第20話 銀架のユメ
―
辺りが真っ黒だ……
見えるのはその闇に負けないほど黒いコートに身を包む自分…。
唯一の色は自分の青黒い髪だけ。
――僕ハ死ンダノカ?
もしそうでも、何故かこの闇が怖いと思わなかった。
何故だろう……
……あぁ、そうか…
この闇は《僕》に似ているんだ…
ふと、自分の足元に円が描かれた。
驚きはしたが、特には何とも思えなかった。
円は、僕自身に何かを見せている。
頭が痛い……
――見テハイケナイ
――目ヲ背ケルナ
何に?
――思イ出スナ
――必ズ思イ出ダセ
何故?
――今ハダメダ
――真実カラ……逃ゲラレナイ
どうしてだ…?
頭の痛みは一向に退かない。
頭に流れ込む矛盾の2つの言葉。
それが鈍い鈍器のように、僕の頭を殴りつける。
痛い…あぁ、でも………
――アノ時ノ方ガ、肉体モ、魂モ痛カッタ……
――――――――
未北村の暖かな春の季節…
とある丘に、《表向き》は理想的な家族が住んでいた。
優しく穏やかな父親、綺麗で優しい母親、いつも一緒の双子の姉妹…。
僕の家族……
父親は村人たちに慕われていた。
優しく、威厳と知性を兼ね備える父を。
だが、それは《表向き》。
一人に対して、《裏》は違っていた……
「―銀架っ!貴様というゴミはっ!!!」
父親は、健康で無邪気な双子の妹―銀架―に必要以上の虐待を加えていた。
母親は何度も止めようとするが、彼女までぶたれる。
銀架は母親を守るため、出来るだけ母親に助けを求めなかった。
「お父さん、やめて……」
泣きそうな声が、リビングのドアからした。
双子の姉―鎌架―
すると、先ほどの般若の顔はどこへやら、父親は《表向き》の顔を浮かべる。
「どうしたのかな?鎌架。ほら、早くベッドに戻りなさい。
今度友達と遊ぶんだろう?」
鎌架の頭を優しく撫でる。
鎌架の目は銀架を見ていた。
「銀架も一緒じゃダメ……?」
せがむような声に、父親は苦笑した。
「いいよ、連れていっても」
「銀架…行こう…」
銀架のもとに近寄り、彼女の手を引いてその場を離れた。
銀架は無言で付いていく。身体は心なしか震えている。
部屋に入った時、鎌架は黙って銀架を抱きしめた。
「………銀架、僕らは双子だよ…。何も変わらないから…。前にも言った。お父さんは間違ってる。……必ず、僕がお父さんを戻すから…」
「っ…れんかっ、僕は、鎌架とおんなじなのにっ!鎌架の心臓が悪いだけなのにっ…なんで僕はお父さんに嫌われるのっ?」
涙を必死にこらえて、銀架は訴える。
鎌架は抱きしめる力を強める。
「お父さんはきっと心が苦しいの。僕が、心臓を痛めていなければ、こんなことにならなかったっ…。…銀架、僕が銀架を守るから、今は、耐えて?
今度また服の取り替えっこしよー?
双子だから、お母さん以外にはバレないでしょう?」
鎌架は銀架のために笑った。
銀架はきょとんとすると、頷いた。
…前も入れ代わっていたのだろうか…?
そこで、また僕の視界は暗闇に戻った。
――――――――
……これは僕の記憶だったのだろうか…?
銀架と鎌架、確かに僕と今の鎌架に似ている。
でも、なぜか違和感があった。なぜだろうか…
そんなのどうでもいいか……
この闇は、いつまで続く?
まるで、今の僕だ………
―…そう、それは君だよ―
?誰だ……?
ヴェツェとは違う、透き通った声…
―…きっとそのうちわかる……それは、君がわたしに名づけてくれたあとだろうね―
名づけてた……あと?
まさか、お前は………
―早く起きて、僕の相棒…―
闇は、声と共に光に消えた。
眩しいこの光は、何故か悲しかった………
―過去は足枷。でも、銀架の過去は、きっとキミを間違った道から救ってくれるもの。
早く起きて、わたしの主…