明るみになる真実(1)
ゴーン・・・・・ ゴーン・・・・・ ゴーン・・・・・
「ふぅー・・・・・
どうにか今日が終わったなー・・・・・」
「アミーさん、もう体は大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ボーンツさんのおかげで、昼間もゆっくりできたから。」
「___アミーさん、凄いね。私もそれくらい、治りが早ければいいのに。」
「いや、俺は疲れていても、それを自分で気付けないくらい馬鹿なだけ。
ま、そんな俺にできる事は、雑用くらいしかないって事だ。」
午後の授業の終了を終える鐘の音が鳴り、生徒たちが一斉に帰る支度をする。
でも俺たち下民は、学園に残って掃除をしなければいけない。
でも今日に限って、俺は今日1日が、いつもより長く感じた。
俺は机に突っ伏し、今日が何事もなく過ぎたことに感謝する。
お嬢様やおぼっちゃま達は、授業が終わると『部活』へと向かう。
その『準備』も『後始末』も、俺たちの仕事なんだけど。
乗馬部の連中は、『馬の世話』や『小屋の管理』を知らない。
調理部の連中は、『調理器具の準備』や『後片付け(食器・器具洗い)』を知らない。
生まれてからずっと、そうゆう事を誰かに任せていた人たちの生活は、やっぱり何か抜けている。
教室の掃除に関しても、彼らは『命令』するだけで、実際に床を掃いた事もなければ、ホウキを持った事すらない。
いつもならすぐ掃除に取りかかる俺だけど、1日ずっと周りを警戒するのは、ものすごく疲れた。
『命令』される前に、ちゃっちゃとやってしまった方が、スッキリした気持ちで掃除できる。
でも、いつも周囲を警戒している俺でも、今日に関しては、一体何を警戒すればいいのか分からな
い一日。
そして、俺の『悪い予感』に反して、今日もいつも通りの1日だった。
何か一つでも変わった事があった方が、まだ良かったのかもしれない。
ボーンツさんも相変わらず、雑用に励んでいる。
彼女が、鋭利なナイフを人に躊躇なく振り下ろす・・・なんて、今考えてもありえない。
彼女はそれくらい、『自分を偽る』のが上手いのかもしれない。
そんなボーンツさんの演技を、遠目から観察している自分も、大概性悪かもしれないけど。
でもそれくらい、許してほしい。
「おい! 下民!」
「あ、はい、何でしょうか?」
「その資料、図書室へ返してこい。
___お前、今日は弛んでるぞ! 下民は下民らしく、率先して我々の手足になれ!」
「はい、すいません。」
口だけの謝罪をして、俺が教卓に目を向けると、分厚い本が数冊、束になって置かれていた。
彼らもまた、いつも通りで、俺は呆れながらも安心する。
やっぱり、俺たちの体調なんてお構いなしに、仕事が山のようにある学園の生活。
でも、俺には『同じ立場にいる好きな人』いる、それだけでマシなのかもしれない。
この世界では、地位の差による問題が、あちこちで発生している。
それは仕事に限った話ではない、恋愛に至っても、かなりの制限がある。
だからこの学園で、恋愛沙汰はあまり聞かない。
下民同士の恋愛ならよく聞くけど、カーストが高ければ高いほど、気軽に恋愛できないから。
(___でも、だからと言って、ボーンツさんと気軽に恋愛はできそうもないな。
凡人の俺には、色々と背負うものが多すぎて重すぎて・・・)
「___アミーさん? やっぱりまだ体調が悪いんじゃ・・・?」
「あ、ごめんごめん! じゃあ、ちょっくら行ってきまーす!」
俺は本を抱えて、教室から飛び出る。
まだ彼女に声をかけられると、ドキッとしてしまう自分がどれだけウブなのかを自覚させられる。
廊下では、俺と同じ下民が、掃除に勤しんでいた。
俺は彼らの邪魔にならないよう、スルスルと人をくぐり抜け、図書室まで向かう。
窓から見える『屋外運動場』では、『乗馬部』の生徒が、馬のウォーミングアップをしている。
そして、乗馬部の華麗な乗馬テクニックを見ようと、女子生徒が外側でじっくり観察している。
小屋の方では、下民が掃除に勤しんでいた。
この光景だけで、この国の闇が顕著に現れている。
廊下には、荷物持ちの生徒が、息を荒げながらも、頑張って荷物を背負っている。
俺はまだ体が丈夫だから、雑用をあれこれ任されても全然問題ないけど、そんなに体が丈夫ではない下民生徒にとって、この学園生活は苦行でしかないのかも。
でも、かつてこの学園に通っていた母の話を聞く限り、この制度は、随分前から『学園の常識』だ
ったらしい。
母が学生の時代、まだ没落はしていなかったものの、それでも国のピラミットで例えるなら、『中の下』くらいの地位だった。
だから、今の俺と同じように、母も下働きばかりの毎日だった。
___そして今の母も、父も、下働きの毎日だ。
朝から晩まで頑張って働いて、どうにか生活できるお金は稼げている。
『家』や『毎日の食事』があるんだから、何の問題もない。
学園を少し離れると、『家』も『毎日の食事』もなく、路上で生活している家族を見かける。
