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屋上  作者: unknown K
7/7

最終話 君がため


あれから1日たった。空は今日も快晴で、校内の桜の木は、可愛らしい花をポツポツとつけていた。


今日は卒業式だ。そして、桜田さんに話しかける最後のチャンスになるだろう。


覚悟は、


できてない……


あれだけ決意しておきながら、いざ当日になれば、榊から守る事どころか、桜田さんに謝罪する勇気すら出せないなんて。


意気地なしの僕が本当に嫌になる。


「ふぅ……」


一旦、自己嫌悪はここまでにして僕は大きく深呼吸する。


僕が建てたプランは二つだ。


一つ目は、桜田さんに謝罪すること。


許してもらえるかはわからないが、精一杯謝るしかない。



二つ目は、榊を説得する事だ。


もう高校入試も終わり、皆の通う高校も明らかになった。


僕は小北高校に合格し、桜田さんはK王高校に落ちて、小北高校に進学することになった。


だが問題は榊だ。


彼も小北高校に進学するのだ。


このままでは高校に入っても桜田さんは榊にいじめられてしまう。


だから、僕が榊を説得して、彼女へのいじめを止めてもらう。


正直、とても怖いし、説得が成功するとも思えない。


でも、何も行動しないよりマシだ。



僕は覚悟を決めて、学校の体育館裏へと向かう。


体育館裏へと足を踏み入れた瞬間、僕はそこの空気の異質さに足がすくむ。


(タバコ臭い……)


そこはとても陰湿な空気で、タバコの煙がモクモクと立ち昇っていた。


そして、制服を着崩した不良集団がたむろしている。


(あれが榊恭二か……)


恐らくこの不良集団のトップらしき人が榊だろう。


釣り上がった眉に細い目。体は筋肉質で顔立ちはとても整っている。


だが、彼からは少しも隠す気のない、黒いオーラが立ち上っていた。


(こいつと関わってはいけない)


直感で、そう理解する。


気づけば身体は無意識に震え、足は一歩も動かなかった。


(勇気をだせ……)


僕は必死で精神力を振り絞る。


だが


僕が勇気を出すより早く、榊が動いた。


「どうした?お前、なんか話あんのかよ」


榊は気持ちよさそうに吹かしていたタバコから口を離し、不機嫌そうに僕に話しかける。


驚くほど美声だった。


「えっと……話があって……」


僕は必死で喉から声を振り絞る。


「なんだテメェ。オドオドしやがって。喧嘩売りにきたなら買うぜ」


榊の取り巻きの一人が拳をポキポキと鳴らす。


「まぁ、落ち着けよ。話聞いてやるぜ」


榊はポンポンと取り巻きの肩を叩き、僕の目を見据える。


「で、話ってなんだよ」


僕と榊の目が合う。彼が僕を見下していることがありありと伝わる。


あぁ、言ってやるとも。



「4組の桜田さんへのいじめを止めてほしい」


僕はあたりに響き渡るほど、はっきりと言葉を口にする。


「……」


あたりが一瞬静まり返る。


そして


「アッハハハハハハ」


周りの不良達が腹を抱えて笑い出す。


榊も笑いながら僕に話しかける。


「お前さぁ、さっきまで隅っこでブルって、俺に話しかける度胸もないくせに、偉そうに“いじめをやめてほしい”だなんて……」


「お前、男かよ」


ガコッ


「アァッ……」


目で追えないほど早い蹴りが、僕の股間に炸裂する。


あまりの痛みに僕は膝をついて悶絶する。


「へー、タマは付いてんのか」


榊が僕を小馬鹿にした顔で見下ろす。


「あぁっ……」


あまりの痛みに呼吸ができない。痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「おまぇさぁ、桜田のダチなのかなんだか知らねぇけどよぉ」


