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プロローグ 伝承の始まり


 大勢の戦士たちが取り巻く荒野。


 彼らの眼前には丘の様に大きなドラゴンが横たわっている。

 ドラゴンの身体には無数の切り傷刺し傷があり、矢や剣、槍が突き刺さっている。

 二本あった頭の立派な角は片方が折れ、右目は潰されていた。

 翼も穴だらけでこれでは二度と再び空を舞う事は叶わないだろう。

 身体を僅かに動かす事も出来ず既に虫の息だ。


「さあ姫、凶悪なドラゴンは我々が打ち倒しましたもう安全です、さあこちらへ……」


 戦士たちのリーダーと思しき戦士が近くの岩場に隠れていた女性に手を差し伸べる。

 姫と呼ばれたその女性はまだあどけなさを残すがとても美しい顔立ちをしていた。

 纏っている薄紅色のドレスがとても似合っている。


「………」


 姫は無言で戦士の手を取る。

 その指先は微かに震えていた。


「お可哀そうに……さぞや恐ろしい目にお会いになったのですね」


「……うっ……ううっ」


 途端に嗚咽を漏らし涙を流す姫。

 視線は倒れているドラゴンへと向けられている。


「見てはなりません、この事は一刻も早く忘れる事です」


「ううっ……ああっ……!!」


 戦士の言葉を受け更に泣き崩れる姫。

 

「おい、姫にお休み頂くんだ、お連れしろ」


「はっ!!」


 姫を部下に預け、戦士は倒れているドラゴンの鼻先に歩み寄る。


「愚かな、ドラゴンの分際で人間の姫を娶ろうなどとは身の程を知れ」


 ドラゴンはまだ息があり、ゆっくりと下方向へ下がる瞼を開き戦士を見つめる。


『……身の程か、確かにお前の言うとおりだな、種族の壁を超えるのは容易では無かったという訳だ』


「安心するがいい、姫は俺が嫁に迎えてやろう、どうせ傷物になった女だ、王家も他国との外交手段としての婚姻に使えぬとあれば姫救出の功労者である俺に喜んで差し出すだろうよ」


 戦士は邪悪な笑みを浮かべる。


『フッ……』


「何がおかしい?」


『お前と私、どちらが愚かなのだろうな』


「うるさい!!」


 戦士は剣をドラゴンの喉元に突き立てた。

 勢いよく吹き出す緑色の血液。


『……お前の、お前たち人間の我への仕打ち、未来永劫忘れぬぞ……』


「恨み言など聞く耳持たん!! さっさと死ぬがよい!!」


 絞り出すようなドラゴンの台詞を遮断し、戦士は突き刺した剣をそのまま振り抜く。

 ドラゴンの頭は胴体から切り離されてしまった。


「木材で台座を組め!! ドラゴンの首を持ち帰る!!」


「ははっ!!」


 部下の戦士たちが一斉に準備を始めた。


「フフフッ……国に帰れば俺は晴れて勇者となるだろう、あばよ愛に殉じた愚かな竜よ……」


 戦士は剣に付いた血を払うと鞘に納め、踵を返しその場を後にするのだった。

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