だがそれは、この国だけの問題ではない。貧富の差は、各国で起こっている。
どの国の情勢も、随分前から全然変わらず、長引く戦争に終止符を打とうと必死だ。
だから、国民のお金がどんどん戦場で燃えていき、国民が支えるお金がどんどん減っていく。
かと言って、どの国も降伏しようとしないし、話し合いさえしようとしない。
とにかく、敵国の人間が殲滅するまで続きそうな、血で血を洗う戦い。
だからもう、俺たち下民は、今の現状を飲み込むしかない。
出口が見えないのなら、もういっその事、暗闇で過ごした方が、無駄に苦労も絶望もしなくて済む。
それに、お金持ちのお家も、そこまで幸せとも言えないのがこの世界。
お金がある・・・という事は、戦場へ赴くための『戦術』や『魔術』を、半強制的に習わされる。
そもそも才能がない俺には無縁だけど、学園で築き上げた成績が、戦場で利用されてしまうのが、
もはやこの世界では『常識』
それに違和感を感じたら、この学園はおろか、この世界ではやっていけない。
「はい、これで借りた本は全部です。」
「ご苦労様。」
ドサッと置かれた本の山を見て、司書担当の生徒は少し呆れ顔。
今日の図書室は、割と空いている。ちなみにこんな場所でも、格差が顕著に現れている。
下民が図書室の机や椅子を使って勉強をするのは、『暗黙のタブー』とされている。
そして、当然何故それが駄目なのか、答えは簡単。下民より上の生徒を、勉強に集中させる為。
図書館で勉強できる事は、俺にもできるような『他国の言葉』だけではなく、『魔術』に関して
も、ここで知識や情報を勉強する。
お金持ちの学園・・・と言うこともあって、保管されている本の数は、壁を埋め尽くすほど。
この世界の『読書』は、お金と時間がある人のみが楽しめる、『お金持ちの趣味』
それもそうだ、この世界ではまだ『印刷』とかないんだから。全ての本が『手書き』
まるで別の国の飛ばされたような俺だけど、俺はこの世界に転生した当初、元の世界に戻るため、
こっそり夜の図書室で本を漁って調べていた。
見回りを終え、月明かりだけを頼りに、関連のありそうな本を読みながら、睡魔と戦った。
でも、どの本を調べても、『転生』に関わる本はなかった、『不思議』なくらい。
だから、元の世界に戻ることを、いつの間にか諦めていた。
そして、いつの間にかこの世界に順応するようになった。
それでも、まだ諦めきれない節がある。
それは、今の境遇に不満を感じているから・・・なのも一因だけど、やっぱり俺にこの世界は合って
いないと思うから。
それこそ、少しでも戦う技術があるボーンツさんくらい、俺もそんな力があったら、この世界であ
る程度自由に生きられたかもしれない。
でも、どう頑張っても、俺は剣を持つことすらままならなかった。
俺はため息をつきながら、トボトボと廊下を歩く。
諦めることには慣れたけど、どれでもまだ、捨てきれない思いに葛藤する俺。
そんな事では、余計辛いのが分かっているのに・・・だ。
(『諦めが悪い』と言うべきか、『意志が強い』と言うべきか・・・)
「_______ぁ!!!」
「ん???」
不意に、何処からか『怒鳴り声』が微かに聞こえた。
すると俺の脳内には、また『嫌な予感』が過る。あの夜の出来事が、再び俺の頭を占拠する。
だが俺は、その場から立ち去る事ができない。
逆に俺の体は、微かに聞こえた怒鳴り声が聞こえた方向へ向かっていた。
もう俺は、自分で自分の体を動かせない。これが『本能』なのか、それとも『好奇心』なのか。
その答えを考える事すらままならないまま、階段を登って、辿り着いたのは
『学園長室』
そして、部屋のドアが、中途半端に空いている。
よせばいいのに、俺また『とんでもない事』に首を突っ込む。
___いや、正確に言えば、首を突っ込むんじゃなくて、『隙間に目を向ける』
そして、その先にある光景は、俺にとって、もう『見慣れた惨状』だった。
だが今回、ボーンツさんと一緒にいるのは、知らない人ではない。俺もよく知っている人物だった。
血まみれになった手で首を押さえているのは『学園長』だった。
___でも、声が聞こえた部屋が学園長室・・・というだけで、ある程度察しはついていた。
また今日も、『赤く小さな花(血痕)』を制服に咲かせるボーンツさん。
不思議なことに、彼女のその姿が、俺には美しく思えた。
何を考えているか分からない、冷酷なボーンツさんの目線も、俺の心に深く突き刺さる。
そんな表情のまま、ボーンツさんは学園長に語りかける。
当然その言葉に、『慈悲』も『同情』もない。
なす術もない学園長は、そんな冷酷なボーンツさんに対して、とにかく必死だった。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
「暴れなければ、苦しまずに逝かせたのに・・・」
「私は・・・私は君の為を思って・・・!!!」
「『君の為』???
