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第4話 己を知る者

鎌架以外言葉を失った。6年前の記憶が彼女に無いなど、いつも一緒にいた天音と剣にとって疑い深いことだ。

「ウソ…だって…私たちのこと…「知らなかったよ。知識は残っていても人の名前とかその人がどんな人なのかわからなかった。顔もね。それに…自分のこともわからなかった。」

天音の言葉を遮るように銀架は語った。彼女の目はどこか虚ろで濁っている。

―死人のように、人形のように。

「…!じゃあなんで俺らの名前を知っているんだ!?」

「…さぁ?アルバムとかで知ったんじゃないの?てか、それ知る必要ある?知れば何も変わらないワケ?」

「剣はそう言っているワケじゃない。察してくれ、銀架。」

他人事のように言ったと思ったらいきなり喧嘩腰になる銀架を双士がなだめる。それが気に入らなかったのか殺気で満ちた目で彼を見た。

「……なんか気分悪い。鎌架、先生に気分悪いから帰るって言っておいて。胸くそ悪くて誰かを殺したくなるから。」

そう言ってから教科書をカバンに片付け、さっさと教室から出ようとした。

「…銀架…」

鎌架が彼女の名を呼ぶ。幼なじみ達は彼女が銀架を止めてくれると思っていたが、次にでた言葉は真反対なことだった。

「胸くそ悪くて惨殺したくなる、でしょ?」

しかも今まで見たことがないくらい冷酷な笑顔だった。

銀架は一度ちょっとキョトンとしたが、すぐに彼女も同じくらいの冷酷な微笑を浮かべた。

「了解。」

それだけいうとスタスタと行ってしまった。

沈黙ができた。というより、鎌架の周りの雰囲気が冷たいから幼なじみ達は話しかけられなかったのだ。

「…銀架のこと…今は何も言わないで。」

ぽつりと鎌架は呟く。冷たい雰囲気は彼女が口を開くと同時に消えていた。

「…双ちゃん…、銀架に…双ちゃんの記憶はヒトカケラもないの。多分あの子今混乱してる。…急いで思い出そうとしてしまえば、混乱しすぎて壊れてしまう。…銀架はあんなこと言ったけど、本当はそんなことできないから安心して。」

ふといつもの優しい笑顔を見せて幼なじみ達を安心させる。

「じゃ、じゃあ鎌架のさっきのは…?」

剣が恐る恐る聞く。そんな姿に彼女はクスクスと笑う。

「冗談。だってああいわないとみんな銀架を引き止めるでしょ?特に剣と双ちゃん。」

「ま、まあな。」

「ああ。」

「ああすれば引き止める心配はなさそうだからやったってだけ。演技上手いでしょ?」

彼女なりの演技だったようだ。だが引っかかるところがあった。

「なんで引き止めるのダメだったの?」

天音が小首を傾げて聞いた。

「それはね、あれ以上ここにいたらあの子がかわいそうだから。多分双ちゃんと一緒はあの子に負担がかかる。双ちゃんを攻めてるワケでも、悪いワケでもないから。」

「…鎌架は銀架のことよくわかっているんだな…。」

双士が呟くようにそう言うと鎌架は笑顔がで答えた。

―双子だもの―



銀架は近くの丘に来ていた。そこは小さな小川があり、周りが林に包まれている。林の間から木漏れ日がさし、優しく辺りを照らす。銀架にとってそこはお気に入りの場所だった。

誰もいない、ここの静けさは彼女の不安を取り除いてくれるように思うからだ。

「(……城月…双士…。……知って…いるのか?僕のこと…。…考えたって無駄か…。)」

丘の上の草村に寝っ転がった。仰向けになると大きな松ノ木が2つ見え、その背景に青い雲一つない空があった。今日の空はいつも以上に青い。こんな日もあるんだなとなんなく思った。

「…青い…。僕は…こんな空を知っているのか?」

独り言だった。自分に問いかけていたつもりだったが、その答えが返ってきた。

『―そう、あなたは知っている。青いこの空のこと…。』

銀架はハッとして起き上がり、ソプラノ声のする方に目を向ける。

そこには幼い少女が立っていた。だが、普通の少女ではなかった。銀のセミロングの髪、この空よりも青い瞳、そして背中に生えている4枚の羽。人に似て人ではないと感じた。

少女は銀架にそっと近づいた。

『―はじめましてだね、銀架。』

柔らかな微笑を浮かべ、少女は声をかけてきた。「…なんで僕の名前知ってんの?」

眉をひそめて聞く。普通の人間なら警戒心を抱くだろう。だが、銀架は一つも抱かなかった。むしろどこか安心できた。

『―だってずっと一緒だったから。銀架が記憶を失ってからずっと。』

「…僕が…記憶を失って…から?…珍しいこともあるもんだね。で、あんたの名前は?」

『―ヴェツェ。呼びにくいかもね。』

クスクスと少女―ヴェツェは言った。

「…ヴェツェ、君は僕のことを知っているんだね。…なんで僕の側にいるんだ?」

穏やかな顔で聞く。

ヴェツェはスッと銀架の左胸に手で触れる。

「私はあなたの心臓なの。というより、守護者。あなたの心臓の中のコアを守るの。」

「…6年前から?」

「理解早いね。そういうこと。銀架には銀架の守るものがある。これは契約だから。」

左胸に触れていた手を離し、ジッと見つめた。銀架もジッと見つめ返した。

「…理解できないとこばっかだね。」

「かもね。でも今理解できなくていいよ。…私はもう戻るね。ここまでしか教えられないけど。…久しぶりに外に出て久しぶりに言葉を使ったから疲れたの。」

苦笑するように言った。「…お疲れさん。」

「ありがと。あ、銀架にこれ渡しておくね。」

そう言ってどこから取り出したのかわからないが、長い太刀を差し出した。

「…太刀?なんで?」

受け取りながら不思議そうに見つめる。

「あなたの守るものを守るための武器。あなたはこの太刀に名前を付けてね。じゃないと目覚めてくれないから。」

「…やっぱわかんないや。その内話してよ。」

「もちろん。…じゃ、またね。きっとまた会えるから、何か異変があればね。」

そう言うとシュンッと消えた。

消えたと同時にふわりと優しい風が吹いた。


―また会えるよ―



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