榊は膝をついた僕の首根っこを掴み、無理やり僕を立たせる。


「今まで何も俺たちに関わらずに、俺らにビビってた癖に? いざ卒業式の日になったら“俺は桜田の為に戦った”ってわかりやすいポーズ取りにきて?」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「どこまで落ちぶれてんだよこのタマナシ!」


「ガハッ……」


榊のパンチが僕の腹に食い込む。


「オエッ……ゲホゲホ……」


咳き込み、崩れ落ちる僕を、また榊が無理やり立たせる。


「で、カッコつけにきたは良いけど、ひよって俺に話しかけることすらできずに、一方的にボコされて」


ガン


「“あぁぁぁぁ”!」


榊の全力の蹴りが僕の膝に炸裂し、僕の膝が鈍い音をたてる。


あまりの痛みで地面でのたうち回る僕を足で蹴っ飛ばしながら、


「お前は本当に馬鹿だな」


そう、捨て台詞を吐いて、榊は僕から離れた。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


痛みで脳が働かない。


「コイツ、やっちゃうか?榊」


榊の取り巻きの一人が榊に声をかける。


「もういいだろ。こういうやつは殴れば殴るほど、“誰かのために殴られている自分”に酔いしれて、喜ぶだけだからな」


「チェッ、俺も殴りたかったな」


取り巻き達は不服そうな声を上げながらも、一歩後ろに下がる。


「まて……」


僕は喉からしわがれて小さな声で榊を呼び止める。


ここで榊、お前が言ってしまったら……



「どうしたお前?まだ自分に酔いしれようとしてんのか。気色悪りぃ」


いかにもお前が不愉快だという目で、うずくまった僕の顔を見下す。


だが、


「いや、お前にいい見せ物があるな」


さっきとは打って変わって榊はニマッと気持ちの悪い笑みを浮かべる。


「詳細は伏せておっけど、事が済んだあと、お前の絶望しきった情けねぇ泣きずら見れると思うと、すっかり機嫌が直ったぜ」


待て……お前がいなくなったら……


「じゃぁな、悲劇のヒロインくん」


榊は振り返り、僕から一歩ずつ遠ざかっていく。


お前がいなくなったら……



僕は自分を肯定できなくなる。


薄汚い己の本性に気がついた瞬間、僕は己に絶望する。


榊の言った事は正しかった。


僕は、自分に頑張ってるってポーズをとって、言い訳して、自分に酔おうとしているだけだった。


僕は無知で馬鹿で無力で愚かで、性格までも終わっている。


ハハッ


僕は思わず笑みをこぼす。


なんて滑稽なんだろうか。


こんな生きる価値すらないようなゴミが君を守りたいだなんて。


「本当に……」


馬鹿だなぁ。


擦り切れた膝と傷ついた制服。湿ったアスファルトの匂い。


背中を優しく照らす太陽までもが鬱陶しく感じられた。













ここから、式の終わりまでの事を、僕はあまりおもいだせない。



ただ、ひとまず怪我の応急措置をして、式典に参加して、てきとうに卒業証書を受け取って、てきとうに校歌を歌い、何事なく式は終了する。



騒がしい女子達がスマホを取り出して写真を撮りまくり、一部の女子は先生(勿論女性の教師)に抱きつき、人目を憚らずに泣いていた。


そんな女子達を馬鹿だなぁと言いながら、目尻に涙が浮かんでいるのを、風が目に沁みたせいにする男子達。


そこには青春と、いろんなカタチをした幸せと別れがあった。


だけど僕には何もない。


疎外感を感じた僕は校門を出ようとする。


こんなところからは早く抜け出したい。


どうせみんなはいずれ僕の事を忘れて、僕はみんなの事を忘れる。


だから、別れなんていらない。



校門まであと3歩。


(桜田さんにまだ謝ってないだろ!)


頭の中でもう一人の僕が叫ぶ。


うるさい。僕は謝るだけなんかで許される人間じゃない。いや、許されるべきではない。


校門まであと2歩。


(榊を説得しなくていいのかよ!)


