第6話 目覚めた者と背負う者
夕方になり、幼なじみ4人は話をしながら黄金色に染まっている道を帰っていた。
「なんかほんと久しぶりだね、こうして揃って帰るの。」
「…銀架はいないがな…。」
ぼそりとつぶやく双士。それを見て3人はニヤニヤと笑っていた。
「なぁんだ、お前銀架のことかな~り気にしてんなぁ。」
「な、なんだ?幼なじみなんだから一緒に帰りたかっただけだ。」
頬を少し赤く染めているので説得力がない。
「は~ん?顔が赤のにかぁ?」
「お前が変なことを言うからだっ!てか、天音に鎌架!ニヤニヤ笑うなっ!」
「えぇ~?だってぇ~。ねぇ?」
「ねぇ?」
「ねぇってなんだ!?」
楽しそうな声が響く、その時、前からふらりとある男性が出てきた。
「あ、駄菓子屋のおじさんだ。」
未北村唯一の駄菓子屋。そこのおじさんだった。いつも陽気で優しいおじさん。だった。
「あれ?おじさん、その手にあるの…て…。」
天音は言葉を詰まらせた。
おじさんの手に持っているもの、それは…
血の付いた鉈だった。
「ひゃっ!おじさん!?」
目がおかしい。正しく向いていない。しかも、鉈を持っている手ではない手には人の生首がある。
「あ…い、いやああぁあぁぁあ!!」
「うわああぁぁあ!!」
天音と剣の悲鳴が響き渡る。双士や鎌架は強く警戒心を持つ。2人を庇うように2人は前に立つ。
「っ!逃げるよっ!太刀打ちなんて出来ない!」
「2人とも!走れ!!」
そう声を上げると2人は走って行った。
駄菓子屋のおじさんだった者は鉈を振り上げ、獣のような声を上げ、2人に迫った。
「グアアァ!」
「…人あらざる者…」
鉈が振り下ろされ、間一髪避ける。
鎌架は冷静にそれの様子を見つめている。
「鎌架っ!僕らも逃げるぞ!」
「…どこに…?…わかった。」
双士と鎌架は2人の後を追うようにそれから逃げる。
それも後ろから追いかけてきた。
「コロサセロ!!」
「っおじさん…。」
悲しそうに鎌架は振り返った。鎌架はこれを知っている。だからこそ、悲しい。
その時、前から悲鳴が聞こえる。
「いやああぁあぁぁあ!!」
先に逃げた天音だ。
「っ!天音ちゃん!?」
見えたのは尻餅をついた天音と、チェーンソーを持つ男性だ。
「いやあぁ、お父さん!」
天音のお父さんだ。彼も、おじさんと同じになっている。天音は目を見開き、恐怖でおびえていた。
天音の父はチェーンソーを掲げる。
間に合わないっ!そう思った時、黒い影が天音とそれの間に現れた。
「…!銀架?」
黒いロングコートに身を包み、長い太刀を持つ銀架だった。銀架はチェーンソーを受け止め、弾き返し、チェーンソーを持つ腕を切り飛ばした。
「グアアァアァァア!」
獣のような悲鳴を上げる。
それを銀架は蹴り飛ばし、天音から離すと、おじさんだったそれに向かって走った。
すれ違う時、銀架はぼそりとつぶやく。
「―丘に行って。」
鎌架は振り返ったが、銀架はそのままそれに詰め寄り、腹部に太刀を斬り込んだ。そのまま上半身と下半身を切り離し、殺した。
銀架のあまりに違う瞳に、鎌架は不安を感じたが、天音のもとに走って寄る。
「天音ちゃん!早く行こう!!」
「いや…お父さん…」
放心状態で現実を受け入れきれていなかった。
「天音っ!死にたいの!?」
声を荒げて言うとビクッと反応し、首を強く横に振った。
「双ちゃん、天音ちゃん、あの丘に行こう!!」
「銀架はいいのか!?」
双士は銀架が心配なのだろう。鎌架はキッと睨み付ける。
「双士、死にたいのか!?銀架は簡単には死なない!だから、早く行こう!!」
鎌架のいつもと違う口調に戸惑いつつも、双士は頷いた。天音はさっきので腰を抜かしたのか立てない。双士は背中に天音を担ぎ、丘に走って行った。
それを合図に天音の父だったそれは起き上がった。
「…おいちゃん…。ごめん。」
血を払い、太刀を構える。
「ヴェツェ、この場合は?」
そうつぶやくとスッとヴェツェが現れた。
『…この者も、もうダメ。…末期症状で、もう戻らない。』
「そうか…。…天音のとーちゃん、ごめんね。」向かってくるそれに刃先を向け、足を踏み出した。
ザシュッと鈍い音を立て、太刀はそれの肉を裂いた。
「…すまんな…銀架ちゃん…。」
天音のお父さんの、優しい声だった。振り返ったが、もう起き上がってこなかった。そのまま粒子となって消えた。おじさんの死体も。
銀架はカチャンッと太刀を落とした。
『…銀架?』
不思議そうにヴェツェは銀架を見つめた。
「…う、うあ゛あぁぁあぁぁあ―!!!」
空を仰いで、腹の底から叫び声を上げた。
さっきまで黄金色だった空は鉛色になり、ぽつっと雨粒を降らした。雨はどんどん強くなった。
まるで、銀架の黒いロングコートについた彼らの血を洗い流すように。
銀架の涙を隠すように―
―あなたが初めて泣いた時、あなたは罪を背負う覚悟を持ったよね、…銀架…―