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第9話 覚悟

『彼女は死に、その魂はある少女へと生まれ変わったの。つまり…』

「銀架がってことだな?」

ヴェツェの言葉の続きを双士が聞いた。

ヴェツェはしっかりと頷いた。当の本人は何か考えていた。

「どうしたの、銀?」

天音が不思議そうに銀架の顔を覗き込んだ。

「…音亜って、村の文献(ぶんけん)に載ってたけど、……疫病神って言われてたんじゃなかったっけ?」

「えっ?゛コア″なのに?」

剣はキョトンとした。確かに彼の言うとおりだ。゛コア″でしかも村々を救った彼女が疫病神などと呼ばれるのは可笑しい。

『…゛コア″だからこそなの。』

「どういうこと?ヴェツェ。」

鎌架は至って普通に尋ねる。

『゛コア″はいわゆる村々の疫病を集める役割があるの。出来るだけ村人たちを傷つけないようにするために。でも、彼女が近くにいると、周りの人間にも少なからず災いが降り注ぐ。だから疫病神と呼ばれる。』

「…それは、それを承知で音亜は゛コア″を受け入れたのか?自分を犠牲にしてまで…」

真剣な眼差しで言う。

「しかも…そのせいで…銀架まで犠牲に…」

犠牲になったじゃないか!、と言いかけた。

だが、それを銀架が止めた。もちろん銀架は跳び蹴りで。

反動で双士がドアの近くまでぶっ飛ばされた。

「!っウグッ…ぎ、銀架?」

「…勝手に哀れみの目をすんじゃねぇよ。迷惑過ぎてうざいんだけど?…僕は゛コア″を受け入れた。だって封印したんでしょ?今僕の心臓にあるんなら、僕の記憶にはないけど受け入れたんだと思う。なら、自分の責任は自分で取るのが当たり前でしょ。」

仕方ないではなく、今こうなってしまったならなんとかしないといけないという考えなのだ。

銀架はマイペースだが、責任感や使命感をちゃんと理解している。

「…ま、どうにしろ僕の側にいない方がいいよ。疫病にかかって責任とれとか言われても無理だし。…ヴェツェ、未北村はもうアウト?」

側にいたヴェツェに問いかける。ヴェツェは首を縦に振る。

『…うん。もう…末期の人間がたくさんいるよ。いつ狂い出すかは時間の問題。…元凶はどうやって人間をあんな風に狂わすのか…私にはわからない。…とにかく、未北村は、もう駄目。でも、女子供は今のところ狂う確率は0。』

「…でも、亡くなった人は多いんだよね?」

天音は顔を歪めて聞く。故人の中には、自分の母も入っているからだ。

ヴェツェは静かに頷く。

『…ざっと10人…。女は6人子供4人…。…(むご)い…死に方よ。…体の四肢がバラバラで、どれがその人間のものなのかわからない。』

目を伏せ、顔を歪める。

かなりひどい状態なのだろう。

「…これから…私たちはどうしたらいいの…?」

聞き取りにくいほどの小さな声でつぶやく。

「…違う村なら安全なんだろ?なら、そっちに逃げようぜ!!銀架が未北村をなんとかしてくれるんだし、なっ?」

「!!!…剣……。…うん、逃げるならさっさとどっかいけ。臆病者が。」

にっこりと笑いながら毒を吐く鎌架。


「なっ、何言ってんだよ!?臆病者って俺はそんなんじゃねぇよ!ここにいたら死ぬかもしんねーだろ!?」

「…確かに未北村にいたら死ぬ可能性は高い。だが、…僕は未北村を置き去りにしたくない。」

双士は静かに言う。

「私もね。私の居場所はここだけ。ここから逃げるなんて、言語道断。未北村が今危険にさらされているなら、なんとかしないと。」

「…っ天音は逃げるだろ!?こいつら置いて、安全なところ…「いやっ!!」!!!??」

剣が天音にすがりつくと、返ってきたのは拒絶だった。

剣はビクッと反応した。

「もういやなの!!これからどうしたらいいの?って聞いたのは、この状態を私たちはどうしたらいいの?ってことなの!!逃げるなんていや!!」

手を強く握り締め、激しく拒絶する。手は爪が刺さったのか血が流れる。

すると剣は怯えるような顔になった。

「お前らおかしいよ!自分の命の方が大切だろ!?お前ら、ぜってぇおかしい!!」

そう叫ぶと小屋を走って出て行ってしまった。

バタンと激しくドアが閉まる。

小屋の中は沈黙が支配した。

しばらく誰も話さない。

その沈黙を破ったのは天音だった。

「…ヴェツェ、…私は、何ができる?」

胸の前で手を組み、ヴェツェに尋ねる。

ヴェツェはじっと銀架以外を見つめる。

『…あなたたちの人間、故郷を思う気持ちはわかった。でも…覚悟はあるの?』

真剣な目をして3人を見定める。

3人は力強く頷く。

「銀架を1人にはしたくない。」

「いや、別にどうでもいいし。」

真剣な双士の言葉にボソリと呟く銀架。

「銀架は僕の大切な妹だもの。1人ぼっちにさせられないよ。」

「…いや、ヴェツェいるし。」

「私もっ!銀とみんなと頑張りたいの!もう、こんなの…いや…。…銀は大切な幼なじみだもん。」

「あー、頑張るってた「「「銀架(銀)うるさい」」」…サーセン。」

ところどころ口を出してくる銀架に3人が言う。

銀架は軽くハァ、と溜め息を漏らす。

『ふふふっ、銀架は大切にされているね。…で、3人の覚悟、わかったよ。……音亜のできなかったこと、今なら…。』

小さく伏せるとすぐに顔を上げる。

『…これからのこと、今から話すよ。』

凛とした声で言い放った。



―これからが悲劇。喜劇になるなら、乗り越えなければならない。

あなたに覚悟はありますか…?

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