表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キュート君とクール君の平凡で刺激的な日常  作者: 園村マリノ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/36

07 構え

 風呂上がり、自室に戻ってパジャマに着替えた九斗が勉強机の上のスマホを手に取ると、トークアプリ[MINE(マイン)]に冷司からのメッセージとスタンプが届いていた。


〝今日はありがとう。

 それにしても東堂さんには驚いたよな。

 お前が鈍すぎるのにもビックリしたが〟


 スタンプでは、九斗が知らない少年のキャラクターが、驚愕に目を見開いている。


「むっ……まだ言うかっ」


 勉強椅子ではなく畳の上に直接腰を下ろすと、九斗は文字を打ったり消したりを繰り返した。


〝こっちこそありがとな!

 つーかオレが鈍いんじゃなくてオマエが鋭いんだよ!!

 いくらドラマ見たばっかりだからってふつー一発で気づくか? 歳だって取ってるんだぞ〟


 メッセージと一緒に、数年前から世間で爆発的な人気を誇っている白いキャラクターが、愛らしい笑顔を浮かべているスタンプも送信した。


〝お、可愛いな。シロクマだっけ?〟


〝ネズミらしいぞ〟


〝え、しっぽ短いじゃん〟


〝それでもネズミなんだとさ〟


 もう一度同じキャラクターの、今度は顔を真っ赤にして照れているスタンプも送信すると、九斗は渇いた喉を潤すためキッチンへ移動した。


 ──そういや、東堂さんから筋トレの話を詳しく聞くの忘れてたな。


 冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出すと、母親が通り過ぎざまに、


「あ、お母さんにもちょうだい」


「あいよ」


 自分の分はキッチンで飲み干し、リビングで一昔前のミステリードラマの再放送に夢中になっている母親に麦茶を手渡してから、自室に戻る。冷司からどんな返信が届いているか期待しつつスマホを確認したが、こちらが最後に送ったメッセージに既読表示が付いたままだ。


 ──ちぇっ。


 日中を一緒に過ごし、沢山喋ったにも関わらず、またまだ構ってほしかった。


〝おい、ヒマだからもっと構え〟


 数分待ってみたが、既読マークすら付かなかった。


 ──こういう時は筋トレして……いやもう風呂に入ったしな。


 そもそも、入浴の一時間前に難易度の高い腕立て伏せヒンズープッシュアップに取り組んだばかりだ。


 ──他にやる事は……そうだ、この間見付けたアスリートの筋トレ動画を観るか。


 世界史と現国の宿題の存在を無理矢理頭の隅に追いやり、動画共有サービスにアクセスした直後、冷司から返信が来た。


〝ごめん、風呂入ってた。

 構うのはいいが、宿題はやったか?〟


「くっ……明日やらぁ!」


〝明日やるからわかんないとこがあったら教えてくれな!〟


〝了解。

 話変わるけど、九斗はいつ頃から東堂さんと親しくしてたんだ?〟


「いつ頃から親しくって……」


〝別に親しくってほどでもねーぞ。東堂さんが去年の冬に引っ越して来てから、会えばあいさつしたりちょっと話すくらいだぞ。

 でも今度会ったら、どんな筋トレしてんのか聞いてみたいなって思ってる。アクションも興味あるし。どっちも直接教われたら最高だけどな〟


〝もし教わる時は事前に言ってくれ。俺も一緒に行くから〟

 

 ──おっ? 何だ冷司(あいつ)も興味あんのか?


 中学時代に筋トレを始めてしばらくが経過した頃、一度だけ冷司を誘った事があったが、やんわり断られていた。


〝絶対だぞ〟


 念押しのメッセージに、九斗は小さく吹き出した。


「やる気満々だな」


〝りょーかい!〟


 その後もたわいないやり取りを続けているうちに、気付くと二三時を廻っていた。自分で誘っておきながら終わらせるのは失礼だろうかと九斗が迷っていると、タイミング良く冷司から終わりを切り出された。


〝そろそろ俺は寝ようと思ってるんだが、まだ構い足りないか? (笑)〟


 先程とは異なる少年のキャラクターが首を傾げているスタンプもセットだ。


〝もう大丈夫だ。サンキュな〟


 ──もしかして、気ぃ遣ってくれたのか?


 返信と一緒に、愛らしいシロネズミがペコリと頭を下げているスタンプもセットにする。


〝わかった。

 じゃあまた月曜日にな

 おやすみ〟

 愛してるよ〟


「あ……愛……」


 九斗は迷いに迷ってから、最後の返信を送った。



 

〝おい、ヒマだからもっと構え〟


 恋人とトークアプリで何度かやり取りし、一旦風呂に入ってから自室に戻ると、何とも可愛らしい催促のメッセージが新たに届いていた。


「……っっ! ……っっっっ!!」


 冷司はパジャマの上から胸の辺りを押さえ、叫びたくなるのを何とか堪えながら、近くに置いてあったクッションに何度も拳を叩き付けて身悶えした。


 ──お前っっ……可愛過ぎだろっっ!!


 何とか冷静さを取り戻し、何事もなかったかのように振る舞いつつ東堂との関係性についてさり気なく探り、なおかつ二人きりにならないよう念を押しておく。


 ──まあ大丈夫だとは思うが、万が一って事もあるからな。


 その後もやり取りを続けていたが、九斗の方から切り上げにくいだろうと考え、自分からお開きを提案した。そして最後の挨拶に、少々迷ったが愛を伝えた。既読マークはすぐに付いたが、数分待っても音沙汰はなかった。


 ──……引かれたかな。


 諦めてベッドに入ろうとした時、ようやく九斗から返信が届いた。


〝me too〟


「いや何で英語?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