うるさい。僕には無理だ。それに、僕みたいな無力な人間じゃどうしようもないって教えられた。


校門まであと一歩。


(本当にこのままでいいのかよ……!)


もう一人の自分が悲痛な叫び声を上げる。


僕は顔を歪める。


いいんだ。


僕は桜田さんの隣にいるべき人間じゃない。そう、今日気づいたんだ。


校門まであと0歩。


きっとこの門を超えた時、僕は戻る事ができないだろう。大きな忘れ物を残したまま。


僕は覚悟を決めて、門から出ようとする。


その瞬間


(待って……)


頭に桜田さんの声が聞こえた。


悲痛で、何かを訴えかけようとする声。僕はこの声を確か、あの日も聞いたはず……


それを……


また、無視するのかよ!


僕の中の僕が吠えた。


「忘れ物……取りに行かなきゃな……」


僕はそう呟き、踵を返して教室へと向かった。









外は騒がしいのに校舎の中は驚くほど静かで、教室の中には誰もいない。


そして僕は自分の机に向かう。古びた机の中に小さなメモ用紙が入っていた。


僕はそれを黙読する。


「どうして……」


読み終わった僕は顔を歪めて、教室から飛び出す。


時間の猶予はない。


急がなければ。


そのメモの表紙は“遺書”だった。





ーーー


水野くんへ


君がこれを読んでいる時、私は死んでしまっていると思います。

優しい水野くんは、私が死ぬと悲しむかもしれません。だけど、許してください。


そもそも、水野くんがこの遺書を見つけてくれる可能性なんてこれっぽちもないのに、私は何を書いているんだろう……


それはきっと水野くんにお別れを言いたいからだと思います。


あの時、水野くんに何も言えなくてごめんなさい。嘘をついてごめんなさい。


でも、後悔はしていません。


きっと、水野くんが差し伸べてくれた手を握ってしまったら、水野くんを巻き込んでしまうからです。


きっと私があの時、何か一言でも発していたら、弱い私は水野くんに甘えて、きっと水野くんに苦しい思いをさせていたと思います。


でも、水野くんを私の事情に巻き込むなんて事はできません。



私は、水野くんの笑顔が好きです。


私の話をいつも楽しそうに聞いてくれて。たまに言う冗談にも付き合ってくれて、無邪気な笑みを見せてくれて。水野くんと話していると、凄く幸せな気持ちになります。


それに、私のことを“友達”って言ってくれて、ありがとう。


君が友達って言ってくれて、私は救われました。

でも、こんなに弱くて、ダメな私は友達には相応しくないって思います。


だけど、好きな人に“友達”だって言ってもらえて、言葉だけでも幸せでした。


短い関わりだったけど、私の中では、水野くんとの思い出は、最後で最高の思い出だったよ。


ここで一句


「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの 逢ふこともがな」


知ってた?私、競技カルタ部なんだよ。


今までありがとう、水野くん。君のことが好きです。


桜田美音


ーーー



はぁはぁ


日頃の運動不足が祟って、息が荒くなる。


もっと運動しておけば良かったと悔やまれる。


だが今はその思考すらも無駄だ。


とにかく、急がなければならない


(なんてことだ……)


最悪の事態だ。


まもなく彼女は、自殺してしまう。


時間や場所はわからないが、見当はつく。


屋上。


そこしか考えられない。


一度彼女が死を試み、諦めた場所。


とにかく今は急げ。


(屋上まで、あとちょっと……)


