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第3話 少年期のはじまり

 あれから、3年後。二足歩行をマスターした俺はこのドデカい家を散策するのにハマっていた。


 どうやら俺はここらへんでは偉い生まれの様で、常に見張り役の女がついていたのだが鬱陶しいので毎回走って撒いている。

 最初はすぐ捕まっていたが、今は完全に気配を消すことができるようになったため簡単に撒けてしまう。


 それもこれも『魔力』のおかげである。赤ん坊の時、俺は我が妹(といっても双子なので俺が弟でもおかしくはなかった)に哺乳瓶でミルクを与え続けていたのだが、明らかに筋力量的に持てないものでも持つことができていることに気付いた。


 しかし、俺はそれに気付きながらも、そういうものだと納得してしまっていたのだ。


 そう勘違いしていた理由に、俺の種族が人間ではないことが挙げられる。

 生まれて数日、妹を見ると尖った耳が目についた。もしやと思って自分の耳を触ってみたのだが、俺の耳も人のそれより長いし尖っていた。俗にいうエルフという種族だ。


 しっかりと鏡で確認したのは最近なのだが、金髪碧眼トンガリ耳の美少年という昔の俺とはかけ離れた容姿をしていた。


 だから、エルフというファンタジー種族であるから生まれてからも筋力はそれなりにあるのだと勘違いしてしまったのだ。


 実際は、そうではなく魔力による自己強化が原因だと付き人エルフに言われた。


「あっ!アルフ様、また逃げ出したのですね」


 最近のマイブームは食堂で料理している激カワエルフお姉さんとアブナイ遊びをすることである。


「そうだ。今日もカルラは綺麗だな」

「あはは、アルフ様ってばお上手なんだから~。そういうのはもっと大人になってからもう1度言ってね」


 あ~、カルラ成分が心に染みるな。異世界最高。

 働かなくてよくて綺麗な女とイチャつける。見てるか、ワトソン君。ここが天国だぞ☆


「で、今日は何しに来たの~?」

「もちろん魔法の練習だ。カルラはコソコソとした魔法が上手いからな。追手を撒くのに役立つ魔法を教えてくれ」

「も~、アルフ様ったら人聞き悪いこと言わないでくださいよ~。……じゃ、お庭に行きましょうか?」


 美女に教えを乞うという体験は大人になってからでは難しいからな。存分に味わうとするか。





数時間後


「アルフ様、魔力の練りが甘いよ~?もしかして、もう疲れちゃったの?」

「い、いや全然余裕だが?もっとイケるが?」


 度重なる魔力の行使で正直へとへとなのだが、こうして休もうとするとカルラが煽ってくるのでやめられないのだ。美女の前で情けない態度は見せられないのだ。


「ま、今日はこれくらいにしとこうか~。お腹も減ったし」

「そうだな。俺はまだ全然余裕だが、カルラがそういうなら仕方ないか」


 俺は震える膝をなんとか抑えながら、食堂へ向かおうとした。


「いたっ」


 が、足が縺れてしまい、地面へダイブしてしまう。


「危ないよ~、アルフ様。やっぱり疲れてたんじゃんね」


 俺は地面に衝突する前に、柔らかいものに体全体が包まれた。


「ふがふが」

「もう、アルフ様ってば、くすぐったいって~」


 どうやら衝突する前にカルラに支えられたらしい。つまり、いま頭に乗っている柔らかくて重いものは……。なんか興奮してきたが、このままでは情緒がまずいので離れることにした。


「よし、先にお風呂かな?汗落とさないとね」

「そ、そうだな。カルラも一緒に入るか?」

「……エッチ。どうしようかな~?」


 ちなみに毎日このやり取りをしているが、一度も一緒に入れたことがない。

 意外とカルラの身持ちは堅いのだ。だからといって誘わないという選択肢はないのだが。


「ようやく見つけましたよ。アルフ様」

「……げっ」


 後ろから聞き覚えのある声がするので振り返ってみると、キツそうな目をした女が立っていた。


「あら~、レミィ。アルフ様の護衛も忘れてどこいっていたの?」

「カルラ様。私はそこにいるやんちゃ盛りを探していたのですが」

「え、こんな小さい子探すのに何時間もかけるなんて、護衛として心配になる~」


「……カルラ様が隠してたんでしょうが。毎日毎日しらばっくれやがって。いい歳したBBAが子ども相手に色づいてんじゃねぇよ」

「……いつもいつも邪魔ばかりする」


 いつもカルラとレミィはにこやかに笑いあうと、互いに近づいて小声で何かを話し出すので、いつも俺は蚊帳の外である。その間つまらないし長くなるので俺はいつも一人で風呂に行くのだ。




