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闇に咲く華に魅入られて  作者: 白狼(白狼)
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『下民』としての生活

「おい! 下民げみん

 花壇が汚いぞ! きちんと整備しろ!」


「はいはい・・・」


 シワや汚れ一つない、綺麗な制服を身につけ、今日も優雅な学園生活を楽しんでいる、クラスのカー

 スト上位生徒。

『貴族の娘』は、取り巻きと一緒にお茶を楽しみ、『軍指揮官の息子』は、今日も剣術に励んでいる。


 この『エンパイア学園』は、この国で一番『お金持ちの家系が通う学校』として有名。

でも、この寮付きの学園で、贅沢な暮らしができる生徒は、ほんの一握り。

 約半数の生徒が、『下働き』『雑用係』として、もはやこの学園で働いているようなもの。

俺もその一人。授業中より、放課後や登校前が一番大変なのが、俺たちの日常。


 何故同じ学園の生徒でも、ここまで差が出てしまうのか。

それはこの世界そのものが、俺が『転生する前』の世界と比べると、かなり『物騒』だから。




 そう、俺はこの世界に転生した、いわゆる『転生者』

気づけば俺は『赤ちゃん』になって、『没落貴族の一人息子』という立場にある事を自覚した。


 どうして俺はこの世界に転生したのか、転生する直前に何があったのかは、16歳になった今現在も、

 まだ分からないまま。

だから俺は、学園で一番地位の低い、いわゆる『ピラミットの最下層』 『下民』としての生活を送っているわけだけど。


 それに、よりにもよって俺が転生した先の家庭が、俺が生まれた時点で既に没落していた。

その原因が判明したのは、この学園に来るよりも前。

 ___というより、嫌でもこの世界の現実を突きつけられた。

この世界は、俺が元々いた世界より、よっぽど『物騒』だった。


 時折町で『凱旋パレード』が行われるけど、それは『スポーツ』ではない。

『本来の意味』で、町へ久しぶりに帰ってきた『戦士』を讃える行事。

 この国は、長い年月、様々な他国と戦ってきた。


 しかもそれは、この国に限った話ではない。

この世界のありとあらゆる国が、他国との争いを繰り返し、一向に終止符が見えない。

 そんな、何処へ行っても『四面楚歌』状態な世界に、俺は飛ばされてしまった。




 幸い俺は、働けるくらい丈夫な体で生まれたから、そこまで不便でもない生活を送れている。

両親も、毎日懸命に働いて、家族全員で支え合って生活している。それだけでも、まだ幸せな方だ。

 戦乱が長引いている事もあって、この国だけではなく、各国で『貧富の差』は『天地の差』

つい昨日まで貴族だった人間が、平民以下になることも珍しくない。


 俺の一家が没落したのは、両親の『人を信じすぎる性格』にある。

だからずる賢い周囲の貴族にそそのかされ、平民へ堕ちた。

 剥奪された地位を取り戻すのは不可能に近いし、その為にはお金も時間もかかる。

一家の貴族の名誉を回復させるほど、国の財政に余裕があるわけでもない。


 それでも俺が、このお金持ち学園に入ることができたのか。

言ってしまえば、『前世の記憶』をフル活用した『推薦』

 だから、家の地位は低くても、お金持ちの子供が受けるような授業についていけている。


 しかし、ここでも案の定・・・というか、地位によってカースト制度が自然と生まれる。

最下層の学生は、ピラミット最上層に鎮座する学生の小間使いになるのが、学園の習わし。

 だから最上層の学生が、最下層の学生を虐めたり、蔑んでいても、大人は誰も注意しない。


 「人間社会に『平等』なんて存在しない」

というセリフを、転生前にとあるゲームで聞いていたけど、まさかその言葉を、この学園で思い知ることになるなんて思わなかった。


 俺は転生前、『高校一年生』・・・だった、つまり16歳だった・・・筈。

その年齢に追いついた今、世界が違うだけで、学ぶ内容がこんなに変わってしまう事が、俺には少し寂しく感じる。


 この世界で重要な学問は、『国語』や『数学』ではない。

敵国を劣勢に追い込み、我が国に勝利をもたらす為、学園では『剣術』や『魔術』の専門家が指導をしている。


 お金持ちなら、より高度な訓練を受けられる。

俺はというと、『転生者』・・・という事もあって、勉強はできるけど、戦う術は何一つ身につけられなかった。


 この世界では、そうゆう人間は、地位も立場も関係なく、『役立たず』の烙印を押される。

でも、俺はそれでも構わない。

 何故ならこの世界では、剣術や魔術に優れていても、それは『戦場への片道切符』でしかない。

それに違和感を感じているのは、多分この国で、俺だけなんだろう。


 互いの国が、一体どうゆう理由で争っているのかすら、忘れてしまうほど、長い年月を戦いに投じてい

 る世界。

この学園に所属している生徒の大半は、両親の地位を継いで戦場に赴く事を夢見ている。


 俺は転生前、平和な国でのほほんと過ごしていた。

だから、将来の戦いに意気込んで、真面目に剣を振るっている生徒を見ても、俺は何も感じない。

 別に剣術や魔法が使えなくても、学園を卒業した資格さえあれば、何処でも働ける。

『転生前』は『高校二年生』で終わってしまったけど、今回はそれよりも、少しでも長く生きたい。


 ___この世界で、そんな願いは、『贅沢』なのかもしれないけど。


(___そういえば、俺ってどうしてこの世界に転生したんだっけ? 

