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闇に咲く華に魅入られて  作者: 白狼(白狼)
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明るみになる真実(3)

「危ないぃ!!!」


 先輩がそう叫んだと同時に、俺の体に走る、強烈な激痛。

そして、一瞬で宙を舞う視界。

 その短時間で、俺は今自分がどうゆう状況なのかが、自然と分かってしまった。

視界の視野に入った『年代物の車』 そしてコンクリートの地面に飛び散る『赤黒い血』


 俺は、車道に出たと同時に、車に轢かれてしまった。

そしてそのまま車の屋根を転がり、吹っ飛ばされて、地面へ叩きつけられる。

 俺が飛び出した学校裏の道路には信号がなく、片道しかない狭い道路。

学校から、何度も何度も注意されている、危険なゾーンだった。


 それに気づいた時には、もう全てが遅い。

コンクリートに叩きつけられた俺の体は、地面をゴロゴロと転がる。

 生暖かいコンクリートより、全身から流れ出る俺の血のほうが熱く感じた。

荒い石の地面が頬に突き刺さり、転がっている小石が、何故か大きく見える。


 その時点で、俺の体はもう動かなかったけど、意識はあった。

ぼやける視界で見えたのは、スマホでどこかに連絡する先生と、俺に駆け寄る先輩の姿。 


 先輩は、必死になって俺に呼びかけてくれた。

でも、鼓膜が破れたのか、意識が朦朧としていたのか、何を叫んでいたのかは分からなかった。

 俺が前世の記憶を思い出すきっかけになった一つが、彼女の『涙を滲ませる顔』

その顔から滲み出てくる、彼女の『罪悪感』は、俺の記憶を呼び覚ましてくれた。




 俺は、ナイフを突きつける手を震わせながら、そんな表情で俺を睨んでくるボーンツさん・・・い

 や、『真子先輩』の手を握る。

その手は、とても冷たく、とても小さい。


 その手でどれだけ殺めたのかは分からないけど、その手からは『彼女の苦労』も感じられる。

___どうせなら、『転生前』にも、一度でいいから握ってみたかった。


 よくよく見ると、ボーンツさんの顔も、どことなく真子先輩と似ている。

髪色は違うけど、顔の形や雰囲気が、真子先輩にそっくりだったのに、ようやく気づいた俺。

 先輩に幻滅されても仕方ない、俺はとんでもない事をしてしまった。


「_____真子先輩。

 俺、先輩の事、恨んでなんかいませんよ。

 むしろ、旅立つ前に、真子先輩のことを色々知れて、すごく『得』した気分でした。


 先輩は、『背負いすぎ』ですよ。

 俺の命を直接奪ったのは、あの暴走車です。先輩じゃありません。

 もし今でも、俺が先輩の心を苦しめているんだとしたら、俺は何度でも言いますよ。



 俺、『転生前』も『転生後』も

 『真子先輩』でも、『ボーンツさん』でも


 恋をしてしまったのは、同一人物なんです。」


「__________っ」


「真子先輩と話ができたのは、本当にあの時だけでした。

 でも、先輩と言葉を交わすことができたのが、俺にとってはすごくすごく嬉しいことだった。

 ___今思うと、あれが俺にとって、人生初の『一目惚れ』だったのかもしれません。」


「__________私は、そうでもなかった。」


「え?」


 そう言いながら、ボーンツさんは、俺の首を掴んでいる手を離し、後ずさる。

(もしかして、俺、気持ち悪かったのか・・・?)と思っていたけど、ボーンツさんはその場で体育座りをしながら、微笑んで胸のうちを語ってくれた。


「確かに、私と貴方が会話したのは、それが最初で最後だった。


 でもね、この世界に来てからは、貴方とたくさん話ができた。

 最初は、『罪悪感』で、一緒に過ごしていたんだけどね、それがいつの間にか変わっていた。

 私、貴方と過ごす時間が、この血塗られた『第二の人生』のなかで、一番安心できる時間なの。


 それがやがて、私の宝物になっていって、私のなかの何かが、徐々に変わっていったの。

 いつもは『依頼』に対して、一切疑問もしないし、口答えもしなかった。

 それくらい、私はこの世界に来て、暗殺の技術や知識を蓄え、高めていった。


 ___でも、『情報窃盗団』を、あの屋内運動場で始末した時、貴方がまさか見ていたとは思わな

 かったな。

 あの時、私は窃盗団の相手をするので精一杯で、学園長から『追加の依頼』が来たときには、目の

 前が一瞬で真っ暗になった。


 私はてっきり、学園長が貴方に何らかの通達をして、その晩だけ来ないようにしてくれるのかと思

 ってた。

 でも、どうやら私の読みは、何もかも、最初っから最後まで外れていたみたい。」


「___そうですね、俺もすっかり騙されてました。

 で、その学園長の『追加の依頼』というのが、俺を・・・」


 ボーンツさんと俺は、もうすでに息絶えている学園長に目を向ける。

その顔は、とても醜かった。まるで、『ようやく真実に気づいたような顔』で。

 しかし、もう俺には、学園長に同情する気持ちなんて一切ない。

所詮彼も、他国の重鎮と同じく、『お金』と『地位』にしか目が向けられない、可哀想な人だった。



「_____それで思い出したんですけど、先輩はどうしてこの世界に来たんですか?

