表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

第22話 弱き者

――

ヴェツェの提案で隣の絹川村に行くことになった。

ヴェツェ曰わく、

『《盾となる者》の武器を受け取りに行かないとね』

らしい。

「《盾となる者》って誰がなるんだ?」

双士は疑問を持つ。

今のとこ天音が《癒やしを与える者》だ。

他には《コアを与えられた人間を守る者》《支える者》そして、今回武器を取りにいく《盾となる者》。

みなヴェツェの後をついて行き、指示に従うだけだ。

先のことなど、わからない。

銀架を除けば、だが。

「そろそろ来るよ。後悔を背負ってね。

さて、村の入口に行こうか。」

立ち上がり、玄関に向かっていく銀架に、鎌架は少し顔を曇らせ、彼女についていく。

天音や双士は理解できていないが、とりあえずついていくことにした。


藤ヶ谷の入り口までくると、人影が見えた。

「!…え……?」

天音は目を見開く。

双士も同様に目を見開いていた。

赤茶のボサボサ髪、いつもクラスのムードメーカーで、誰より平和を求める少年……


「―おかえり、剣」


呆れたように、悲しいように小さく笑う銀架。

少年…剣は下唇を噛み締め、拳を握りしめていた。

彼なりに、後悔を背負い、危険を犯してでもこの村にたどり着いたのだろう。

身体はボロボロだ。

天音と双士は急いで彼に走り寄った。

剣は、安心したような、罪悪感に満ちたような顔をし崩れそうな身体を、2人に支えられた。

「剣っ…!良かったっ…生きてて…!!」

天音は彼に抱きついて涙を流した。

「ごめん…っ、ごめんみんなっ…!

俺っ、俺怖くてっ!怖くて逃げたっ!

でもっ、みんなが命がけなのにっ、幼なじみ置いて逃げた俺が嫌でっ…、まだ一緒にいたくてっ…」

剣は涙をポロポロと流してなんとか言葉を出していた。

銀架と鎌架は顔を見合わせ、剣に近寄る。

「「剣…」」

ドゴッ、と鈍い音がした。

2人がダブルラリアットを食らわせたからだ。

もちろん剣に


「イッテェッ…!な、なにすんだよ!?」

「アホ。制裁に決まってる」

「逃げたけどわざわざ危険を犯してまでここにきたんでしょ?

バカでしょ。」

2人揃っての言葉に、おいっ!とツッコむ剣。

それに、天音と双士は小さく笑った。

元のお馴染みに戻れたようで…。


『―…市宮 剣、キミに戦う勇気と覚悟はあるの?』

冷ややかな声が響いた。

ヴェツェの声だ。

ヴェツェは氷のような眼差しで剣を見据える。

それにゴクリと喉をならし、剣は俯きながら答えた。

「…勇気とか、覚悟とか、まだ出来てるわけねぇ。

でも、まだ俺はこいつらお馴染みをバカやりたい!

逃げた分、俺がこいつらの為になにかやりてぇ!」

真剣な目をヴェツェに向ける。

わずかな迷い、恐怖は存在しているが、そこには確かな覚悟が剣を奮いだたせている。

ヴェツェの目は、目の前の少年のこころから光をとらえた。

『…、君はまだ弱い…。でも、よく帰ってきたね、剣…いや…、《盾となる者》』

陽だまりのような笑みを浮かべ、手を差し伸べた。

「!?、剣が…《盾となる者》だと!?」

双士は目を瞠った。

当たり前だろう。

《盾となる者》、すなわち゛コア〝の下に集まる四人の中で最も危険な位置。

それが最も臆病者で、最も弱いであろう剣であるというのだから。

天音も驚いている。

ヴェツェは笑顔のまま、しっかりと頷いた。

「何故、何故剣だというんだっ!?」

「…うるせぇ。」

納得がいかない、と反論する双士に冷たく銀架は呟く。

「いちいちうるせぇ男だな、あんた。理由はわかってるくせに、女々しく聞くな」

「なっ!?」

「こいつが弱いからって、思いっきりそう剣の能力を理解すらしてないのに否定して、何偽善ふりまいてんの?

昔の剣は忘れたけど、今の剣は弱くても確かな能力を持ってる。

つい最近戻ってきたやつがしゃしゃり出るな。」

今の彼女には、弱い親友を信頼する強く冷たい眼差しがあった。

双士を批判し、毛嫌う冷酷な目で彼を一瞥し、どこかへ歩いていった。

重たい空気がそこに漂った。

それを破ったのは、双子の姉だった。

「…双ちゃんが言いたいことはわかるよ。でも、僕たちはもうあの頃の僕たちじゃないの。

それは双ちゃんだって一緒でしょ?

だから、心配しても、否定はしないで…。」

悲しく微笑む鎌架に、双士は気まずそうにうなずいた。

「まっ!心配してくれてあんがとな、双士!」

当の本人は暢気に笑った。

それにみな苦笑していた。

ヴェツェはその光景に目をとじ、ふわりと静かに消え、主の下に向かった。


―人は誰だって弱いんだ。でも、成長すれば変わり確かな能力を備えるんだ。

それを否定しては、そこでおしまい。銀架はそれが嫌だったんだよね…?―

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