第5話 伝説
昼頃になり、幼なじみ4人は机を合わせて一緒に弁当を食べていた。
「…銀架…帰ってこなかったね…。本当に家に帰っちゃったんだ…。」
天音はうつむいて言った。
「…大丈夫よ、銀架は明日になったら普通に話してくれるよ。」
天音の頭を軽く撫でながら言う。
「つうかさ、鎌架は知ってたんだろ?銀架のこと。」
「…まぁね。でも、隠していたつもりはないよ。あの子には普通に接して欲しかったし、いきなり変わったこと、2人とも気づいてなかったみたいだし。」
不満そうな剣を宥めるように言った。それもそっか、と剣は簡単に納得してくれた。
双士は何か考えていた。
「…銀架は、僕のこと覚えてるって言ってくれていた…。…鎌架、銀架は何故記憶をなくしてしまったんだ?」
「…まだ、教えられないよ。」
「何故?」
「知って…銀架の傷を広げたいの?」
強く聞いてくる双士にパシッと言い放つ。厳しいくらいの言葉で言われ、双士はそれ以上聞こうとしなかった。
「…双ちゃんの気持ちはわかるよ。約束してたんだもんね?…私とも約束した。でもね、今忘れてしまっていること、責めないで。いつか、思い出してくれるから。それに、私が悪いのだから…。」
「…それも、今は無理でも、いつか話してくれるよね?」
鎌架の気持ちを悟ってか天音は優しく聞いた。鎌架は少し目を見開いたが、すぐに笑って小さく頷いた。
「ま、銀架のことは今は置いて。双士、向こうの町はどうだったんだ?」
剣は目を輝かせ、聞いた。ちなみに剣は土産話が好きだ。
「ああ、向こうの町では鉱山についての歴史を調査したんだ。」
「なんで鉱山なの?」
天音が小首を傾げ、不思議そうに聞いた。
「天音は鉱山にある伝説があるのは知らないのか?」
「知ってるのは私や銀架くらいだよ。」
苦笑して言う。
「そうか…なら教えようか?」
「うん。」
「ああ!」
「じゃあ話すな。」
――鉱山が栄えていた何100年も前のこと。
その頃不思議な事件が何度も起きた。その事件とは、人々が次から次へと狂気に満ちた目となり、惨殺を行っていく。
誰もが絶望していた。
それを助けたのは、不思議な少女だった。少女は海よりも空よりも青い瞳持ち、背中に4枚の羽を広げていた。
少女は人あらざるものだった。
その少女は狂気に取り憑かれていない生きている人々から゛コア″と呼ばれるものを選んだ。少女は゛コア″の守護者となり、狂気のものたちを鎮めた。
鎮めた少女は地下の世界へ帰っていき、゛コア″も力を封印した。
しかし、少女は言った。
『また悪夢は目覚め、狂気の世界となる。その時は目覚め、゛コア″とともに鎮めよう。』
地下の世界へは選ばれたものしか行けない。そこが天国か地獄かわからない。少女は人々の何だったのかも、誰も知ることはなかった――
「…ていう伝説なんだ。物語みたいな伝説。」
「へー、なんかファンタジーチックだな。」
剣は両腕を頭の後ろで組みながら言った。
「でも、伝説なんでしょう?なのに歴史調査するの?」
伝説なら必要ないんじゃないの?、と頭の上に?を浮かべる天音。双士は首を横に振りながら否定する。
「伝説ならむしろ調査すべきだ。町の発展や、今までの歴史を覆すことも出来る。この伝説が本当ならばな。」
「…双ちゃんはその話が伝説じゃないって思ってるの?」
「少なからず僕はそう思う。鎌架はただの伝説だと思うのか?」
その質問に鎌架はやや考えていた。
「ん~、そうじゃなくて、伝説じゃなかったら狂気にまた犯されちゃうのかなぁって。それって嫌じゃない?」
「そうだね、また狂気に満ちた人が出てきちゃうのって嫌だね。こうして未北村は平和なんだから、いきなりそうなるのは辛すぎよ。」
鎌架の意見に天音は賛同した。その言葉に双士は困ったような顔をした。
「平和好きだな。」
「いいじゃん、平和ボケしてた方が。俺も伝説だけであって欲しいよな。ずっと仲良く平和ボケ出来るだろ?」
ニカッと歯を見せながら笑って言った。天音と鎌架はクスクスと笑っていた。
キーンコーンカーンコーンと昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「やっべ!!弁当全部食ってねえ!」
「それ剣だけだよ…」
「ウソーン!!?」
楽しい声が響き合う平和な未北村。しかし、少しずつ壊れていく。
―悪夢ガマタ、始マル―