ようやく屋上へと繋がる階段が見える。


ごめん、桜田さん。


あの時、君が黙っていたのは、僕が榊と関わらないようにするためだったんだね。


どれだけ君が大変だったのか、僕にはわからない。わかろうとすらしなかった。


僕の事を許して欲しいだなんて言わない。


自分を肯定するためのポーズもいらない。


ただ、君に手を差し伸べることだけは許して欲しい。


それだけは、どうしても。


僕は君が好きだ。


だから、君を死なせたくない。



あとはこの階段さえ登れば屋上……



だが、その階段には…



「お前ら……ふざけんなよ」


僕は全身を怒りで震わす。


階段には、榊達がたむろしていた。


まるで僕と桜田さんを隔てる壁のように。


「おっと、さっきの馬鹿のお出ましだ。」


榊が余裕そうな表情で僕を見下す。


「お前らは……何をしに……」


榊はニッと笑みを浮かべる。


「パーティーだよ。みんなでアイツの自殺を楽しもうってね。」


「……」



正気か?


怒りよりも早く、僕は困惑する。


こんな人間が存在するのか?


コイツは正気なのか?


頭がおかしいのか?


「で、私達はそれをお祝いしようってわけ、イエーイ!!」


そう、ピースサインを浮かべるのは取り巻きの女子だ。


コイツら揃っておかしいのか?


いや、そんな事はどうでもいい



「退け。急いでるんだ」


「どかねぇよ。退いたら、せっかくのパーティがめちゃくちゃだ」


榊が僕を見下す。


理解した。


榊が異常なんだ。


取り巻きは多分、桜田さんが本当に自殺するとは思っていない。


恐らく、ただの榊の冗談か何かだと思っている。


でも、榊は違う。


コイツは、人の死を、本気で愉しんでいる。


寒気が走る。


コイツはどうしようもない、吐き気を催すほどの邪悪だ。


「お前の言っていた“見せ物”はこの事かよ」


「正解。まもなく最高のショーが見れるぜ」


榊は心底楽しそうに笑う。


頭に血が昇るよりも早く、手が動く。


コイツに言葉は必要ない。


彼我の距離、約3メートル。一気に間合いを詰める。


僕は渾身のパンチを榊の腹に叩き込む。


だが、


「弱っちいなぁ!」


榊には全くダメージが通っていない。


「手伝おうか、榊?」


「いらねぇよ、コイツは俺一人の獲物さ。」


取り巻きの助力を拒否し、僕と榊のタイマンが始まる。


(クソ、時間がない……)


こうしている間にも、桜田さんは屋上にいるのだ。


「急いでるんだよ!」


僕は渾身の蹴りを繰り出す。


だが、その蹴りはいとも簡単に手で弾かれる。


「おいおい、こんなにモタモタしてると、桜田ちゃんが死んじゃうぜぇ」


「グハッ……」


榊の拳が僕の頬に食い込む。


(急がないと……)


もはや己の痛みなど、どうでもいい。



どうすればいいんだ。


僕は必死で知恵を絞る。


武力でも知力でも人数でも勝てない。


いや、“勝つ”必要はない。


なら、


僕がここを突破するだけの、隙をつくればいい。


「先生〜!!」


僕は声を張り上げて、叫ぶ。


「おい、あのバカ何してんだ」


「やべぇな、早くここから移動したほうがいいんじゃねぇか」


「まずいって……」


僕の想定外の行動で、目に見えて榊の取り巻きが混乱している。


今がチャンスだ。


僕はこの隙に階段を一気に駆け上がる。


(間に合え!)


僕は心の中で叫びながら屋上への扉を乱暴に開ける。


ガチャ


ドアが開くとともに、僕の視界に外の光が飛び込む。


(間に合わない!)


