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第19話 Blood Master

変わってしまった殺狂人に、銀架、羚真、妖梨、ヴェツェ以外は畏怖していた。


銀架が戦闘体制に出た。

狂滅を抜き、自分たちを食そうと迫ってくる殺狂人と間合いを詰める。


ギィンッ…!と金属音が響く。

ギリギリと力でねじ伏せてくるその殺狂人は鎌と、それを耐え、凛々しく受け止める銀架の狂滅。

銀架は弾き飛ばされ、一度間合いを作る。

「……ヴェツェ、こいつは…?」

再び奇声を上げて鎌を振り下ろす殺狂人の攻撃を受け流しながら、ヴェツェに目を向ける。

ヴェツェは、静かに殺狂人を見つめる。

『……殺狂人の進化……、…わたしは体験したことないけど、他の守護者の話にあったよ。

《殺狂人になった者は心(精神)の破壊の次に、肉体を同化という変化が起こる。我々は、この状態の殺狂人を『サクリファイス』と呼ぶ。》って…。』

まさかここまでひどくなるなんて…と、形のよい顔を歪ませた。

ヴェツェにとって村は大切な宝で、人々は大切な希望なのだ。

それが壊されていくなど、いつもおちゃらけた彼女にとっても絶望だった。

「……『サクリファイス』……犠牲、か…」

双士が苦々しく口から漏らす。

銀架はその話を静かに聞き、狂滅を持つ両手に力を込める。

「犠牲なんて…僕は嫌いだ。」

「ヒヒヒ、ウマソウナエサダナ。ハヤククワセロ。」

殺狂人は不気味に口角を上げて何度も銀架を追い詰める。

銀架は負けじと鎌を跳ね返したりするが、鎌の刃を何度も掠めてしまっていた。

まだ普通の人である銀架には、体力もかなりすり減ってきていた。

冷や汗が額から流れる。しばらく黙っていた妖梨が、ヴェツェに告げる。

「守護者様、…銀架さんを、下がらせましょう…。まだ、あの方は、傷が完治して、ません…」

その言葉に、双士、鎌架、天音は目を見開き、銀架を見た。

確かに、前闘ったときに出来た傷口から赤が滲み出ていた。

コートを完全にしめていないため、動き回るたびにそれが見える。

カッターシャツまで血がついている。

「!っ…銀っ!私が代わる!だからお願い、引いてっ!」

天音は鉄扇を開き、今にも飛び出しそうな勢いだ。

銀は殺狂人の攻撃を交わしながらチラッと天音を見た。

そして、つい最近みていなかった生意気な笑みを浮かべる。

「僕をナメんなよ?」

タンッ!と力強く地面を蹴り、高々と跳ぶ。

そのまま殺狂人に狂滅を振り上げる。

「簡単に……死んでたまっかぁっ!」

勢い良く振り下ろし、腕を斬り落とした。

「グアァァッ!!」

殺狂人は腕から血を流しながら唸り声を上げる。

銀架は軽い動作で降り立ち、殺狂人を見た。

だいぶ体力を消耗したのか、ガクッと地面に膝をつける。

「っ!」

「銀架が、危ない…」

鎌架はギュッと手を握り締め呟く。

荒い呼吸をしながらも、狂滅を地面に立て、ゆっくり立ち上がる。

「ハァ…ハァ…っ…とどめ、刺すよ…」

地面から狂滅を抜き、構え直すと、地面を蹴る。

間合いを詰めて、狂滅が殺狂人の首を捕らえた時だった。

殺狂人はニヤリと不敵に笑った。

「ナァンテナ…」

斬られた腕からまた新しい腕が生えた。

「「「「!?」」」」

銀架も目を見開き、一瞬止まってしまった。

だが、殺狂人はその一瞬を見逃さなかった。

鎌の柄の部分で銀架を吹き飛ばした。

「っ!かはっ…」

そのまま木にぶつかり、ぐったりと横たわる。

「銀っ!銀っ!」

天音が必死に呼びかけるが、虚ろな目をしていて銀架は応えない。

殺狂人は銀架に近寄る。

「エサ一匹目ダナ。」

ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、鎌を振り上げた。

銀架は動かない。たとえ動けたとしても、狂滅は違うところに飛ばされていて、防ぐことはできない。

絶対絶滅だった。

「イタダキマァスッ」

殺狂人が鎌を振り下ろす。

銀架に向けて。

「「っ!銀架っ!」」

鎌架と双士が叫ぶ。

鎌が銀架の心臓に迫った時だった。

「―『blood typeパートⅡ』bloody wall」

赤い壁が現れ、鎌を防いだ。

「ナッ!?」

「次の相手は俺だ。…覚悟はいいか?サクリファイス。」