 というか、俺あの時の記憶が、まだ曖昧にしか思い出せないんです。」


「_____あぁ、やっぱりそこまでは見ていなかったのね。」


「『見ていなかった』って・・・???」


「_____私もね、あの車に轢かれたの。」


 その言葉で、俺はまた一つ、思い出したことがあった。

確かに俺は、駆けつけてきた先輩に何度も声をかけられた。

 でもその直後、彼女の後ろから、『車のブレーキ音』が聞こえていた。

一体車の運転手が、何を考えてそんな事をしたのか、もう確かめる術はないものの・・・


「え?!!

 も、もしかして、俺を轢いたあの車が・・・??!」


「_____まぁ、それを私が知ったのは、『学園に入学した直後』だった。

 そう、『君』を見つけた時にね。」


「__________あぁ、情けないなぁ、俺。」


「??」


「そこまで先輩が突き止めていたのに、俺はただ、のほほんと毎日を過ごしていた・・・なんて。」


「_____そうね、できれば私も、そんな生活を送りたかったわ。

 私がこの世界に転生して、新たに生を受けたのは、『暗殺一族の長女』として・・・だった。




 _______そして私は、知ってしまった。」


「___何を??」


「この世界で、長きに渡る戦乱の歴史、その歴史が




 『くだらない娯楽』でしかなかった事を。」


「__________は???」




「___ねぇ、アミー、少し提案なんだけど。」


 そう言いながら立ち上がったボーンツさんは、また俺に近づいてきた。

でもその顔は、何故か不思議と『嬉々』としている。

 この状況で、何故そんな顔になるのか、俺には分からなかった。


 まるで『チャンスを掴んだ』とでも言わんばかりの彼女の表情は、今までに見てきたボーンツさん

 の表情のなかで、一番好きに思える俺。

もう俺も、『彼女の真実』を知った時点で、おかしくなってしまったのかもしれない。


 だが俺には、まだ知らないことが色々とあった


 ボーンツさんが言っていた、『くだらない娯楽』

 元・学園長が言っていた、『化け物』

 そして、この世界の歴史の真実


 その全てを握っているのが、今目の前にいる、ボーンツさん。

これは俺にとっても、『千載一遇のチャンス』だ。


「ねぇ、アミー、私と組まない?」


「_____へ???」


「私と組んだら、君の『才能』を開花させ、下民としての生活から、脱却できるかもしれない。

 ___まぁその分、色々と苦労するかもしれない。


 でもね、『真実』と『地位・財力』を得るのは、それくらい頑張るしかない。

 貴方なら、その苦行を、乗り越えられると思うの。


 ___少なくとも、この学園で『ブクブクと育っている子豚』より、私は貴方を知っている自信が

 あるわ。」


「そりゃ・・・まぁ・・・」


「そして、力を得た暁には、私と一緒に、『この世界を丸ごと』ひっくり返してもらう。

 私一人ではできなかった、この馬鹿げた歴史も、終わらせる事ができるかもしれない。

 同じ『転生者』同士、『化け物』同士さ、これからはもっと仲良くならない?


 『クラスメイト』としてではなく、『反逆者仲間』として。」


 妖艶な笑みを浮かべるボーンツさん。

その後ろで、絶望に満ちた表情を浮かべる『冷たい人形(学園長)』

 この狂った空間のなかに立たされた俺は、もう以前の俺ではない。


 ___いや、もうこの世界に転生した時点で、こんな運命になるのは、ある程度決まっていたのか

 もしれない。

彼女は嘘を言っているわけでもなければ、俺を揶揄っているわけでもない。真剣に話をしている。


 そんな表情のボーンツさん。いや、ボーンツ『先輩』に、俺はどんどん惹かれていく。

そして俺は、どんどん『危ない方』へ向かっていく。それでも、俺はそのまま沼にはまりたい。

 この『背徳感』と『優越感』の混じった感覚は、まるで宙を自由に飛んでいるような気持ち。

何でもなれる、どんな事でもできる。そう、彼女といれば、この狂った環境を楽しめる。


「__________

 _____

 ___




 _____断って、この汚い部屋の中で、俺の生涯が終わるくらいなら




 乗りますよ、その話に。」

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