第22話 弱き者
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ヴェツェの提案で隣の絹川村に行くことになった。
ヴェツェ曰わく、
『《盾となる者》の武器を受け取りに行かないとね』
らしい。
「《盾となる者》って誰がなるんだ?」
双士は疑問を持つ。
今のとこ天音が《癒やしを与える者》だ。
他には《コアを与えられた人間を守る者》《支える者》そして、今回武器を取りにいく《盾となる者》。
みなヴェツェの後をついて行き、指示に従うだけだ。
先のことなど、わからない。
銀架を除けば、だが。
「そろそろ来るよ。後悔を背負ってね。
さて、村の入口に行こうか。」
立ち上がり、玄関に向かっていく銀架に、鎌架は少し顔を曇らせ、彼女についていく。
天音や双士は理解できていないが、とりあえずついていくことにした。
藤ヶ谷の入り口までくると、人影が見えた。
「!…え……?」
天音は目を見開く。
双士も同様に目を見開いていた。
赤茶のボサボサ髪、いつもクラスのムードメーカーで、誰より平和を求める少年……
「―おかえり、剣」
呆れたように、悲しいように小さく笑う銀架。
少年…剣は下唇を噛み締め、拳を握りしめていた。
彼なりに、後悔を背負い、危険を犯してでもこの村にたどり着いたのだろう。
身体はボロボロだ。
天音と双士は急いで彼に走り寄った。
剣は、安心したような、罪悪感に満ちたような顔をし崩れそうな身体を、2人に支えられた。
「剣っ…!良かったっ…生きてて…!!」
天音は彼に抱きついて涙を流した。
「ごめん…っ、ごめんみんなっ…!
俺っ、俺怖くてっ!怖くて逃げたっ!
でもっ、みんなが命がけなのにっ、幼なじみ置いて逃げた俺が嫌でっ…、まだ一緒にいたくてっ…」
剣は涙をポロポロと流してなんとか言葉を出していた。
銀架と鎌架は顔を見合わせ、剣に近寄る。
「「剣…」」
ドゴッ、と鈍い音がした。
2人がダブルラリアットを食らわせたからだ。
もちろん剣に
「イッテェッ…!な、なにすんだよ!?」
「アホ。制裁に決まってる」
「逃げたけどわざわざ危険を犯してまでここにきたんでしょ?
バカでしょ。」
2人揃っての言葉に、おいっ!とツッコむ剣。
それに、天音と双士は小さく笑った。
元のお馴染みに戻れたようで…。
『―…市宮 剣、キミに戦う勇気と覚悟はあるの?』
冷ややかな声が響いた。
ヴェツェの声だ。
ヴェツェは氷のような眼差しで剣を見据える。
それにゴクリと喉をならし、剣は俯きながら答えた。
「…勇気とか、覚悟とか、まだ出来てるわけねぇ。
でも、まだ俺はこいつらお馴染みをバカやりたい!
逃げた分、俺がこいつらの為になにかやりてぇ!」
真剣な目をヴェツェに向ける。
わずかな迷い、恐怖は存在しているが、そこには確かな覚悟が剣を奮いだたせている。
ヴェツェの目は、目の前の少年のこころから光をとらえた。
『…、君はまだ弱い…。でも、よく帰ってきたね、剣…いや…、《盾となる者》』
陽だまりのような笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
「!?、剣が…《盾となる者》だと!?」
双士は目を瞠った。
当たり前だろう。
《盾となる者》、すなわち゛コア〝の下に集まる四人の中で最も危険な位置。
それが最も臆病者で、最も弱いであろう剣であるというのだから。
天音も驚いている。
ヴェツェは笑顔のまま、しっかりと頷いた。
「何故、何故剣だというんだっ!?」
「…うるせぇ。」
納得がいかない、と反論する双士に冷たく銀架は呟く。
「いちいちうるせぇ男だな、あんた。理由はわかってるくせに、女々しく聞くな」
「なっ!?」
「こいつが弱いからって、思いっきりそう剣の能力を理解すらしてないのに否定して、何偽善ふりまいてんの?
昔の剣は忘れたけど、今の剣は弱くても確かな能力を持ってる。
つい最近戻ってきたやつがしゃしゃり出るな。」
今の彼女には、弱い親友を信頼する強く冷たい眼差しがあった。
双士を批判し、毛嫌う冷酷な目で彼を一瞥し、どこかへ歩いていった。
重たい空気がそこに漂った。
それを破ったのは、双子の姉だった。
「…双ちゃんが言いたいことはわかるよ。でも、僕たちはもうあの頃の僕たちじゃないの。
それは双ちゃんだって一緒でしょ?
だから、心配しても、否定はしないで…。」
悲しく微笑む鎌架に、双士は気まずそうにうなずいた。
「まっ!心配してくれてあんがとな、双士!」
当の本人は暢気に笑った。
それにみな苦笑していた。
ヴェツェはその光景に目をとじ、ふわりと静かに消え、主の下に向かった。
―人は誰だって弱いんだ。でも、成長すれば変わり確かな能力を備えるんだ。
それを否定しては、そこでおしまい。銀架はそれが嫌だったんだよね…?―