スタッと銀架の近くに舞い降りる影……

羚真だった。

羚真は銀架を横抱きにし、双士に投げた。

「なっ!?」

双士は慌てたが、しっかりと銀架を受け止めた。

「お前っ!落としたらどうするっ!?」

「お前が落とさなければいい。…さてと…次は俺のshowの始まりだ。」

双士の言葉を軽く返し、殺狂人に向き直る。

赤い壁に手を当てると、壁は丸い大きな塊となって浮く。

「?あれは…?」

『あれは輸血用の血液だよ』

ふわっと先ほどまでいなくなっていたヴェツェが現れる。

鎌架はヴェツェの言葉に疑問をもつ。

「輸血用…血液?もしかして、羚真のBlood Masterって二つ名は…」

『そうだよ。羚真は他人や自分の血液を自在に操る特異体質な子…。

そして、悪魔と恐れられていた存在だよ。』

「悪魔…。」

ヴェツェから羚真に視線を向けた。

彼はかけていた黒縁眼鏡を外していた。

赤の瞳が直に、冷たく殺狂人を捕らえる。

「『blood type パートⅢ』bloody lance」

浮いていた血液を三又の赤い槍に変えた。

赤々しいその槍は、確かに悪魔の武器そのものだった。

「エサ取ラレタ。マァイイ、マタイキノイイエサガ来タカラナ。」

殺狂人はニヤリとまた笑う。

それを見て、羚真は不敵な笑みを口元に浮かべた。

「クククッ、残念だったな、サクリファイス。ダンスパーティーはとっくに始まっている」

いつの間にか、殺狂人の後ろには無数の赤いナイフが殺狂人目掛け浮いていた。

「いくら避けきれるかな?『blood type パートⅠ』bloody knife」

その呟きと共にナイフは殺狂人に飛んでいく。

殺狂人はいくつかはよけることが出来たが、避けれなかったナイフは身体中に深く刺さる。

「グアアァァッ!!ナ、ナンダッ!?」

「お前がこっちに集中している間に、零れた銀架の血を活用させてもらった。

銀架の血は特殊みたいでな、切れ味は格別だ」

クルクルと血の槍を遊ぶように回し、言う。

「…羚…別人みたい…」

天音は小さく呟く。

冷静沈着な先ほどの羚真は、今残虐非道な表情を浮かべている。

赤い瞳を冷たく光らせ、口元に笑みを浮かべる。

まさに―悪魔―だ。

「あれも、羚真なのです…。羚真は、あの能力を使うこと…必ずああなります…。」

『特異体質な羚真は、強いよ。銀架以上にね』

妖梨とヴェツェは静かに羚真を見守っていた。

「ナンデ、強イッ!?」

「お前と俺の違いは一つ……

俺は傲慢でな…」

グサッと槍を殺狂人の胸に刺す。

「ギャアァァッ!」

笑みを浮かべたまま、彼は言う。

「守るべきものを守るためなら、何でも壊す、奪う。」

彼の目に宿るは信念。

そして忠誠。

「最期に見せてやろう、俺の技を…

『parasite《寄生》』」

彼が呟いた瞬間、殺狂人の身体の中に何かが這う。

グチャグチャと不快な音がしたと思うと、中から蛇が出てきた。

「ギャアァァ!」

殺狂人は叫び、倒れた。

羚真は蛇を消し、殺狂人を見る。

「……手荒で悪いな。」

彼は、倒れた殺狂人に言う。

殺狂人は同化が解け、人の姿に戻っていた。

呻き声とともに、殺狂人だった人は目を開ける。

「ぅ……。…すまん…かったな…少年……」

妖梨がすぐさま、近寄る。

悲しげに微笑み、彼女は言う。

「…青井、…お疲れ様でした…。…次は来世で会いましょう…。亡くなった家族の方々は、手厚く葬ります。」

「よ…妖梨様……ありがとう、ございます……。」

青井と呼ばれた彼は、この村の住民のようだ。

彼は妖梨に感謝し、静かに息を引き取った。

それを見届けた妖梨は絹の布に巻いたそれを出す。

綺麗な丸い鏡だった。

「この者、来世約束されし者…良き来世へ導きたまえ…」

鏡が青井を写す。

彼の身体から白く光ものが現れ、鏡に吸い込まれた。

「…また会いましょう…青井。」

祈るように呟き、再び絹の布を巻く。

羚真はそれを見てから、スタスタとどこかへ歩いて行った。

誰も彼を追いかけたりしなかった。

Blood Masterと呼ばれる彼の背負うものが見えた気がしたからだ……。


―羚真はわたし達を守る悪の矛と盾…。でもね…羚真…、あなたはあなたでいいんだよ…

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