第四話 friend
あれは9月のいつだっただろうか。
いつものように僕は屋上に向かった。
ガチャッ
「ホッ……」
何度、屋上に向かっても誰かに見つかるかもしれないという緊張は和まない。
先程、ここに着くまで屋上への階段近くの廊下で、先生たちが話し合っていたが、何を話していたのだろうか。
そんな小さな疑問を胸に抱き、僕は彼女の横に座る。
「こんにちは、水野くん」
「こんにちは、桜田さん」
いつも通りに挨拶を済ませ、彼女の姿を見る。
いつも通りに美しい彼女。でも、今日はその容姿に異変があって……
「ここのアザ、どうしたの?」
僕は彼女の頬を指差し、疑問を口にする。
彼女の頬には数個のアザがあった。
「えっと……これは家でぶつけたの。私、不注意だから」
頬を家で数回ぶつけることなんてあるのかな、と思いつつも、僕は特に何も思わず話を続ける。
「そういえば、桜田さんはどの高校受けるの?」
「……小北高校だよ。言わなかったっけ?」
「もしかして、僕ら同じ高校になるかもしれないってこと?」
ふふっと彼女はいたづらげな笑みを浮かべる。
そんな彼女の笑みに、僕はいつもドキッとさせられっぱなしだ。
ところで、と彼女は話しを続ける。
「水野くんって和俊くんと仲がいいんだっけ」
「そうだよ」
「他に友達はいるの?」
「うん。4人ぐらいいるかな」
「そっか……私は、誰も……」
「……」
俯く彼女の目尻にうっすらと涙が滲んでいるのを見て、僕はいてもたってもいられなくなる。
「あのさ……」
彼女が今も友達がいないと言うことは知っている。彼女はいつも明るく振る舞っているが、心の奥では常に孤独を抱えていることも知っている。
それでも、彼女は本当に優しくて、僕は彼女に幾度も救われた。
今度は僕が彼女の孤独を和らげてあげたい。
本当は彼女の横で僕がずっと支えてあげられるような存在になりたい。だけど、おこがましくて、そんなことは言えないけど。
なら、
「僕が桜田さんの友達、じゃだめかな?」
「え……でも、私と水野くんは昼休みに話すだけで、まだそんな関係じゃ……」
「関係なんて後からでいいよ。今、友達になって、後から関係を深めればいいんだよ。二学期が終わったら、冬休みがあるし。カラオケとか行こうよ。
関係は明日から深めればいいんだよ」
「水野くんはいいの?私なんかで……」
「桜田さんだからいいんだよ。だから、今日から桜田さんと僕は友達!」
僕なんかじゃ、君の孤独を埋めることはできないかもしれないけど。
僕は君を支えていたい。
だって、
「そうだね、うん!ありがと。今日から私は水野くんの友達」
そう、泣き笑いの表情を浮かべる彼女の笑顔が好きだから。
僕は君をどうしようもなく好きになってしまったから。
この日が僕が桜田さんと普通に会話をした最後の日となった。
この時、僕は桜田さんの孤独も、辛さも、重圧も、何もかも、理解しきれていなかった。
そう……何もかも……
人との出会いはいつも唐突だ。勿論、人との別れも。