彼女は夢遊病の患者のような動きで、屋上のフェンスを越えようとしていた。あと数十センチ動けば、彼女は落下するだろう。


「待って!!」


僕は喉の奥から、ありったけの声を絞り出す。


彼女はピタッと動きを止めてこちらを振り返る。今にも泣き出してしまいそうな目をして。


彼女との距離が徐々に縮まる。


2メートル


1メートル


30センチ


10センチ


そして距離がゼロになる。


ギュッ


僕は桜田さんの手を握る。彼女の手は僅かに冷たかった。


「どうして……」


彼女の目からは涙が零れ落ちていた。


「君が死んじゃ……嫌だからだよ」


「でも私は……」


「……」


君の辛さを、君の経験した壮絶ないじめを、親からの重圧を理解してあげられない。


わかってるなんて安易な言葉もかけられない。


でも


これだけはわかる


「君は悪くない」


「でも、私は……皆んなの期待にも応えられなくて……みんなに迷惑しかかけてなくて……」


彼女の瞳から涙が零れ落ちる。


君が自分を責めるのなら……


「君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな」


僕は君の好きな所を言う。


「僕は君に救われたんだよ」


“えー、もうこの場所も見つかっちゃったか……秘密の場所だったのに……”


この時も


“私は水野くんに後悔してほしくない。水野くんが胸を張って、歩いて欲しい”


この時も


僕は、君に救われている。


「あの日……もう疲れきって、どうしようもなかったあの日。もう、生きる意味すら見失いそうになったあの日、君が僕を救ってくれたんだ」


「君に会うまで……小学校から止まっていた時の歯車を、再び動かしてくれたのは君なんだ」


「……」


「桜田さん、好きだよ」



吐息すら聞こえる距離で僕らは見つめ合う。


そして、彼女はゆっくりと目を瞑る。


それを合図に、僕は彼女の背中に手を回し、彼女の唇に、僕の唇を重ねる。


触れ合うだけの、軽いキス。


僕らはゆっくりと瞼を開き、唇を離す。


「水野くん……」


抱き合ったままの姿勢で、君は僕の胸に顔をうずめて、大粒の涙を流す。


「辛かった……辛かったよ……」


僕は無言で彼女の頭を撫でる。


彼女は堰を切ったように泣きじゃくる。


「親に、無理矢理、受験校を変えられて……でも、断れなくて……」


「それで、入試にも落ちて……両親からは冷めた目で見られて……」


「それに、いじめにもあって……」


「クラスのみんなが私を無視して……陰口もいっぱい聞いた……」


「殴られたり……蹴られたり……痛かった。辛かった。本当に……」


「辛かった……」


彼女が泣き止んだところで、僕は口を開く。


「桜田さん……謝らなきゃいけないことが、沢山ある」


僕は君をわかっていなかった。君を傷つけてしまった。


本来なら、この罪を償わない限りは、こうして触れ合うことさえ許されないはずで……


「水野くんは謝る必要なんてないよ」


「でも……」


「私は、君に救われたから」


彼女は笑みを浮かべる。


「それより……私こそ水野くんに謝らなきゃいけないことが沢山……」


「桜田さんだって謝る必要なんてないよ」


「だって……」


「僕だって、君に救われたから」


ふと空を見上げると、ムクドリが二匹、青空を飛んでいた。


群れから外れた二匹はゆっくりと、だけど支え合って、同じスピードで飛んでいた。


「ねぇ、桜田さん。改めて、僕と、友達にならない?」


「そうだね、今日から、水野くんと私は本当の友達だね!」


僕はまだ無知で、無力だ。


だけど、今日から、君を知ればいい。


今日から、君を支えればいい。


今日、僕が君に相応しい存在に変わればいい。


「それに……私と水野くんは、キスまでしちゃったから……」


彼女はそう、顔を真っ赤にして横を向く。


そんな彼女の仕草が面白くて、僕らは顔を見合わせて笑う。


この先、辛いことも沢山待ち受けているだろう。


そもそも、根本的な問題は何一つ解決されていない。


だけど、僕らで支え合えば、きっと困難にも打ち勝てる。


笑みを浮かべる彼女を見て、改めて僕は再認識する。


「桜田さん……」


「何?」


「やっぱり、僕は君が好きだ。」



君は顔を赤くし、恥ずかしそうにはにかむ。


好きだ。君が、どうしようもなく。


背中を優しく照らす太陽が、僕らを祝福しているような気がした。



         <終>

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