表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キュート君とクール君の平凡で刺激的な日常  作者: 園村マリノ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/36

06 東堂はかく語りき

 アパートから南東へ徒歩五分弱。

 九斗たちは、たわいない話──主に九斗と冷司の学校生活に関する内容だ──をしながら、新興住宅街へと続く遊歩道をゆっくりと歩いた。数年前に大規模な改修工事があったためか、足元はしっかり舗装され、木々や花壇も綺麗に手入れされている。

 ど真ん中に大きなイチョウの木がそびえ立つ十字路まで来ると、三人は誰からともなく足を止めた。

 

「どうして俳優辞めちゃったんすか」九斗は東堂に尋ねた。


「さっきチラッと言ったかもだけど、売れなかったんだよ。残念ながらね」東堂はどこか他人事のように答えた。


「でも、色んな作品出てたんすよね? 冷司が調べてくれました。まあオレらは『バトルサイキッカー俊』しか観た事ないんすけど……」


「あのドラマ以外、全然聞いた事がないようなタイトルばっかりだったでしょ」


 九斗と冷司は、一瞬見合わせてから遠慮がちに頷いた。


「そういう作品にしか出られなかったのよ。低予算で、何なら言い方は悪くなるけど……低レベルの」


 東堂は初めて自嘲するような笑みを見せたが、ばつが悪くなったのか、九斗たちに背を向けイチョウの木の方へと近付いた。


「まあ誰が悪いって、いつまでも役者として成長出来なかったおれ自身なんだけどね。所属事務所は、何とかして〝次世代アクションスター〟として売り出そうとしてくれたんだけど、最後までその期待に応えられなかった」


 小さなイチョウの葉が一枚、ひらひらと舞い落ちて左肩に乗ると、東堂はゆっくりとした動作で摘み、そっと地面に落とした。

 

「差し支えなければ、今は何のお仕事を?」


 冷司の問いに、東堂は若い二人へと向き直った。


「親族が経営している東京の会社で働いてるよ。最近は自宅でのリモートワークがメインだから通勤はほとんどしてないけどね」


「それなら歯医者も通いやすいっすね!」


 東堂は一瞬目を見開くと、豪快に笑い出した。


「いやぁもう勘弁だよ! 定期検診にも来いって言われたけど、誰が好き好んで口の中いじられたいと思う?」


「虫歯になって痛い思いするより、検診の方がマシじゃないっすか?」


「うっ、何十歳も若い子に正論言われちゃった!」


「言っちゃったっす! にゃははは~!」


 ──楽しそうなこって。


 冷司は無邪気に笑う九斗の横で微笑みつつ、自分が把握していない話題で恋人と盛り上がる東堂に、内心嫉妬の炎を燃やした。


 ──うんまあ、いいんだけどさ。いいんだけどさ……!


「ああ、ごめんね二人共。わざわざこんな所まで来て嫌な話しちゃって」


「いやいや、そんな……」


「貴重なお話を有難うございました」


 冷司が小さく頭を下げると、九斗も同じようにした。


「こちらこそ有難う。ファンが身近に二人もいるってわかって嬉しかったよ」

 

 白い歯を見せて微笑む東堂は『バトルサイキッカー俊』最終話の俊そのものだった。


 ──なぁんで今まで全然気付かなかったんだろな。……というか──……


 九斗は隣の恋人をチラリと見やった。


 ──冷司(こいつ)はこいつで、何で会った瞬間わかるんだよ。名探偵か?


「そういえば東堂さん、何処かに出掛けるんじゃなかったんですか?」


「ん? ああ、駅前のコンビニをちょっと覗こうかなって。特に用事があったわけじゃないから大丈夫。

 じゃ、ぼちぼち戻ろうか。そろそろ六時になるだろうし」


 元来た道を戻る間、東堂は口外しても問題ない範囲内で『バトルサイキッカー俊』の撮影秘話や裏話を九斗たちに語った。

 

「続編!?」


「うん。タイトルは『ダークサイキッカー俊』で、脚本は完全ドラマオリジナル。タイトル通り、一作目より更にダークな内容になる予定だった……みたいなんだけど、いつの間にか、ね」

 

「冷司、知ってたか?」


「いや全然。色々調べたけど、その情報は覚えがないな」


「公式発表もされてなかったから、知ってるのは本当にごく一部だろうね。おれも誰かに話したの、何気に初めてかも」


「うわぁ観たかった……スゲー観たかったっす!」


「俺も。もっとも、原作からかけ離れた別物になっちゃってた可能性もあるけどな」


「あ、それは確かに言えてるね」


「夢がねえ!」




 とある人気動画配信者が、自身のチャンネルでドラマ版『バトルサイキッカー俊』を紹介した事がきっかけで、SNSでも大きな話題となった結果、東堂の元に様々な取材依頼が舞い込むようになるのは、もうしばらく先の話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最近はヒーローものとかでも、キャストの人が40代とかになっても新作が出たりするので、東堂さんもまだまだチャンスありそうな感じしますよね!中年主人公でも、ダークでリアルな路線でやったらめちゃめちゃありだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