第7話 受け入れること
鎌架達は丘の上に逃げた。そこの奥には小さな小屋がある。小さい頃からそれは幼なじみ達の秘密基地だ。
その中にひとまず入った。
「おとぉさん…ヒックっなんでぇ?なんっでお父さんっがぁ…?」
声が嗚咽で途切れ途切れになっている。双士はぽんぽんっと頭を優しい撫でた。
「…伝説は…本当にあったんだ。…天音のお父さんは犠牲になってしまった。」
「……!天音ちゃん、剣は?」
周りを見渡して、剣がいないことに気づいた。
「剣はっ、私がこけた後、変わっちゃったお父さんが来て、逃げちゃった。」
それを聞いて2人はこれでもかというくらいの溜め息を吐いた。
「さっすが剣。逃げ足は早いこと。」
「だな。」
「ヒックっ、伝説がっなんで本当にあったのっ?お父さんはっなんで変わっちゃったのっ?」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら聞いてきた。
鎌架は小屋についている窓から空を見上げた。
「…6年前、今日のように空が青かった。」
「…いつも青いだろ?」
キョトンとして言う。
「…今日の空見た?透き通り過ぎて不気味なくらいだったの。青すぎだったこと。」
鎌架は真剣な顔をしながら言う。嘘を言っているわけではないようだ。
「その日に、ある家で事件が起きた。その家は父親、母親、そして、2人の姉妹の家族だった。父親は表は善人で、ボランティアをしたり、姉妹のうち、心臓の弱かった姉に優しくしたりした。でも、本当はとても暴力的な父親だった。母親と健康な妹をよく殴って自分の言うことを聞くよう、しつけようとしていた。」
「ひどい…」
天音は泣き止んだのか、鎌架の話に聞き入り、顔を歪めた。
「…そして、その日、姉は妹のために自分の名前を貸して上げた。ようは交換したの。妹は戸惑いながらも、姉の優しさに負け、姉のいつもの姿をし、幼なじみ達のもとに行った。夕方、姉の姿をした妹は家に帰ってきた。でも、その日はやけに妙だった。静か過ぎたの。いつもなら、おかえり、という声がするのにしなかった。とりあえず妹は中に入り、リビングに行った。妹は目を見開いた。カーペットが真っ赤だったの。そして、そこに首の骨を折られ、死んでいる母親がいた。妹は現実を受け入れられなかった。次に見たのは…」
ガチャッと音がして銀架と剣が入ってきた。
「!、銀架!…と剣。」
「なんだよ!その目は!?」
剣がそう叫ぶと銀架に足を引っ掛けられてこけた。
「いってぇ~。」
「…銀…おとぉさんは?」
天音の目にはまた涙が溜まっていた。
銀架は木の箱に腰を下ろし、4人を見た。
「…天音のとおちゃんも、おっちゃんも、僕が倒した。…殺したよ。」
冷静な落ち着いた声で言うと天音は泣き叫んだ。
「っ、なんでっ、なんでお父さんを殺したの!?」
「殺さなくても良かっただろ!?」
剣も叫んだ。
銀架はそれに動じることなく静かに語った。
「…やらないとやられる。僕は゛コア″としての役目をした。確かに、僕はこれで人殺しだよ。否定はしない。…でも、僕は伝説という名の歴史に従ったまでだ。」
「…伝説は本当だった…んだな?でも、なんで銀架が゛コア″なんだ?」
双士は銀架の目をじっと見ながら聞く。銀架は目を合わせずに答えた。
「…それは、伝説に出てきた少女とやらに聞いてよ。……ヴェツェ。」
そう呼ぶと何もなった空間が歪み、風と共に少女が現れた。
銀髪で空よりも海よりも青い瞳。背中には人あらざる者であることを示す四枚の金の羽。
まさに伝説に出てきた少女だった。
鎌架を除く3人はまさかの出来事に驚きを隠せないでいた。
鎌架は懐かそうに見つめていた。
「…お久しぶり、ヴェツェ。」
『…6年ぶり、久しぶりだね、鎌架。』