 そもそも俺、どうして死んだんだっけ・・・?


 うーん・・・・・こればっかりは、どんなに思い出そうとしても、思い出せないんだよな。

 なんていうか・・・・・その記憶だけもやがかかっているような・・・)






「アミーさん、大丈夫?」


「___あ、ボーンツさん、すいません。」


「もう放課後なのに、花壇の掃除?

 私も手伝うよ。」


「いや、いいよいいよ。俺だけでもできるからさ。」


 下働きをする生活にも慣れたもの。

下民は雑用ばかり任される事もあって、制服が常に汚いから、余計馬鹿にされる。

 そして彼女も、自分と同じ下民の一人。

___というより、この学園に通っている学生の半分は下民。


 自分に声をかけてくれた『フォイユ・ボーンツ』さんと自分は、よく仕事を押し付けられる『雑用仲

 間・下民仲間』

彼女の場合、命令されてばかりの俺とは違って、命令を下される前に、既に雑用を終えている。


 それくらいしっかりした女子生徒と仲良くなれた事が、俺のちょっとした自慢。

ボーンツさんは俺よりも細い体なのに、俺より沢山の荷物を運べる。俺よりも体力がある。

 その真っ白で細い腕が折れてしまいそうな程、キツイ雑用を任されても、彼女は全く動じない。

文句たらたらで雑用する俺なんかとは、えらい違いだ。


「あ、アミーさん。泥だらけの手で、あんまり目を擦っちゃダメ。」


「いや、汗が目に・・・・・」


「あぁ! 泥だらけの制服もダメ! 

 これ、貸してあげるから。」


「ごめん・・・・・」


 ボーンツさんが貸してくれたハンカチは、とても良い匂いがする。

ハンカチの匂いに折り畳まれた彼女の匂い、ずっと嗅いでいたい気持ちがある自分自身が、男として、人として情けなくなりそうだった。


 でも、女子からハンカチを渡されたら、男子なら誰もが一瞬でも思う事だ。・・・だよね?!

こんな健気で、優しいボーンツさんを知っているのは、多分俺だけ。

 カースト上位の生徒は、俺たちの事を、単なる『使いパシリ』としか見ていない。

それに腹が立つこともあるけど、俺たちは俺たちで、この生活に満足している。


「_______」


「___ん? アミーさん、どうしたの?」


「今気づいたんだけど、ボーンツさん、なんか、目が赤くない? どうしたの?」


「あぁ、これ? 

