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第18話 進化


ヴェツェたちは一度妖梨の家に戻り、昼食の準備をしていた。

台所では妖梨、銀架、天音が料理をしている。

『銀架も料理できるんだぁ~』

ニコニコと笑ってヴェツェは言う。

銀架は野菜を切り刻みながらめんどくさそうに答える。

「知ってるくせに。大概は鎌架にやってもらうけどたまには作るよ。」

「単にめんどくさがり屋なだけだもんねー銀架は。料理を作らせれば僕より上手なのに…」

残念だよね、と苦笑しながら鎌架は言う。

羚真は静かにその様子を眺めていた。

「…」

双士はそんな羚真を訝しげに見る。

「…アイツらがそんなに気になるのか?」

「…違う…。…ただ…、不思議な光景に思っていただけだ。」

「…羚真は、家族がいないから…。」

冷静な羚真の言葉に妖梨は付け足すように言う。

銀架は、チラッと羚真を見た。

ヴェツェは依然笑顔のまま語り出す。

「家族を知らない羚真にとって、こういった賑やかな調理風景は珍しいんだよ。

あんまり藤ヶ谷村に帰って来ないし。」

それに天音はお玉を持ってキョトンとする。

「え…?普段はここにいないの?」

ここに住んでいるのかと思っていた未北村メンバーズはヴェツェに視線を向けた。

ヴェツェは一度羚真に目配りをする。

羚真はハァ、と溜め息を吐いてから小さく頷いた。

『羚真は今鉱山に住んでいるんだよ。最も、つい最近に廃鉱となってしまった鉱山だけど』

その言葉に、双士は考え込む。

「………!碧野村にある光真(こうしん)鉱山か!

たしかあそこは様々な事故が相次いで起きたため、不吉な場所とされていて県が廃鉱としたんだったな。」

『光真鉱山の事故が多発した理由はあそこに妖梨が作った守りの結界―莱保結(らいほうけつ)―があるためなんだ。

それ以上深く進んではダメってことで☆』

アハッ♪と笑うヴェツェに、銀架以外の双士たちは呆れていた。

銀架はただ豚汁作りに集中していた。

が、疑問を口にする。

「………結界で奥を守る必要あったの?」

グツグツと煮込む鍋を見つめ、尋ねる銀架に、羚真が答えた。

「…光真鉱山は一部異世界への道しるべがある。守護者が目覚めるまでに、再び狂気が現れ、そちらに攻撃を仕掛けられては、たまらないからな。

妖梨様の命で、俺はそこの結界の強化をしていた。」

その答えに納得したのかふーん、と気の抜けた返事を返す。

それから妖梨に指示をし、昼食のおかずを皿によそってもらった。

卓袱台には豚汁、野菜と魚の煮付け、炊き込み山菜ご飯が並んだ。

「二人ともすごい…。とっても美味しそう…」

天音は感嘆の声を上げた。

「銀架さんのおかげ、です…。魚は、あまり私では、さばけないですから…助かりました…」

「妖梨が山菜を採ってきておいてくれたおかげでいい炊き込み御飯ができたけどね」

「なんだかんだ、銀架は料理上手なんだから…。妖梨ちゃんも幼いのに料理上手だね!」

教えて貰いたいくらいだよ、と微笑んで鎌架は言った。

妖梨はぺこりとお辞儀をする。

感謝の意味だろう。

「まぁ、鎌架の無駄なお母さん知識が「無駄ってなに無駄って!」…はいはい。とりあえずほめてる最中だから黙ってよ。」

言葉を遮ってきた鎌架にめんどくさそうに言う。

鎌架はムスッとちょっと不機嫌になったようだ。

それを天音がまぁまぁ、と宥める。

「とりあえず食べようか」双士はお茶を持ってきなが全員に言う。

「……だね、せっかくの温かい料理がもったいないし」

「単純」

「う・る・さ・いっ!」

鎌架の機嫌がだいぶ直ってきたのを銀架がボソッと突っ込んだ。

鎌架はムスッとしながらもちゃっかり箸を持つ。

『じゃあ、みんな食べててねー。わたしは外いるから』

ヴェツェはフラーと外に向かう。

その様子を銀架が目で追うが、特に気にしなかった。

「では、食べましょうか…」

妖梨も箸を持つ。

「いただきます!」

「……まーす」

「いただきます…」

「「…いただきます」」

食事が始まり、全員賑やかに食べた。

軽い談笑が間に入ったり、(銀架と鎌架の)料理の取り合いがあったりした。

羚真は食べながらも、静かに見ていた。

「…」

「……珍しい?」

妖梨がそんな羚真に聞く。

「……はい。…普通の人なら、こうして賑やかに食事をできるのですね…」

目を伏せ、自分の目に触れる。

もし、自分が普通の人ならば、彼らと同じようにできただろうか?

心のどこかで、ほんの一瞬だけ羚真は思った。

妖梨は、そんな羚真をジッと見てから、4人を見た。

「……羚真、…あなたは好きに、していい。あなたは、《蒼月 羚真》なのだから……。」

「!…妖梨様……。……ありがとう、ございます…。」

妖梨の言葉に、目を見開いたが、穏やかに目を細める。

妖梨は返事の代わりに小さく頷いた。


食事が終わり、落ち着いた雰囲気が漂い始めた時だった。

6人の前に、焦った様子でヴェツェが現れた。

『っ、銀架!羚真!妖梨!早く外へっ!』

「ヴェツェ?どうし『殺狂人が藤ヶ谷に入った!』っえっ!?」

ヴェツェの言葉に全員固まる。

銀架、羚真、妖梨は素早く用意をする。

銀架は黒のコートを羽織り、狂滅を背に背負う。

羚真はウェストポーチを付け、ナイフをしまう。

妖梨は何かをくるんだ絹の布を持ってきた。

「どうして?ここには藤の花が満開に咲いて殺狂人は入れないのに…」

天音が混乱した様子でヴェツェに尋ねた。

ヴェツェは額に手を当て、焦りを抑えながら答える。

『はっきりはわからない…。でも、ひとつ言えるのは……人の姿から少し変わっていた。』

「「「「「!?」」」」」

「……人の姿から…」

銀架は静かに考える。

が、どこからか悲鳴が聞こえ、その思考は途切れる。

ヴェツェは悲鳴のする方向に飛ぶ。

銀架たちも急いでヴェツェを追った。

ヴェツェが向かったのは、藤に囲まれた家々が立ち並ぶ場所。

人々は悲鳴を上げて逃げていた。

「ば、化け物っ!」

「く、くるなぁっ!!」

「タベモノ、タクサンアルナァ…」

そこにいたのは、人を追いかける殺狂人。

銀架たちはその殺狂人に目を見開いた。

「…っ!、凶器と、人が…同化しているだとっ!?」

姿はほとんど人。だが…

―両手に鎌が食い込み、同化していた―

「アァ?マタタベモノフエタナァ…」

その殺狂人が、人とは思えないスピードで、銀架たちを襲う。


―進化した彼ら(殺狂人)…。彼らはどこまで変わってしまうのだろう?―

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