第21話 覚悟と誓い
――――
銀架はスッと目を開く。
あの闇はもう消えていた。
時計に目をやれば6時。もちろん夕方の。
「………寝過ぎた…」
ふと、先の戦闘を思い出した。
モノと融合した殺狂人。
明らかに強かった。
「(……まだ、弱い。)」
自分の無力さを感じる戦闘だった。
あの後、どうなったかは枕元に現れたヴェツェに聞こう、と考える。
『……覚醒してきてるね。゛コア "が少しずつ、銀架の体内の構成を変えてる。』
ヴェツェの表情は一言言って《無表情》。
何を考えているかわからない。
普段の飄々とした面影はない。
「…みたいだね。あんなに傷だらけだったのに傷ひとつない。」
スルッと緩くなっている包帯を取る。
あちこちにあった銀架の傷は、跡形も無く、彼女の白い肌だけだ。
『…銀架、銀架が気を失った後…羚真が戦った。
今の銀架たちは彼の足下にも及ばない。』
青い目がジッと布団に横たわっている銀架の目を捕らえる。
銀架も見つめ返す。
「ずいぶんはっきり言うね。べつにいいけど。
……」
銀架は同じような目でヴェツェを見据える。
今の2人の目には、お互いしか映っていない。
『銀架が自滅するのは勝手。でも、できる限りのことは成してよ。』
「ずいぶん荒い奴。…で、お前に残された時間はいくらある?」
銀架の後半の言葉に、彼女はピクッと無表情の顔に一瞬だけ感情を表した。
《驚愕》を。
『………』
「………」
2人の間に沈黙が流れる。
お互い目を反らさず、真意を探る。
先に折れたのは、銀架だった。
「別にいいよ、話さなくて。お前だって言いたくないことの一つや2人ある。
ただ、言っておくことがある」
『……何?』
銀架の目に無はもう無い。
あるのは《覚悟》のみ。
「ヴェツェがどう言おうが―、僕は自滅なんて真似はしない。弱いなら強くなる、剣の扱いが下手なら上手くなる。……ただそれだけだ。
お前に誓ってやるよ、守護者サマ?」
ニヤリと挑発的に笑う。
ヴェツェはジッとみていたが、小さく顔を伏せた。
『……もう、逃げ道はないから…。……―戦え、幼き゛コア "―』
ヴェツェの目は、いつもより澄んでいた。
清らかな純水のように。
そして、彼女は笑う。
『わたしも銀架に誓うよ。わたしという器が終わり、次代という器が生まれるまで、わたしは銀架と共にある。
その間、わたしの知識すべてを叩き込むから』
護るべき者の為に。
ガラッと戸が開いた。
「銀架、起きたんだ…」
鎌架だった。
彼女は安心したような笑みを浮かべ、2人に歩み寄った。
「なかなか起きないから、天音や妖梨ちゃんが心配していたよ。
……ヴェツェ、次に武器を与えるのは誰かな?」
笑みから、真剣な眼差しをヴェツェに向けた。
なにか焦っているように、揺れている。
『……残念だけど、鎌架じゃないよ。……きっと、もうすぐ戻ってくる子だよ。
後悔を背負って。』
どこか意味あり気な言葉を投げかける。
銀架はなんとなくわかった。
「……アイツ、大丈夫なんだ…」
安心したような、でも悲しいような目になる。
それに、鎌架は直感した。
「…まさか……」
彼女の目には、困惑と悲しみが映った。
そんな2人を、守護者はただ黙って見つめ、静かに目を伏せた。
―ごめんなさい―、と……
―銀架の背負う覚悟、わたしが背負う誓い…それはきっと大きな力になるよ。
でも、きっと旅は道連れ。またあなたは涙を流すかもしれないね…銀架―