 昨日はあんまり眠れなかったの。」


「勉強?」


「うん、ついていくのが精一杯だから・・・」


 苦笑いするボーンツさん、瞳が真っ黒だから、赤く充血している白眼部分が余計目立つ。

彼女は「恥ずかしいな・・・」と言っているけど、それは彼女だけの問題ではない。


 お金持ちのお嬢様やおぼっちゃまは、お家で家庭教師と一緒に勉強している。だから成績も良い。

専属の家庭教師は、学園の授業では教えてくれない事も、隅から隅まで教えてくれる。

 だが俺たちの場合、それ以前の問題だ。

いつもの授業を覚えながら雑用をこなすのは、とんでもないダブルワークだ。


 下民は基本的に、命令された仕事をやるのが当たり前。どんな事情があっても、断ってはいけない。

しかし、下民の生徒全員が、雑用を完璧にこなせるわけではない。

 でもそんな事情、カースト上位相手には通じない。

だから大半の生徒は、命令されるのを恐れて、ひっそりと学園生活を送っている。


 自分は、幼い頃から色んな場所で働いていた事もあって、雑用ならぼーっとしながらでもできる。

最近は『夜間の学園の見回り』もして、お金を稼いで家計の足しにしている。

 一応、成績が優秀な俺は、学費を免除してもらっているけど、それ以外にかかるお金は実費。

それを、両親にだけ払わせたくないから。


「ボーンツさんって、手際がいいよね。」


「え? そう?」


「うん。

 俺、家の事情で色々と仕事を掛け持ちしてるんだけど、ボーンツさんは俺より頼りになる。」


「そんな事・・・・・」


 土だらけの両手で顔を覆うボーンツさん、かわいい。

そんな彼女をコキ使っている生徒の方が、何だか哀れに思えてくる。


 カースト上位の女子は、普段からあからさまに、『お金持ちオーラ』全開。

何もかもを雑用係に任せ、自分たちは『お茶会』や『社交界』で、華やかな生活を送っている。

 そんな彼女たちと肩を並べてもいいくらい、ボーンツさんは美人。

ボーンツさんも化粧とかすれば、普通に可愛いと思うけど、化粧品なんて、庶民には手の届かない品。


 転生する前の世界では、「大人の女性は化粧が当たり前」みたいな風潮があった。

俺は男だから、その辺りはあんまり詳しくないけど、原型が分からないくらい、化粧品を顔中に塗りたくっている女子は好きになれない。


 ボーンツさん、普段の生活を維持するのも厳しいのか、ランチの時間は何処かへ行ってしまう。

俺は、働いているパン屋で、余った小麦を焼いたパンで、どうにか飢えを凌いでいる。

 上層の学生は、お上品なランチを囲みながら、お上品にナイフとフォークで食べ進める。

その脇でお茶を注いだり、空になったお皿を始末するのも、俺たちの役目。


 いつもパンや粗末な食事しか食べられないから、残された食事を漁るのが、俺の昼の日課。

野良犬とか野良猫みたいだけど、それくらい小賢しくないと、この世界では生きていけない。

 どんなに馬鹿にされても、軽蔑されても、俺はずっと下民のまま生きるしかない。

一旦その地位を剥奪された人間が再び返り咲くのは、奇跡でも起こらない限り無理。


「ボーンツさんって、普通のお家に住んでるの?」


「え? 何で?」


「だってボーンツさん、俺と同じ下民だけど、俺より頭良いじゃん。」


「ほんのちょっとの差だよ。」


「いや、それでもさ、此処ではちょっとの差もかなり大きいよ。

 どんな勉強法してるの? もしかして、両親が先生・・・とか?」


「ううん、そんな事ないよ。ただ一生懸命、自分にできる事を頑張っているだけだよ。」


 そう言ってはにかむボーンツさんを見ていると、前世の記憶がある俺は、情けなくなってしまう。

俺はある意味『ズル』をしているようなもの、ボーンツさんのように、一からしっかり勉強している人とでは、絶対的な差がある。


 ボーンツさんは俺とは違って、『剣術』も『魔術』もそこそこできる。

でも、やはり下民という事もあって、普段から目立っているカースト上位の生徒より目立たない。


 彼女にも、専属の指導者がいてくれたら、もっともっと強くなっていたかもしれない。

ただお喋りばかりして、勉強も魔術も真面目に取り組めないカースト上位女子とは大きな差がある。


 こんなにも才能に溢れているボーンツさんでも、家柄や財産の影響で、未来が狭まってしまうのは、あ

 まりにも勿体無い。

でもよく考えてみると、前の世界もそんな事情だった。


 前の世界と転生した世界、違うようで、似ている。

自分も転生する前は、今と変わらず。勉強ばかりやって、それ以外の事に対して、あまり熱がない。


 部活にも入っていなかったから、先生たちによく雑用を任されていたところも、ほぼ変わらない。

部活に入らなかったのは、サッカーとか野球に、あんまり興味がなかったから。


 中・高ともに、部活は強制じゃなかったから、友人は部活と勉強を両立させようと頑張っているなか、

 俺はただ単に毎日を過ごすだけだった。

別に、家庭環境が悪かったわけではない。ただ、面倒臭かっただけ。


 それで時折、両親から色々と言われていた。

「もっと青春を噛み締めて過ごしなさい」とか、「そのままだと就職するとき大変になるよ」とか。

 でも、いざ青春を謳歌したくても、色々と経験したくても、なかなか重い腰が上がらなかった。

唯一『学生らしい事』をしたのは、『体育祭』とか『文化祭』くらい。


 生憎この学園には、そんな楽しいイベントはない。

他の学校にはあるのかもしれないけど、日々の学園生活だけでも、普通の学校の倍以上はお金がかかるこの学園では、イベントをする余裕もないのかもしれない。


 それもその筈、戦乱が続けば、国の財政も徐々に削られていく。

いくらお嬢様・お坊っちゃまが通う学園だとしても、学校だって『経営の一環』

 ましてや、通っているのは『お金のありがたみを知らない生徒』ばかり。


 お金のありがたみを、両親や周囲から教わっている俺は、まだマシなのかもしれない。

俺としても、この学園を卒業したら、とにかく色んな場所で働くことにしている。

 この世界では、少しでもいいから行動できるようにしている、それが俺の『第二の人生の目標』

それくらいが丁度いい。




 土だらけになった手を二人で洗いながら、沈んでいく夕日を見る。

もう校舎に残っているのは、俺たちくらいだろう。

 俺は背伸びをしながら、綺麗になった花壇を見て満足する。

ボーンツさんは、首をグルグル回して、ずっと固めていた姿勢をほぐしていた。 


「そういえば、アミー君。今日も深夜の校舎、見回るの?」


「うん、結構楽な仕事だから。

 _____あれ? ボーンツさんに、俺が見回りしてる事、言ったっけ?」


「噂で聞いただけだよ。」

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