 風呂から上がり、食堂でなにか食べようと思ったのだが訓練を終えたエルフ達とたまたま時間が被ってしまったので自室に持ってきてもらうように指示した。


「今日もいい感じに疲れたな」


 この風呂上がりの脱力感を感じながら昼飯を待つ時間は嫌いじゃない。そこそこ美味しい飯のメニューを予想しながら床でボーっとするのがいいのだ。


 そうして持ってきてもらった昼飯を食べていると、また部屋のドアがノックされた。


「兄さま、いらっしゃいますか?」

「おう、ラヴィか。どうした?立ち話もあれだし、入っていいぞ」

「ありがとうございます。兄さま」


 ドアが開き、黒髪赤目のエルフがお盆をもって俺の横まで来て座った。


「兄さまとお昼ご飯が食べたくて……駄目でしたか?」

「いいや、ラヴィならいつでも歓迎だ。今日の飯は美味いぞ?川魚の塩焼きにつみれ汁もある。きっと沢山魚が取れたんだろうな」

「そうなんですね。美味しそう……ところで兄さま、午前はいつも何をしておられるのですか?お姿が見当たらないようなのですが」


 我が妹はそういうと、汁物の蓋を取り食べ始める。

 俺は遊んでいたと正直に妹に言うわけにはいかなかったので、一瞬頭を絞り修行していたと嘘をつくことにした。


「修行……ですか。誰に修行をつけてもらっているのですか?」

「ああ、カルラだよ」

「カ、カルラ様?……本当にですか?」

「え?ああ、まあ、な」

「す、すごいですね。兄さま。私なら死んでしまうかもしれないです」


 いや流石に修行であっても死にはしないだろう。我が妹はばかかわいいな。


「むぅ。兄さま今何か失礼なこと考えましたね。酷い」

「い、いやすまん。ほらこれ、つみれあげるから許してくれ」


 俺は汁しか入っていなかったラヴィの椀につみれと大根をいれた。


「ありがとうございます兄さま。ですが、私は誤魔化せないですひょ」


 俺はラヴィの口に川魚の塩焼きを箸で切り分けたものを放り込み黙らせた。


「ほら、もっといるか?」

「むむむぅ」


 俺は拗ねたようにむむむとしか言わなくなってしまった妹を抱き寄せて膝に抱えると、妹の口に昼飯を放り込み続けた。


「俺はラヴィの話も聞きたいね。今日ラヴィは何してたんだ?」


 黙って咀嚼する機械と化してしまった妹に、俺は問いかける。


「…………はあ。今日も資料室に行ってました。あまり人が来ない場所ですし、魔物について調べたかったので」

「魔物ね」


 この世界には魔物がいるらしい。というより、今食べているこの魚も魔物である。魔石を内包している生物のことを魔物というとラヴィが言っていた。


「ラヴィは魔物に興味があるのか?」

「興味があるといえばありますけど。ちなみに好きか嫌いかでいえば、今すぐ外に出て全ての魔物を殲滅したいぐらい嫌いです」

「それは……難しいな。俺たちはまだ外に出ていい歳じゃないし。あと数か月したら護衛ありでの許可は出ると思うけど」

「私は今でも外に出れますよ」

「ん?ラヴィも許可出てないだろ」

「出てないですけど、秘密の裏口はありますから」


 秘密の裏口?そんなの初めて聞いたぞ。


「な、なあラヴィ。俺、外行ってみたいんだけど教えてもらってもいいか」

「ダメです。兄さまにいうとすぐにバレそうですもの」

「絶対内緒にするから」

「ダメです……と言いたいところですが、私から離れないという条件ならいいですよ」

「よし!!ナイスだ妹よ!!」


 俺は喜びのあまり膝に抱えていたラヴィを抱きしめた。


「あぅ。に、兄さま。こんな明るいうちから……ダ、ダメ!」


 妹に張り手を貰ったあと話し合いの末、明日の朝決行になった。

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