_____その気持ち、『彼』に向けて欲しかったな。」
(『彼』???
__________おいおいおい、それってもしかして
俺???)
俺の脳内に、一瞬『とんでもなく嫌な予感』が過る。
まだ彼女の口から発せられた『彼』が、一体誰なのか分からないけど、学園長までボーンツのターゲットになった事で、俺のなかの『色々な疑問』が動き始めた。
(学園長、まさかあの現場に居合わせたのか?
___暗かったから分からなかっただけで、実はすぐ側に?
じゃあ、あの屋内運動場で、ボーンツにやられていたのは、『学園長の知り合い』か何か??
_____もしそうだとしたら、色々と辻褄が合うぞ。
もしあの件に、学園長が絡んでいて、何もかもが学園長の手の内だったのなら、説明がつく。
そもそもだ、あんな惨状を後始末するには、『専門的な道具』とかが必要になる筈。
学園が大騒ぎにならなかったのは、あの後しっかり清掃されたから・・・という事になるよな。
まさかあの現場をそのまま放置して、学園が日常を送れるわけない。
あんな惨状を放置したら、学園内で収まる話じゃない。しばらく休校になった方が自然だ。
でも、今日の俺だけじゃなく、学園全体が、いつもと変わらなかった。
しかも、あの屋内運動場を隅々まで掃除するのに、ボーンツさん一人で・・・とは考えにくい。
『血』って、服に付いてもなかなか落ちないんだから。朝までかかっても、跡が残るかも。
じゃあ、あの現場の後始末をして、ボーンツさんをあそこに呼び出して、何人もの人間を彼女に始
末させたのは
『学園長』???)
俺の頭の中で、色々と辻褄が結び始めた。そして、学園長はボロボロと真実を語り出す。
よく『サスペンス』でも、追い詰められた加害者が、ラストでペラペラと事情や真実を語るシーンがあるけど、それと同じ。
やっぱり、人間追い詰められると、『言わなくてもいい事』まで、つい口から出てしまう。
それくらい、頭の中が混乱している学園長。
でもその内容は、隠れて聞いている俺でも驚く話だった。
___いや、『驚く』というよりは、『失望』だ。
普段は朗らかで、外民の俺たちに対しても優しく微笑んでくれた学園長まで、カースト上位と思考
は一緒だった。
___何となく予想していたけど。
「あ、あいつはお前と違って、頭が良いだけ他に何の才能もない。
そもそも戦えないあのガキに、温情なんてかけるお前の方が変わってるぞ!!
お前はそれでも、この国一番の暗殺者なのか?!」
「_____えぇ、そうよ。私の力さえあれば、この国を一気に転覆させる事もできる。
今私が、この国の王に頭を下げているのは、この国の居心地が良いだけ。
いざとなれば切り捨てる事も、常に視野に入れているわ。
___でもね、私もこの学園の『生徒』よ、一応ね。
そして、今も懸命に生きるため、頑張っている『彼』も。」
「いいや!!! 違うね!!!
お前のような『転生者』は、俺たちと違う
『化け物』じゃないか!!!」
「_______________は???」
思わず声が出てしまった。
異世界に転生して、ずっと『探し求めていた存在』を、こんな状況で見つけられた。
学園長がこんな状況で嘘を言うとも思えない。それにボーンツさんも、一切動揺していない。
つまり、ボーンツさんも俺と同じ
『転生者』
「ふぅ・・・・・
お金のことにしか意欲が向けられない、貴方には言われたくないね、その言葉。
人の命も、権限も、全てお金で解決している存在は、果たして人間と呼べるのかしら?
貴方がこの椅子に座っていられるのも、皆にお金を配ったから、そうでしょ?」
「な、何故それを・・・!!!」
「そんな人間だから、恨みを買われて、『別件』で始末されるのよ、あんた。」
「こ、この世界ではな、『命』も『金』で動かせるんだよ!!!
お前はまだお子ちゃまだから分からないだろうがな、俺はこの学園と君を思って
『目撃者』である『アミー』の殺害を依頼したんだ!!!」
「_____安心して、貴方がいなくなっても、この学園の歴史は続くから。
それこそ、貴方が大事にしている『学園の財産』を狙っている人がね。」
「ま、待ってくれ!!! お前を最初に雇ったのはお・・・
学園長が、まだ弁解を続けている途中、ボーンツさんは迷わずナイフを振るう。
すると、学園長の首から、『赤い噴水』が噴き出る。
その勢いは、『暴れ馬状態のホース』のように、部屋のあちこちに飛び散る。
しかし、ボーンツさんは平然とした様子で、鮮血のシャワーを浴び続けていた。。
「_____何でよ、どうしてなの。」