


「じゃあね、また明日」


「お疲れ様っす!」


「だから敬語~! あはは、じゃあね」


 黒沢が去ると、九斗は魅入られたように[MINE]の友達リストを凝視した。


 ──おお……女子と交換してしまった……!


 縁遠いと思っていた異性との交流。黒沢に特別な感情を抱いているわけではないが、直前までのやり取りを反芻すると、自然と表情が緩みそうになる。

 しばらくの間、何となく浮ついた気分が抜けないまま最寄駅への到着を待っていた九斗だったが、そんな彼を我に返らせたのは冷司からの返信だった。


〝いろんな意味でお疲れ。

 期末テストの前は一緒に勉強するか?〟


 ──待てよ……さっきの黒沢さんとのやり取りとか[MINE]のアドレス交換は……浮気になるのか……!?


〝考えとく! サンキュな!〟


 ──いやでも下心なんてねーし! 変な事もしてねーし!! ああでも何だこの罪悪感は……!!


 ただでさえ少々強面な顔をしかめ、(はた)から見れば鬼気迫る表情で一人葛藤していた九斗は、危うく電車を乗り過ごしそうになった。

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