少女―ヴェツェ―も懐かそうに呟く。
「ちっ、ちょっと待って!どゆこと!?」
剣が叫ぶ。
また銀架にこかされたが。
「…鎌架と伝説の少女が知り合いだったってこと?僕もさすがに聞いてないよ?」
「…うん。…でも、僕もビックリ。まさか銀架とヴェツェがもう会っていたなんて…。」
「今日の朝そこで会ったばっかだよ。」
素っ気なく応える。
「…で、ヴェツェ…だったか?」
『うん。はじめまして、3人とも。茶色の髪の男の子が双士、紫の髪の女の子が天音、赤茶色の髪の男の子が剣だね?』
ヴェツェは3人に身体を向け、にっこりと笑った。
「「「!?」」」
『フフッ、なんで知っているの?って顔をしてるね。…銀架を通して知ったの。ずっと昔から。』
驚く3人を見て、クスクスと笑っていた。
そして、意味深い言葉を口にする。
銀架は呆れたように溜め息を吐いた。
「…ヴェツェ、あんまからかうなよ。それでなくても、今日はいろいろあり過ぎて疲れてるのに。」
『そうね。…家に帰っていいよって言ってあげたいけど…。天音、あなたに伝えなくてはならないことがあるの。…あなたの母親は、あなたの父親に殺されたよ。』
急に真剣な顔をし、天音に言う。天音は目を丸く見開き、わなわなと体を震わした。
「う、うそ…!?そんなこと…っ。いやぁっ!!嘘よ!でたらめなこと言わないで!!!」
いつも静かな天音に似合わず、泣き喚く。さっきも叫んでいたが、それより酷い。
まるで…現実を受け入れまいともがくように。
「落ち着け!!天音!」
「いや、いやぁああぁ!!」
双士の静止も受け入れず、喚いていると、乾いた音がした。
天音は頬をぶたれたのだ。
―銀架に。
「…さっきからギャーギャーうるせぇんだよ!喚けばお前のとおちゃん、かあちゃんが帰って来るって訳でもねぇだろうが!!今日2人も末期のが出てんだ。明日も誰か死ぬ!次の日も、その次の日も!理解ぐらいしやがれ!」
かなりキレたのか、鋭く睨みつけながら叫ぶ。
頬をぶたれた天音は赤くなった頬を手で抑え、叫ぶ銀架を見つめる。
「死にたくないっ!あんなのになりたくないなら現実を受け入れ、精神を強く保て!!それが末期にならないために大切なことのひとつ!以上!」
あーすっきりした、と一言漏らす。
「…銀架らしい。」
鎌架はクスッと笑った。天音は少し戸惑ったが、下唇を噛み小さいが確かに頷いた。
「…ごめんなさい…。私は、全てを見失っていた。…ありがとー、銀。叱ってくれて。」
「わかればよし!」
ビッと親指を立て、前に突き出した。
しかも真顔で。
『天音、いきなりつらいことを言ってごめんなさい。でも、ここにいる全員これからつらいことがある。すぐに受け入れろとは言わないよ。』
申し訳なさそうにヴェツェは言う。
剣はふと何か思ったのか聞いてきた。
「なあ、銀架のそのながーい刀と、その服って何なんだ?なんか意味があるのか?」
『その刀は狂滅というの。狂いを滅する刀。゛コア″にだけ反応するの。そのコートはたまたま銀架が着てきたのでしょう?』
「うん。コート手入れし忘れたなーって思って家に帰って手入れしたやつ。し終わった時にヴェツェが現れて、『出来るだけ動きやすい服できて。』って言われてこれ動きやすそうだったから着てきた。」
ケロッとした顔で答えた。
「…それはいいとして、ヴェツェ、なんで根元まで消すことができなかったの?」
鎌架が軽く咳払いをして真面目な話に戻した。全員またヴェツェに顔を向けた。
『…話、長くなるよ。それでもいい?』
そう尋ねると頷かれた。
『…じゃあ、話すね…。あなたたちが伝統と唄った空白の歴史を―』
―それは悲しい歴史、それを聞くのは簡単、でも…受け入れるのは難しい。そんな昔話―