第23話 生き残る罰
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藤ヶ谷の奥に一箇所だけ藤ではない花が咲いている場所がある。
そこは高さ50mあるであろう滝。
水が水面に叩きつけられる轟音が響き渡るその場所に、彼は佇んでいた。
自らの能力を生かし、滝の下にある水面に立っている。
そんな彼に近付いてくる気配に彼自身気づいていたが、足音が近付いてくるまで振り向かない。
足音の主は水面近くまで歩みより、足を止めた。
そして、彼に問う。
「―…過去を見てんの?」
足音の主、銀架は真顔で。
彼はそんな銀架を赤い眼で見つめる。
「…守護者との記憶の交差か…。
…そうだな、俺は過去をみていた。」
そう、羚真は語る。
彼の目は、どこか遠いものを見ているようだ。
銀架は小さく肩をすくめ、その場に胡座をかく。
「ヴェツェの記憶では、羚真…キミたちBlood Masterは<永遠の罪人>と呼ばれていたんでしょ。
僕自身は知んないけどね。
<永遠の罪人>はふとしたときに、罪人となったときの記憶が見える。」
真っ直ぐに羚真を見る。
「それは忘れないためであり、それが罪人へのひとつの罰だから。
ふたつ目の罰は、キミの能力。」
「…血を操る能力、だろ。
…それをわかっていながら言うのか?」
「いんや、わかってないし」
銀架のその言葉に、彼は無表情に困惑を浮かべた。
どういうことだ?と問いたげに。
「どういうことか?って感じだね。
確かにヴェツェを通じて僕はそれを知ってる。
でも、それはわかったことにはならない。知ってるだけ。」
「…よく、わからないな…」
羚真の困惑は広がる一方だ。
だから、銀架ははっきりとした口調で言う。
「知識としては知らされた。でも、理解はした覚えがないよ、罪人と呼ばれる理由なんてさ。」
だから僕自身は知らない、羚真のことをさ、と。
羚真は、しばらく銀架の目を見、少しの静寂の後静かに口を開いた。
「…<永遠の罪人>は大量虐殺の生き残りを意味する。」
「大量虐殺の生き残り?なんで…」
銀架は意味がわからない、と眉をひそめる。
「……俺は、ヴェツェ様守護する村々とは違う遠い村で起こった事件のたった一人の生き残りだ。
その村の名は、月雅村。
代々神月家が牛耳る村で、それなりに有名なほど栄えていた。」
ポツポツと過去を彼は話す。
「そして、その村は今から100年前に滅んだ。」
「っ!…100年前に滅んだって…、じゃあなんで羚真は…」
目を見開き、言葉の真相を聞こうとしたとき、銀架はハッとした。
「まさか…みっつ目の罰は…!」
羚真は、頷いた。
「Blood Masterとなれば、必ずつく罰……
次の<永遠の罪人>が現れるまで姿形が変わらずに、―生き残る罰―だ。」
<<悲劇がまた繰り返されるまで、生き続ける罰>>
一見不老不死で誰もが羨むであろうそれは、実際味わえば悲劇を見続けなければならない終身刑。
また、悲劇を繰り返さなければいけないのだ。
銀架は、顔を伏せて下唇を噛んだ。
―ふざけるな―
と。
普段冷酷で情がないような銀架だが、最も犠牲や殺戮を嫌う。
それは記憶がなくとも根付いた心だ。
羚真に対してではない、<永遠の罪人>を決めた存在にだ。
悲劇を生み出した者にだ。
「おかし過ぎる…」
この世界が。
羚真は、水面を歩き、銀架の目の前まで近寄る。
「…おまえは、自らの命を捧げても守りたいか?…この町を、人を」
赤い悲しい瞳は問う。
答えを求めていた。罪と罰をまだ背負い続けるべきなのかどうか…
短い沈黙ではあったが、ふたりには長く感じられた。
滝の轟音すら聞こえなくなるほどに…
黙り込む銀架は、狂滅の柄に触れる。
意思を確認するかのように…
狂滅は彼女の思いに答えるかのように、鍔を光らせた。
「……守ってみせる。
僕はもう決めてるしね…、村の人たちを殺狂人にした元凶を叩き潰す。
そのためなら、この命を捧げたって構わないね。」
だから、と続ける。
「だからさぁ、もっと生き続けてもらうよ?羚真。」
顔を上げた銀架は、不敵な笑みを浮かべる。
その答えと表情に、羚真も笑う。
「ふっ……いいだろう。お前に賭けてみよう…、俺は妖梨様をお守りするのみだ。
強くなりたければ、そのすべを叩き込んでやるよ。」
羚真のその顔に、瞳には悲しみは宿っていなかった。
あるのは罪を背負う決意と主を敬う志。
そのあとは、二人同じ考えを持っていたのか銀架は狂滅を鞘から抜き、羚真は血液パックの袋を破き、bloody lanceに形を変え、同時にその刃を振り下ろす。
修行の様子を知るのは二人と…
『……、ようやく決意が出来たのかしら?゛コア〝とBlood Master…』
何よりも青い瞳を持つ人あらざる者だった。
―似たもの同士は惹かれあう。互いに似ていて似ないものを補うために。
〈生き残る罰〉は羚真と銀架が互いに持つものなんだ……
ごめんね………音亜―