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第2話 赤ちゃんになってる!?

 2徹した後寝て起きたときのような、深い眠りから目が覚めた感覚とともに俺は薄らと目を開けた。


(いや、どんな夢だ)


 夢を見るのも久しぶりだが、こんなはっきりと夢の内容を覚えているのもなんだか新鮮だ。


「あぅ?」


 ベッドから起きようとすると、全く腕に力が入らない。

 不思議に思って体を見ると、まるで赤ん坊のようにぷにぷにな肉体がそこにあった。


「……あ?」


 思考が止まる。俺はまだ夢を見ているのだろうか。

 頬を叩こうとするフィギュアのような小さな手は、己がどういう存在かを如実に訴えていた。


「あぅあーーーーーーー!?」


 なぜ!?どういうことだ!?本当に赤ん坊になってる!!

 いや、落ち着け落ち着け。生まれてこの方、俺は混乱というものから無縁ではないか。

 

 状況を整理しよう。まず、俺は誰だ。神崎士郎だ。しがない街のしがない探偵をやっていた男だ。

 次に、ここはどこだ。答えはベッドだ。柵で囲われている、中の人が外に出ないようにするのが目的だろうタイプのベッドに俺はいる。


 最後に、俺の横で寝ているこの赤ん坊は誰だ。

 黒い髪で、くりくりとした深紅の瞳の赤ん坊は、目が覚めたときから俺のことをじっと見つめている。


「あぅ?」


 よくわからないが、睨めっこだろうか。こちらから一回も視線を外さないのだ。

 あまり興が乗らないが、こう見えて赤ん坊の世話は得意だ。泣いたらうるさいだろうから付き合ってやるとするか。


 そうして、睨めっこを続けてしばらく。空腹感が俺を襲い始めた。

 不思議現象によって、赤ちゃんになってしまった俺は大人であったプライドを捨てられず、叫んで空腹感を訴えることができなかった。


「…………」


 未だじっと見つめてくるこの赤ん坊は、お腹すいてないのだろうか。赤ん坊らしく泣いてくれないだろうか、頼む。このままだと、俺たちは餓死してしまうぞ。


 すると、俺の想いが通じたのかその小さな口を開いて部屋が揺れるような轟音を奏でてくれた。

しばらくすると、部屋のドアが開き金髪の女が入ってきた。


「ごめんよ、お坊ちゃま。当番の者がうたた寝していたようで、遅れてしまいました」


 布らしきものと哺乳瓶を持ち、女が近づいてくる。

 布を柵にかけ、俺を抱きかかえると近くの椅子に座り、哺乳瓶を傾け俺の口に入れた。


「よーちよち。可愛いですね」


 俺は生臭いミルクを飲み、ベッドに戻された。


「うんうん、アルフ様は可愛いですね。……それに比べ、何だお前。醜いな。その黒い髪に燃えるような忌々しい瞳。御屋形様が忌み子だ呪われた子だいうのも頷けるな」


 ……なんだと?こいつ急に何を言い出しやがった。


「おいッ!!その醜悪な顔をこっちに向けるな。気持ちが悪い。お前の餌やりなんて御免だ。これはお前にやるから自分で飲めよ」


 そういうと女は持っていた哺乳瓶を赤ん坊の横に投げ、部屋から出ていった。


(美女だと思ったらトンデモ地雷女じゃないか。どう考えても生まれたばかりの赤ん坊に向ける言葉じゃないだろう。黒い髪と赤い瞳をしているだけであの対応なら、都会じゃ脳の血管が切れて死ぬな)


 まあ今はそんなことより、この赤ん坊の世話が先か。

 俺は投げ捨てられた哺乳瓶を拾い上げる。


(いま気づいたんだが、普通にハイハイできるんだよな。こんな小さいのに筋力おかしくないか?)


 哺乳瓶を投げられても、動揺する素振りさえ見せなかったこの赤ん坊の身体を少し起こし、口に哺乳瓶を突っ込む。


(大きくなれよ~。忌み子かなんか知らないが、俺はお前の容姿が醜いとは思えん。一緒にすくすく育とうな)


 空になった哺乳瓶を横に置き、満腹になったであろう赤ん坊とともに俺は眠りについた。





 次に俺が起きて目に入った光景は、ぴたりと俺にくっついて丸くなって眠る赤ん坊の姿であった。

 ……まあ、寒かったし丁度いい湯たんぽだと思えばいいか。

 艶やかな黒髪を撫で、俺は再び眠りについた。

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